185話 追い詰められし者達
カリフォルニア州 サンディエゴ 太平洋艦隊司令部
「ここに来て方針変換ですか?」
第五艦隊司令官を務めるレイモンド・スプルーアンスが声を上げる。
「太平洋艦隊はハワイへ向かい連合艦隊と戦えとの命令だ。キング作戦部長は太平洋艦隊の錬度不足を盾に抵抗してくれて居たのだが大統領に押し切られたようだ。更迭も辞さない態度だったということだ」
「現在の錬度はようやく発艦と着艦をこなす程度です。海上を進撃し敵艦隊に攻撃を仕掛け、帰還するまでの訓練はとても十分とは言えません。貴重な人材と機材を失う事になりますぞ」
「それでもやれとの命令なんだ。しかも我々が勝利しなくてもフィリピンへの輸送ともう一つの作戦が成功すればそれで良しとの事だ」
「もう一つの作戦ですか?それは一体?」
「それに関しては私にも知らされて居ない。もう直ぐ作戦の立案者が来るそうだ。来たら拝聴させてもらうとしよう」
やがてやって来た人物の言動に二人は振り回される事になるのをまだ知らない。
>>>>>>>
「この作戦は戦争を終わらせる転換点を生むことになります。貴官らの献身がその成功に繋がるでしょう」
やって来た男は自信満々にそう言い放った。
「そうは言うがグローヴス少将、我々には些か逸り過ぎているように感じられるのだが? 準備も整わぬうちに動くのはどうかと思う」
「太平洋艦隊の皆様には不本意でしょうがご了承いただきたい。 大統領は戦争の早期終結を願っており私にその準備を御命じになりました。そしてその期待に応えここに在るのです」
「大統領は君にいったい何を命じたんだ?」
「画期的な兵器の開発です。一発で都市一つを消し飛ばす高威力の爆弾開発に成功しました。そしてそれを運ぶ事の出来る爆撃機もね」
ニミッツの問いに自信満々に答えるグローヴスの横顔を見ていたスプルーアンスは不意にあることを思い出し声を上げる。
「まさか! 原子爆弾ではあるまいな! 」
「おや? 良くご存知で、流石切れ者と名高い提督でありますな」
「日本のプロパガンダの映画でやっていたぞ! 正気か? あれを使うなどと」
普段の冷静さをかなぐり捨てたかのようなスプルーアンスの剣幕にニミッツも同調した。
「あれを使えば日・英は報復で同じ物を使ってくるぞ、そうなればもうそれは戦争ではない。単なる大量殺戮だ! ナチスの蛮行と変わらない暴挙だ」
これに対してグローヴスは首を振り答えた。
「先に使った者だけが使えるのです。其の威力を目の当たりにした者たちは其の威力に恐怖するでしょう。過ちは二度は繰り返さぬ物です。彼らは報復するより和を請う方を選ぶでしょう」
「それは希望的観測に過ぎない!」
「彼らが諦めぬならば2発・3発目を落とせばよろしい。それにもう断は下されたのです。あなたたちは与えられた役目を果たしていただければ結構ですから」
そうして両者は話が噛み合うことは無く、太平洋艦隊は出撃準備を発令する事となった。
>>>>>>>>
日本本土 戦略情報本部
急遽大神から呼び戻された。何か動きが有ったらしい。作戦司令部に居る本郷中将のところに行く。
「米本土に居る東機関の草たちから緊急電だ。ロスアラモスで動きがあったそうだ。それと同時にグアム・サンディエゴ他の基地でも動きが出ている」
「そうか、仕掛ける気か」
「後シアトルで4発の大型爆撃機がロールアウトしているのを確認した。そいつは……」
「B29か」
「そうだ、奴らが何処を目指しているか、幾つかの候補も判っている」
「対応は?」
「予定通りだ。恐らく此れすらも陽動である可能性があると堀大佐も見ている。無論落とされたら唯では済まない。此方の優位が全て吹き飛ぶ事になる」
「ではやるのか?」
俺が問うと本郷はフッと笑い答えた。相変わらず絵になる奴だ。
「無論だ。既に空軍には移動命令が出ている。迎撃専門部隊だ。それとハワイの連合艦隊、本土で再編中の機動部隊、アッドゥ環礁に集結中の英国東洋艦隊も出撃命令が発令された。そして米国が動いたときに{通し矢作戦}が発動し、続けて{ライトニング・ガーデン作戦}が発動される」
「チャーチル卿も覚悟を決めたか」
「外交筋での交渉は平行線を辿っていたからな。態とオーストラリアとかには参戦させていないのにその意図すら向こうは読んでいないと嘆いていたよ。あるいは読んだうえで拒絶しているのかも知れんがね」
「米国に住んでいる日本人たちは無事なのか?」
「現在は収容所送りにはなっていないよ。大統領はしたがっているようだが州単位では反対も多いし共和党は反対しているからな。最近大統領の議会への影響力が落ちていて法案成立がおぼつかなくなっているんだ」
「後は巻き添えを食わないように密かに組織に情報を流しているので避難の方は行われているんだ」
「そうか、後は始めるだけだな」
こうして英国等の本格的参戦が決まった。
>>>>>>>>
イギリス ロンドン
ウインストン・チャーチル卿はこの日名だたる新聞社等を集めて会見を開いた。
「我が国は国連の常任理事国として今日までアメリカに対し国連が下した勧告を受け入れるように働きかけてきました。その結果、残念なことにお互いの主張は平行線を辿り交わることはありませんでした。ここに我が国は同じ常任理事国で国連決議に基づき交戦中の日本と行動を共にし、世界を混乱に落とすアメリカに武力介入する事を決断いたしました」
この発言にどよめきが起き勇気ある記者がおずおずと尋ねる。
「介入はいつから行われますか?」
「ただいまこのときをもってであります」
こうして英国が参戦する事となった。
意見・感想ありがとうございます。
ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。
あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
読んでいただくと励みになります。
※感想返しが遅れております、申し訳ございません。