第182話 血に染まる満州
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
海拉爾郊外での戦闘でソ連軍はパットン指揮下の戦車軍団の奮闘により多大な損害を受けた。第5親衛戦車軍司令官パーヴェル・ロトミストロフ少将はパットンの猛攻に耐えかねて部隊を後退させると後方から更なる増援を求め反撃の機会を伺っていた。
パットンは戦車隊を追い落とすと無人の野を行くようにソ連軍を切り裂き損害を与えて行く。だがそれは自軍の損害も増えて行くことを意味しその回復はソ連軍とは比較にならないくらい少なかった。それはハイラルより後方の米軍の殆どが旅順要塞攻略に廻されており未だそこから戻って来ていないからであった。
「司令官閣下、戦車砲弾が乏しくなっております。徹甲弾・榴弾共に不足しており大規模会戦があと一回でもあれば完全に枯渇します」
「補給は来ないのか?」
「奉天よりこちら側の備蓄を全てこちらに送ってきております。後は旅順からの便を待つしかありませんがまだ時間が掛かります」
「……」
パットンが参謀の報告に顔を顰めていると別の参謀も発言する。
「燃料も乏しくなっております、ここは奉天方面に引き、新たな防衛線を引くべきです。ソ連軍は一時後退していますが、後方で更なる補給と増援を受けていると報告が入っております。次は前回の倍の数と戦うことになると思われます、それでは我が軍は崩壊します」
「旅順の連中は何をやっていやがる! さっさと日本と手打ちをしてこっちに戻ってこないと満州が無くなってしまうぞ!」
「閣下ご決断を! 陸軍航空機部隊も損耗が激しい為後退したいと言って来ています。制空権が無くなると我が方は上からも攻撃にさらされます」
「仕方ねえ、引き上げる! だが後退は困難を伴う、落伍者を出さないようにしないとな」
「既にハイラル周辺の住民は避難を終えており順次奉天に送っております。我々は彼らが無事に奉天に着くまでは敵を食い止めつつ下がらねばなりません」
「判った」
ハイラルより後退したパットンの部隊をソ連軍は猛追した。それは調整の取れない五月雨的な攻撃となりそのことごとくをパットンの軍団は撃破して行った。
だがそれは弾薬と燃料を失い、兵を疲弊させていった。ついに斉斉哈爾まで来た所でソ連軍本隊に追いつかれた。
「此処が俺様の死に場所か、だが簡単にはやらせはせん、奴らののどを食い破りこれ以上先には行けないようにしてやる」
斉斉哈爾郊外で両軍は激突する。
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「残存兵力はどれくらいだ?」
戦闘が始まって一週間、戦車部隊を存分に動かしてソ連軍を叩いたパットン戦車軍団であったが、そのツケは大きかった。パットンの問いに副官が回されてきた報告書を読み上げる。
「残存戦車30両、兵員1500名が戦闘可能です。重傷者を含む負傷者は先ほどの列車で後送しました」
「そうか、限界だな」
ぽつりとパットンが呟き参謀たちもうなだれた。
「だが、我々は名誉ある合衆国軍人だ。ここで時間を稼がねば斉斉哈爾から先、哈爾浜 (ハルビン)や新京が危うくなる。旅順に向かった部隊が戻るまでなんとしても奴らの進軍を阻止しなくてはな」
見回してパットンがそう言うと参謀たちは動き出すのであった。最後の戦いに向けて。
パットンは自分の指揮する戦車に乗り込んだ。パットン戦車軍団には当初はM4シャーマン戦車のみであったが、欧州での独逸のティーガーやT34の存在を知り、対抗できる戦車ではないと考えたパットンがアイゼンハワーに訴え、まだ本国で試作中の戦車のうちM26E1を満州に進出していたアメリカン・ロコモティブ社に生産させていたのであった。後に制式採用後{パーシング}と名付けられる新型戦車は十分にT34に対抗できたのであった。
M26E1 パーシング
全長8.65m
全幅3.51m
全高2.78m
重量 41.9t
トーションバー方式
速度40km
主砲 50口径90ミリ砲M3
エンジン フォード4ストローク8気筒ガソリンエンジン 500PS
戦車は車体を壕で隠し敵を待ち受ける。其処へ戦車を先頭にしてソ連軍が押し寄せてきた。
後方の砲兵部隊より煙幕を混ぜた砲撃が始まり敵と味方を分ける空間が煙に包まれていく。
「よし! 全車発砲! 突撃! 我に続け!」
最後の突撃が敢行された。
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パットンの捨て身の作戦にソ連軍は対処できなかった。赤軍内での粛清劇と欧州での戦いで指揮官も兵士も経験の浅い者が多く咄嗟の判断が遅れてしまいそれが部隊にとって致命的な事になりがちで在った。
だがそこは数で圧倒的に勝るソ連軍ならではの教育があった。{兵は戦争の中で成長する}として生き残った者達に新しい補充を送ることで部隊の錬度を上げようとしたのだ。数多くの犠牲の上に熟練の兵士たちは生まれ、淘汰される事でごく一部であるが精鋭と言うべき部隊が出来上がり、それらは遂にパットンたちを捉える事に成功する。
短いが激しい砲撃の応酬で遂にパットンの戦車たちは全て稼動不能になる。パットンの指揮車も前面装甲に被弾し動きを止めた。パットンは脱出するも車内を跳ね回った破片に傷つき倒れ伏した。
「此処までか……共産主義者共に死の鉄槌を……」
生き残った兵士が呼びかけてくる声が遠くなっていく感覚を味わいながらパットンの意識は消えていった。
其の直後、ソ連軍の戦車隊の中央で巨大な爆発が起きた。爆発は次々と起き、人と戦車を吹き飛ばしていく。
「あれは! 航空機の攻撃か?」
上空を見上げた赤軍兵士が絶叫する。
「対空戦闘…」 言葉を続ける前に降り注ぐ機銃弾が沈黙を強要する。
次々に落ちてくる死と破壊の礫の前にソ連軍の攻勢は潰えた。
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チタ ロシア軍 空軍基地
「ソ連軍、ハイラル方面に敗走中を確認しました」
「もう少し早ければ米軍を救うことが出来たんですが…」
アレクサンドラ・アシモフ中尉の報告にイリーナ・テレシコワ大尉が補足する。
「仕方ないわよ、本国の連中が石頭過ぎて此方の介入を認めないんですもの。結局満州の現地司令部の独断でうちに要請が来たのよ」
本国に戻り航空団の団長に就任したエカテリーナ・ブラックリー中佐がため息をつきつつぼやく。
「チチハルにようやく機甲師団と第8軍が到着しました。これで一息つけるかと思います」
「旅順なんかに行って痛い目に会ってようやく戻って来たのね。まあいいわ、此方も通常業務に戻るのね」
イリーナが追加の報告書を読み上げるとエカテリーナが容赦ない突込みを入れる。
「通常業務は無いですよカチューシャ」
「あいつら(ソ連軍)こっちにはろくに手出ししてないじゃない」
「緒戦でうちとイスラエルの義勇機甲師団にコテンパンにやられてからですね、司令部がスターリンの怒りを買って粛清されたので指揮するものがおらずに動けなかったという情報がありましたが」
「じゃあ、攻勢を掛ければ良かったじゃない」
「そうしたいんですが、此方もまだ準備に時間がかかるそうで、特に新型戦車の配備待ちのようですね」
「日本のタイプ4ね、欧州でも独逸のティーガー相手にして圧倒してたしソ連相手でも圧倒的だったそうだしね」
「此方の戦線にはISと呼ばれる重戦車が配備されたという情報がはいっていまして、それには従来のタイプ35では苦戦するとのことですね」
「でも不思議ね」
「何がですか?」
質問の意味が判らず困惑した顔をしているイリーナ中尉にエカテリーナは言葉を継いだ。
「だってそんな新型戦車の情報が簡単に手に入るのは少し変よ、いくら諜報機関が優秀でもありえないわ」
「そういえばそうですがお父上の指揮する情報部がソ連中枢部に太いパイプを持っているのではないかと思いますが」
「そうかも知れないけどね。お父様が良く口にする{ソーケン}が怪しいのよね」
「{総研}ですか、確かに良く聞く名前ですが……」
流石にイリーナも総研の真の正体には気がついていなかった。
「お父様は教えてくださらないだろうし、戦争が終わったら調べてみる事にするわ」
彼女が其の正体を知ったのは遥か先の話になったのであった。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
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