第181話 ホワイトハウスの混迷
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この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
ハリケーン作戦が開始された直後に起こったソ連の満州国侵攻はホワイトハウスの住人の感情のダムを決壊させた。ひとしきりの騒ぎの後招集された閣僚を前に主はソ連の侵攻を「あり得ない」「何かの間違いだ、現地の暴走ではないか?」と言っていた。
それに対してコーデル・ハル国務長官は大統領に間違いが無い事を伝える。
「現地の間違いであれほどの大軍が送られる事などあり得ません。満州国はソ連とは国境を接しては居らぬのです、いかに傀儡国家とはいえそれほどの大軍をモンゴルに置く必要などないのですから」
「ではスターリンが裏切ったというのか! あれほど援助したというのに!」
「そうとしか思えませんな、外交ルートからは我が国に居た同志であるゾルゲらを捕らえたからだといっておりますが」
「あれは奴らが国外へ逃げ出したので我々は拘束はしていない」
「勿論、徒の言いがかりでありますが奴らが満州に侵攻したのは事実です。直ちに防衛が必要です」
「直ちに遼東半島に居る部隊を戻さねばなりませんが、日本側がそれを座視するとは思えません、ですが動かせるだけは動かすよう指示を出します」
陸軍長官がそう答え指示を出す為に退室する。それを見ながらハルは大統領に提言した。
「国連が求めているハワイ独立の協議を行い事態の収拾を図ってはいかがでしょう? これ以上日英を相手に戦う訳には参りません。国民が納得しませんぞ」
「少し考える時間が欲しい……皆席を外してくれ」
大統領がうつむきながら搾り出す様な声に部屋の中に居た者たちは全員退室した。
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ルーズベルトはしばらく頭を抱えていたがやがて電話を持ち呼び出しを掛ける。
暫くすると壮年の軍人が部屋に入ってきた。
「グローヴス君、マンハッタン計画の進行状況はどうだ?」
「はっ! 多少の問題はありますが概ね計画通りに進行しております。試作一号爆弾をニューメキシコのホワイトサンズで爆発実験を行う所まで来ております」
ルーズベルトの厳命でテネシー州のオークリッジで行われていたウランの濃縮はその完成を急ぐあまりに放射能漏れ事故を起こしていたが問題にされておらず住民たちにも知らされていなかった。其の為後に問題となったがこの時点では放射能による健康被害が判っておらずそのままになっていた。
「急がなくてはならん、実験成功後直ちに使用を前提とする」
「そこまでお急ぎに……目標は何処に? 爆弾の重量は5トンもありますから運ぶのにも落とすにせよその手段が問題になります」
「日本本土へは?」
「難しいですな、爆撃機の航続距離が問題になります。グアムからでは遠すぎて届かないでしょうし、母艦艦載機では重量オーバーです。満州国か保護国で基地のある朝鮮からならば余裕ですがそこまで本土から運ぶ術が問題になりますな。艦船で輸送するしかありませんがそれが沈められたり奪われたりする可能性があります」
「うむぅ、それは不味いな」
「それよりも有効な使い方があります」
「それは! どうするのだ」
「はっ、それは……」
其の提案に最終的には頷く大統領であった。
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コーデル・ハル国務長官はソ連側の大使を呼び抗議を行っていた。
「貴国の行いは外交慣習上許されざる行為である。直ちに満州国から兵を引くように」
「お言葉ですが、我が国は貴国と戦闘行為を行っているとは認識しておりません、そもそも満州国は独立した国家のはず、貴国の一部ではありません」
「詭弁を弄さないで貰いたい。我が国と満州国は安全保障条約を結んでいる同盟国だ。貴国のやっている事は我が国に戦争を仕掛けているも同義だ」
「では我が国としては貴国に勧告しなくてはなりません。満州国との条約を白紙に戻し軍を引き上げる事、そもそも太平洋を挟んで遠くの国を支配するなど土台無理だったのです。放って置けば日本やロシアの支配下に置かれるでしょう。其の位ならば我が国が有効に使わせていただきます。今回はロシアも潰します。勿論其のあかつきには、日本攻めの支援をさせていただきます」
「あまり合衆国を舐めないで貰いたい。我々が屈する事は無い」
「吠え面をかかなければ良いですな!」
言いたいだけのことを言って帰っていく大使にハルは睨みつけるだけであった。
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日本本土 戦略情報本部
「ホワイトサンズで動きがあった。どうやら例の物の実験を行うようだ」
本郷中将が米本土に残留している東機関の工作員からの報告書を見ながら顔を顰めている。俺の顔もしかめっ面になっているだろう。
「かなり早いな、科学者達は相当引き抜いたんだが……」
「どうやら安全対策がかなり疎かになってるようだ。オークリッジでは放射線漏れ事故が何度も起きているようだ」
「原子炉が炉心溶融するかもしれんな」
「報告ではそれの一歩手前までになっていたそうだ」
「オークリッジには人も住んでいるんだろ、そんな所でやるようなことじゃないぞ」
「連中、ともかく作ればいいという感じの急がせ方だったそうだ、何としてもこの戦いで使いたいんだろう」
「迷惑千万な奴だな、うちのほうはどうなっている?」
「北千島の中にある小さな島を射爆場にして実験している。今度融合型の実験が行われるはずだ」
「使いもしないのに実験は進むか……こいつを最初に落とした国は悪魔に魂を売ったとして永遠に言われる事になるぞ。例え今はそうでなくてもな」
「そうかもしれん、だが落とされるわけにもいかんだろう」
「ままならんものだな」
「そうだ、だからこそ奴らには教えてやらんといけないだろうな、手にしたおもちゃがどれだけ恐ろしい物なのかをな」
凄惨な本郷中将の笑顔がとても怖かった。
「{通し矢作戦}の発動が決まった」
「それは……」
「ルーズベルトは国連の決議にも従わず世界を危険な領域に追い込もうとしている。チャーチル卿も肚をすえた。続けて{ライトニング・ガーデン}作戦も発動される」
乾坤一擲の刻が迫ってきたようだ。
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