1話 譲(おれ)はニクロム線
今後の登場人物が結構マイナーになりそうです。
最も歴史って無名の大多数の人たちが動かしているんですけどね。
※ 11/22修正
目の前に広がるのは知らない風景だ、どうやら天井らしい。
「ここは?」
「おおっ目が覚めたか!」
大声で喚かれると頭がガンガンする。
「何なんだ!」
わめきそうになると大声の主の横の白衣の女性が声をかけてきた。
「平賀様、ご気分はいかがですか?」
「ここは……?」
「ここは病院です、覚えて居られるかは判りませんが、あなたは先日ここに入院したのです、そのことはご理解いただけましたか?」
なるほど、そして大声の主は先生だな、白衣着てるし。
「どうした、まだ頭が痛むのか?」
俺が下を向いて考えていたのを具合が悪くなったものと解釈したらしい。
俺が考えていたのはこうなることになった原因についてだが、そのことで少々どころではない混乱に陥っていた。
原因と思われる事柄が二つも存在するからなのだ。
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一つはこの病院に担ぎ込まれた直接の原因、俺が階段を踏み外し転げ落ちた記憶だ。
あの時は深く考え事をしていて前を見ていなかった俺の落ち度だ。
もう一つは爆発だ…振り返ったときに見えた閃光と熱、そして体に突き立っていく物、痛いとかは不思議に感じなかった。
「でもあれでよく生きてたな」
俺は思わず独り言をつぶやいていた。
「なんか言ったか?」
「あ?いえ!」
ベッドから見える範囲に鏡が無いため判らないが、少なくとも腕や体には傷らしき物は無い、あれだけの爆発の至近にいてよく無事だったなと思ったが実は最初の階段から落ちたほうが正しい気がする。
看護師らしい女性がそういったからだけではない、自分の頭には包帯が巻かれておりそのほうがしっくりするのだ。
では後の記憶はなんだろうか?
そう言ったことを取り止めとなく考えていると医者が声をかけてくる、相変わらず声がでかい。
「意識はしっかりしとるんか?まずは名前を言ってみい」
「平賀譲」
そう無意識に答えて固まった、俺の名前はそんな名前だったのか?
「うむ、記憶の方は問題ないようだな、体のどこかが痺れたり感覚が無いとかは無いな」
「無いですね」
医師の問診に応えながら考えていた。平賀譲という名前には覚えがあった、それもある道での有名な人物としてだ。確か工学者として海軍で軍艦建造に関わった人物だ、前に見たネットの経歴を思い出す。
ん?ネットって何だ?詮索は後にしよう。
まあいい、とりあえずその中に書かれていた内容を思い出そう。
確か、明治の初めに生まれたはずだなと思っていると目の前にするすると文字が並んで見える、目の前の医師は驚かないのでこれは俺にしか見えてない様だ。
平賀譲
1878(明治11年)3月8日生まれ1943(昭和18)年2月17日没
海軍軍人、工学者、華族 海軍技術中将、従三位男爵…
経歴とその人隣などが羅列されている。
渾名が「ニクロム線」「平賀 不譲」など散々だ。
相当偏屈な人物らしい、俺のことだがな……渾名のついたエピソードは相手が誰であれ意に沿わぬことには従わずすぐかっとなって相手を怒鳴りつけるなどしたらしい。
「こりゃ確かに散々だ…」
「なにか言ったか?」
「いや、なんでもないです」
どうやら声に出していたようだ、いかんいかん。
「単なる打撲のようだな、それくらいで済んで運がよかったな、だが頭部なので少し安静に今日はこのまま入院だ」
そう言って医師は診察を終えた。
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再びベッドで横になり天井を見上げる。
見ているのは天井ではなく中空に浮かぶ文字を追っている。
読んでいくにつれて出てくるのはため息ばかりである。
「俺ってなんか困った小父さんじゃないか…」
経歴を見ていくと各方面に敵を作り煙たがられて左遷されてもお構いなしに計画書を各方面に送りつけたして現場を混乱させたりしたようだ、それよりも気になったのは自分の最後だ……これは嫌だな。
「なんとかしなきゃ(主に自分の事だが…)」
俺はどうすればいいのか考え始めた。
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