第177話 悪足掻きと未来の話
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この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
合衆国 ワシントン ホワイトハウス
ルーズベルト大統領がハワイ失陥を知った時には既に全てが終わった後だった。
コーデル・ハルが駆けこんで来た時にはまだ余裕があった彼もハワイ島の陥落とキンメルの指揮する太平洋艦隊の敗北を知った時には顔面蒼白であった。
「何故、何故奴らはハワイを落とすことが出来たんだ! ハワイは難攻不落ではなかったのか!」
その権幕を恐れ集まった側近たちは言葉も無かった。その中で敢然と言葉を発した者が居た。
「大統領閣下、こうしている暇はありません、やることは山積しております。早く手を打たねばなりません!」
「ハル君……」
「先ずは情報の収集です、ハワイは現在どうなっているのか? 太平洋艦隊は? 西海岸の州に備えさせねばなりません。そして国民への説明です」
「説明か?」
「はい、国民へこの度の事態を謝罪し、これからどうするかです、戦うのか、和を結ぶのか? それによって色々な事が変わります。外交もそうです、英国が日本に付きました。そうなれば英連邦の国々も続くのか? その時には我が国は国境を接するカナダに備えねばなりません。そしてオーストラリアやシンガポールなど太平洋の要地の殆どは英国が抑えています。フィリピンや満州国が孤立しますぞ、そして大西洋側もです。我が国は嘗て無い危機にあります」
「和を結ぶなどありえない! 我が国はこの戦いに勝利し世界の秩序をこの手に掴むのだ!」
「! ……であれば大統領閣下、打つべき対策は直ぐにでも打たねばなりません、そして直ちに其の意思を伝えてください。この国を愛する国民達に」
自分の勧める最良と思える提案を蹴ったルーズベルトに内心で舌打ちをするハルであったが其の事を感じさせぬ所作で提言を行った。例え其の行為が徒の悪足掻きでしかないとしてもそれが大統領のブレーンとしての使命であると考えての事であった。
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ハワイ王国 オアフ島 真珠湾
ハワイ王国の再興が認められた所で出向く事になった。一応真珠湾の元米軍の施設の視察という事なのだが急いで行く必要があったのだろうか?本郷中将が飛行機を操縦したいからじゃ無いかと疑いたくなるな。
実際ここに来るときの機体はまたもや試作機だったしな。千葉県の成田に新たに作られた飛行場に行ったときのことを思い出す。
「こいつは……ターボジェットエンジンか!」
「そうよ、遂に完成したのだ!」
めっちゃドヤ顔の本田宗一郎が指差すのは双発機である。長さは30メートルを切る位であるがレシプロやターボプロップのようなプロペラは付いていない。ジャンボジェット機を知る俺からすれば小型機なのだが、この時代だったら大きい部類になるのだろうな。
傍に居た藤沢に話を聞くと今回はエンジンも完全に自製しようとしたがタービンがどうしてもうまく出来ないのでまたもやIHIに頼んだという。宗一郎は自社の技術者に怒ったが、専門の仕事は専門のところに任そうよ……藤沢も同じ考えであったらしく宗一郎の説得は彼が行ったようだ。「ええ、言葉ではなく物理で……宗一郎にはそれが一番だと判りました」とか怖い事を呟いていたが聞いてない振りをするのが妥当だろう。
だがここでタービンジェット機か、戦争が終わった後は民生用で需要があるのを見越して作ったんだろうな、前世でもホンダはジェット機を作っているが宗一郎の願いであったとも言われてるしこの世界では生きてる間に夢がかなったというとこだろうか?
そんな事を思い出しながら船渠周りを見回すと此方の戦艦が停泊しているのが見える。
「陸奥は此方の船渠で直すしかないな。土佐は被雷した所の修理もあるから此方で、後は日本に帰ってからにした方がいいな」
目の前のドックには戦艦ペンシルバニアが駆逐艦2隻と共に入っているがこれは引き出して陸奥を入れるつもりだ。
陸奥は前世でも酷い目に会ってるが今回も最悪ではないが被害は甚大でよく持ったものだな。沈めずにここまで持ってこれたのは工作艦と曳航用の作業艦を用意しておいたのがよかったようだ。
土佐は最後の辺りで突撃してきた駆逐艦の雷撃で被害をうけたそうだ、向こうの駆逐艦乗りには勇敢な人材が揃っているようだ。吉川潔大佐が追ったが引き返してきた殿の艦に妨害されて数隻取り逃がしたそうだ。
「大和以下は日本に戻して修理と整備か?」
本郷中将が聞いてきたので頷いて答える。大和は11発も40センチ砲弾が命中したが半分以上は弾き返している、残りはバイタルパート以外に命中した物で破損はしたが艦の行動自体に問題は起きていない。応急措置で日本までは帰れるだろう。
「代わりに本国で整備していた欧州帰りの連中が此方に来るからな。後ハワイ海軍向けの艦艇も第一陣が来ることになっている」
「なるほど、予定通りだな」
ハワイ王国も自前の軍隊を整備する事になっていて海軍は軽巡洋艦と駆逐艦から始める事になっている、当面は日本海軍が教育係として付く事になるけどね。
「だがイギリスなどは問題ではなかったのか?」
「何がだ?」
「ハワイは併合という形だったが植民地支配をしていると言われてもおかしくは無い、其の解放を唱えておきながら植民地を持っている英国はどうなんだと言う批判が出るだろうし、インドなんかで独立唱えている連中はどうするんだ?」
「まあ、それは一応対策済みだ、チャーチル卿とかと打ち合わせもしてあるよ」
本郷中将の話では英国貴族でチャーチルの側近である彼のもう一つの顔であるジェームズ・ブラッカリィ子爵として欧州各国と植民地独立派の間を動いて調整したんだそうだ。
「ハワイを皮切りに植民地独立援助プログラムを国連主導で行う事になったんだ。ハワイがそのモデルケースになる」
独立戦争等が起こるとお互いに得る物が無いのでソフトランディングに持っていくようにするそうだ。植民地側のインフラや教育の整備、本国側の依存状態の解消などを図りお互いが利益になるようにするということだ。全てうまくいくとは思えないが前世よりはマシになるのではないかな?
「其の為にはまだまだやらなくてはならない事が多いんだがな。インドの方は独立準備政府が立ち上がる事になっていてないずれ国軍となる部隊も編成中だ」
本郷中将の話ではインドはカーストなどの問題もあるのでその辺の対応も話し合い中だとか、うまくいってほしい物だ。
「アメリカの方はどうなんだ?」
「大統領はまだやるつもりだが野党共和党は戦争非拡大を唱えて全米でデモを起こしている。次回の大統領選の候補であるトーマス・デューイが旗頭だな。だが大統領は海軍長官のフランクリン・ノックスに命じて太平洋艦隊の再建とハワイの奪還を命じている。それと海軍作戦部長を更迭して其の後釜にアーネスト・キングをつけた」
「まだやる気なのか」
「まあな、カナダとの国境にはアメリカ陸軍が集結していてにらみあいだ。アメリカとしてもイギリスとの全面対決はいやな筈だからな。フィリピンや満州が孤立する事になる。イギリス側はハワイ開放を受け入れればこれ以上は戦争に踏み込まないと外交チャンネルで申し入れている。その辺で大統領のブレーンの間でも意見が割れているようだ」
「其処までしてもまだやりたいのか」
「頼れる同志がいるからだろうな、だが実際頼れるかどうかは怪しいが」
本郷中将が皮肉なニュアンスで答える。本当にここらでやめてもらいたい物なのだがな。まあ無理な話なのかもしれないが。
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