172話 ハワイ沖海戦その10
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其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
第二艦隊旗艦大和 司令塔内
「敵二番艦第六斉射、後部重要防御区画に命中、損害軽微」
「一番艦第七斉射、第一砲塔天蓋に着弾、弾きました。損害軽微」
「此方の方は未だ挟叉できないのか!」
ある参謀の叫びに黛参謀が悔しそうに答える。
「残念ながら、未だ出来ておりません、米軍の砲術錬度の高さがここまでとは、正直見誤っておりました」
「執念だな」
ポツリと宇垣司令長官が呟く。
「我らに大和魂があるように彼らには開拓者精神がある。なめて掛かってはいかんと言うことだ」
其の言葉に司令部はしんと静まり返り外の砲戦の音だけが響いた。
其処に呼び出しの電話のベル音が響き電話を取った士官が振り返る。
「両用砲長からです! 意見具申だそうです」
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太平洋艦隊旗艦 ノースカロライナ
「敵5番艦脱落!」
見張り所からの連絡に司令部は沸き立った。
「司令! このまま行けば後ろから敵艦隊は削っていけますな、事前の打ち合わせ通りに推移してますぞ」
「油断するな、敵1番艦、2番艦は色々おかしい。あれは18インチ砲艦なのではないか?」
キンメルの言葉に参謀たちは顔を引き攣らせる。信じたくなかった事を指摘されたからだ。
「さっきから此方の砲撃が命中しているのにたいして効いて居るように見えん、日本海軍のドクトリンは搭載している主砲の砲撃にバイタルパートが耐えられるように設計されているはず。ならば16インチを受け付けぬあの艦はそれ以上の砲を積んでいるということだ」
「では向こうの弾が命中すれば!」
「この優位も長くは持たん、命令変更、全艦敵1番及び2番艦に攻撃を集中せよと」
「はっ!」
其の時、敵1番艦の舷側で多くの発砲炎が立ち上がった。
「何だ?」
「舷側からですので小口径の副砲ですな、此方の装甲を貫く事はできますまい」
「だが、いまさら何の為に」
その答えの代わりのように彼らの目の前に紅蓮の大花が咲いたのだった。
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ワシントン 艦橋上部見張り所
それはいきなり起こった。
目の前に広がる紅蓮の焔。見張り員は手にした双眼鏡を取り落とし物陰に隠れようとする。
だが熱波がそれを許さず巨大な炎は辺りを嘗め尽くした。そして降り注ぐ鉄の礫。
一瞬の内に其処は廃墟と化し動く物は居なくなった。
「見張り所及び艦橋からの通信途絶!」
「両用砲砲座、応答せず」
「何が起こった!」
ワシントンの司令塔内のCIC(中央作戦室)には悲鳴のような報告が続々と寄せられてきた。
そして更に致命的な報告が為される。
「主砲への測距儀からの指令が途絶しております、恐らくは……」
「やられたというのか?」
「砲塔各個でやってもらうしかあるまい、精度は落ちるがやむおえん」
其処に特大の衝撃と金属の壊れる音、爆音が襲う。
「今度は何だ!」
「敵主砲弾の命中です。本艦は敵に挟叉されました」
「……」
絶望がCICを襲った。
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大和 射撃指揮所
方位盤射手の村田特務中尉は非常な焦りを覚えていた。
(此方は一方的にやられっ放しだ、噴進弾が先手を取って敵艦撃沈の功を挙げたのに肝心の主砲が敵に先んじられるとは! 何とかせねば)
今の所大和の被害は軽微であった。重要防御区画に命中した弾は弾いたがそうでない部分は貫通され破壊されている。大和が軽微な損害で済んで居るのは従来艦よりもより広範囲に重要防御区画を設けているからであった。特に機関部や舵機には十分な防御を払っており敵の砲弾から守ってくれている。
(だがそれも安全距離内での話だ。それを割り込めばどうなる事か)
考えたくも無い事態に顔を歪める。
「新型の自動計算機に光波測距儀、訓練通りには使いこなせなかったか」
竣工してから訓練に明け暮れる毎日であったが実戦では其の通りに行かない物だと村田は痛感した。
気を取り直し次の発射準備をしていると敵に向いている舷側の両用砲群が射撃を開始した。
「奥田さん、不甲斐ない俺たちに怒ってるんだろうな」
彼が大先輩と崇め何時かは辿り着きたいと思っている両用砲長が焦れて敵わぬまでも一矢報いようとしているのだと考えた。
其の両用砲弾が着弾したタイミングで敵一番艦が紅蓮の焔に包まれたのを見るまでは。
「なっ! あれは? 三式弾!まさか……そうか!近接信管の特性を利用したのか!」
村田は流石に奥田が眼を掛ける弟子であった。師匠が気付いた事に瞬時に辿り着いた。
「近接信管だから至近弾でも問題ない、焼夷弾と弾片で艦上は酷い事になっている、艦橋トップの射撃指揮所も予備の指揮所も、恐らくレーダーも。そして眼を潰されたら狙いは定まらない。後は此方が当てるだけだ!」
そう言って村田は引鉄を引いた。
発射された砲弾は2発は遠弾と近弾となったがもう1発がワシントンの船体を捉えて装甲の厚くない其の部分にめり込み、信管を作動させた。
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