169話 ハワイ沖海戦その7
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この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
空母 レキシントン
「副長、弾薬庫に火災が迫っております。消火用のポンプが動かず、消す手段がありません!」
「燃料が漏れ出し引火しております、艦内温度上昇、機関要員が熱で倒れております」
各部から報告を受けた副長は司令官のハルゼーに向き直った。
「司令官、残念ですが此の艦の命運は尽きました。総員退艦を命じます」
「了解した、無事な艦に救援を依頼したまえ」
「はっ、既に駆逐艦シムスとオブライエンが来ております。司令官も移乗をお願いします」
「判った」
ハルゼーはそう言って半壊した艦橋から炎と煙を上げる飛行甲板を見渡して呟いた。
「我々の完敗だ」
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約2時間前
友永隊の発射した噴進弾は低い高度を取りながら目標へ向かっていく。艦隊の外周を守っていた駆逐艦がそれに気がついた時には目前にまで迫っていた。
両用砲の指揮官が発射を命じるより早く殆どの噴進弾はその陣形の内側に入り込み不運な艦は噴進弾が直撃した。
内周に居た艦も同様で殆ど撃つ事も無いまま噴進弾を迎えることとなった。そして艦隊で一番大きな熱源を持つ空母に次々と命中していった。
先ず、一番に近くのレキシントンの左側から飛来した物が命中していく、巨大な煙突は熱源探知に盛大に掛かったようで3発が命中、爆発で煙突は基部から破損し周囲は噴進弾の余剰燃料による火災が広がっていく。少し外れた3発は飛行甲板中央と艦尾に命中し、爆発とともに火災を発生させる。
友永達の吊っていたのは三式空対艦誘導噴進弾、元々は大和などが積んでいる艦対艦だった物を艦上攻撃機に積める様に全長を短くし軽量化した物だ。だが推進剤を減らして射程を短くしていても弾頭の炸薬量は変わっておらず威力は十分すぎる程だ。
又、他の艦上攻撃機部隊も友永隊とは別方向から攻撃を開始している。之は噴進弾が持つ弱点、熱源の強い目標に優先的に命中する事からそれを防ぐ為の戦術である。発射のタイミングを阿吽の呼吸で合わせられるのは友永少佐が言っていた錬度の高さゆえである。更に艦上爆撃隊はより軽量な二式空対艦誘導弾を中高度から発射している。炸薬量が少ないので重装甲の艦には通用しないが空母や巡洋艦までの艦ならば十分通用するので問題は無かった。
そして第三艦隊の戦闘機搭乗員たちは実戦経験豊富な熟練パイロット達で、防空任務に就いていた新型F6F戦闘機隊を簡単に蹴散らした。其の為攻撃機・爆撃機供に簡単に敵を十分な射程内に捕らえる事が出来たのであった。
この攻撃でエンタープライズは航空機弾薬庫に命中弾があり誘爆を起こして僅か15分で沈み、ホーネットは誘導弾の残存燃料が引火して大火災を起こし総員退去が始まった。ワスプは、レキシントンに次いで運の良さを見せていたが機関部に命中したのが致命傷となり沈んでいった。
ヨークタウンも見逃して貰えずに沈み、太平洋艦隊の所属空母はすべて失われた。
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「無念だ」
駆逐艦シムスに拾われたハルゼーは火傷の治療を受けながら呟いた。脱出する時に軽くない火傷を司令部要員たちは受けていた、艦長は噴進弾の弾片に胸を裂かれて死亡し無傷の者は殆ど居なかった。
「司令、スプルーアンス提督の部隊と連絡が付きました、こちらに合流するそうです」
「無事だったか、兎も角合流を急ごう」
そうして数時間後彼らは合流する事に成功した、その間敵の航空機の攻撃は無くその幸運を皆喜ぶのであった。
「御無事でなにより」
スプルーアンスの座乗するノーザンプトンに移乗してきたハルゼーにスプルーアンスが声を掛ける。
「笑ってくれても良いのだぞ、俺は惨めな敗軍の将だ」
「御命があればリターンマッチも出来るでしょう。ですが今は皆を連れてハワイに戻るのみです」
「そうだったな、俺はこの通り負傷している。この艦隊の指揮は貴官が執ってくれ」
「司令……」
「兵たちを故郷に返してやろう、そのためには貴官の見識と指揮が適切だ」
「判りました、指揮権を引き継ぎます」
こうしてハルゼー残存艦隊はハワイを一路目指す事となる。
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時間的にはハルゼーたちが攻撃を受けている頃
キンメル艦隊は遂に日本艦隊と遭遇した。
「距離3万メートルを切ります、砲戦準備良し」
「此方の戦力はどうなっている?」
「メリーランドは救えませんでした。浸水が多すぎたのです。コロラドは第三砲塔が使用不能、対空砲座も半数がやられました、テネシーは主砲は無事ですが艦橋が破壊され指揮に支障をきたしております」
「他の戦艦は損傷は軽微です、巡洋艦はブルックリンとホノルルが撃沈、ソルトレイクシティ・セントルイス・ヘレナが大破、戦闘に耐えられる状態に無い為ハワイへ引き返させました。ボイシは小破で応急修理は済んでおります。駆逐艦はベンソン・メイヤー・ラフィーが撃沈、ラドフォードが小破しております」
「彼我の戦力差はどうだ?」
「戦艦の数では我が方がまだ一隻優位ですがコロラド・テネシーの損傷もあり互角という所でしょう。巡洋艦は5隻喪失・脱落しましたが我が方が優位です。駆逐艦の数も十分対抗できます」
「そうか、では予定通り行動する。敵艦隊との彼我の距離が攻撃距離に入る直前に面舵を取りT字砲戦に持ち込む、巡洋艦・駆逐艦は敵の補助艦を叩け」
「ハッ!」
こうしてキンメルは戦う事を決断した。ここまで来て引くわけにはいかなかったのと、戦艦の数が今だに上回っていたので勝負になると考えてのことであった。
キンメルの指揮する艦隊に属する第43駆逐隊は命を受けて艦隊の先鋒として一番前にいた。
其の旗艦エリソンに座乗するのは出撃前に司令官に任命されたアーレイ・バーク中佐である。彼は先に行われた噴進弾攻撃の時にも怯まず迎撃を敢行してワシントンに向かう一発を撃墜している。
「本隊から命令が下れば我々は敵艦隊に突進し敵の水雷戦隊と交戦する。戦艦部隊に砲撃を専念してもらう為奴らを近づけさせるなという事だ。だが……」
「敵主力に肉薄する訳ですか」
「そうだ、そして奴らに魚雷をプレゼントしたいと思わないか?」
「いいですね、たっぷりと呉れてやりましょう」
彼らの士気は高かった。
こうしてハワイ沖の海戦は最終ラウンドの鐘が鳴るのであった。
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