165話 謀略と謀略
7月28日修正
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
満州国 ハルビン
「久しぶりだな、随分と御活躍のようだな」
「そちらこそ、よくも無事だったな」
「伊達に{皇帝の影の手}はしておらんよ、今の身分はNKVD(内務人民委員部)の職員だ……正確にはついこの間までだ。今はベリヤによって粛清されたニコライ・エジョフの部下として一緒に粛清された事になっている」
「つまり君は幽霊か」
「そうだ、幽霊やゾンビなどはアンデッドと言われて一応不死らしいが私もその仲間入りというわけだ」
幽霊扱いされているこの男は嘗て革命により消されるはずだったロマノフ家の人々を脱出させて本郷に託しイギリスに亡命させた人物であった。軽口を叩き合いながら久闊を叙する二人であったが真顔になった幽霊の男は本題に入った。
「中国共産党の幹部達が粛清された」
「ほう、毛沢東や周恩来、林彪たちか?」
「そんな大物は当然だが鄧小平のような若手や江青のような毛沢東の妻までスターリンの命で死刑になったのさ」
「確かモンゴルにいたはずだな」
「国民党の蒋介石の北伐を受けて逃げ込んだところを一網打尽だ、スターリンやベリヤに毛沢東たちが現状に不満を持ち反乱の兆しありと吹き込んだのはお前さんだろう」
「なんだ、ばれてたのか」
「知っているのは{影の手}の連中だけだ、我々は彼らの疑念が確になるためのお手伝いをしたに過ぎない」
「どおりでうまく行き過ぎると思ったよ」
「まあ、それはそれとしてだ、ここからが本題になるのだが粛清された奴等の代わりはモスクワに留学していた連中なのだがそいつらと共にソ連軍の大兵力がロシアとの国境沿いとモンゴルに集まっている。公称100万実際はそれ以上の大兵力だ」
「あれだけ欧州で殺されてよくもまあ集めたものだな」
「あの国は党への忠誠の名の下にはどんな無茶でも通るのさ、それで村の働き手全てを失ったり、親兄弟全て徴兵されてもな」
「反吐が出そうな話だな」
「奴らからすれば党への忠誠が怪しい奴を粛清するいいチャンスな訳だな、特に反抗的な少数部族などは最前線で磨り潰す気だ」
「奴らなりのメリットがあるというわけか」
「だが奴らの真の目的は違う、彼らの欲する物それは此処だ。この満州国を攻め落とし彼らの悲願を達成するというわけだ」
「なんとまあ、あいつ等にはアメリカ合衆国様に散々世話になっておいて恥というものを知らんのかね?」
「ナポレオンの言葉を借りれば奴の辞書には恩義とか報恩とかの言葉は無いのさ」
「なるほど人面獣心とは奴の事を言うのか、小説でしか使わない言葉だと思ってたよ」
「違いない」
情報の交換を終えた二人はお互いの進む方向に分かれようとしていた。
「これからどうするんだ?」
本郷が尋ねると幽霊の男は笑って言った。
「私はロシアの為、いやロマノフ家の為に生きてきた、今もそれは変わらんさ、ロシアに行き微力を尽くすだけだ」
「そうか、スターリンを倒すときは協力を頼むぞ」
「任せておけ、{皇帝の影の手}は奴を捕捉し続けている」
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イスラエル テルアビブ(旧ウラジオストク) モサッド本部
「ソ連は、モンゴルを経由しシベリア鉄道を使い満州国からアメリカの支援物資を受け取ってきました。ところが最近は本国へ物資を届けた帰りの列車にソ連軍が乗っておりその数は急速に増大しております」
局員が配った航空写真には駅の周りに屯するソ連軍機甲部隊が写っている。
「モンゴルに駐留しているソ連軍の数は?」
「現在50万を超えると思われます」
その声に座っていた局員たちから溜息が漏れる。
「てっきりロシアに侵攻するものだと思っていたがまさか満州国が狙いだったとはな」
「恐らく日米開戦を待っていたのでしょう、開戦となれば在満アメリカ軍は南下し旅順攻略に付くはずです、いえ、すでに殆どの部隊は南下しておりモンゴルとの国境には満州国軍の国境警備隊が居るだけです」
「彼らが満州国のみで満足するか?」
「しないでしょうな、満州へ侵攻と同時にロシアへも攻撃を開始するでしょう、こちらにも50万以上の兵力が張り付いていますし現在も増強中です。そしてその先はわが国に来るでしょう」
「だろうな、スターリンは常々この地を{奪われし我が国土}と呼んでいるからな、ソ連から奪った事は一度も無いのだが」
「奴の頭の中の認識の違いでしょう。ですがこれは問題です。アメリカはこれを認識しているのですか?」
「どうやらロシアを攻めると説明を受けていてそれを真に受けているみたいだな」
「まるで危機感がありませんな、どうします?」
「もちろん軍には動員をかけてもらう、後は日本やロシアと協議しなくてはな」
「アメリカに居る同胞たちにも伝えましょう、せめて満州国内から逃がさねば」
ハワイで日米が激突している間に極東の地でも緊張は高まっていた。
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