164話 ハワイ沖海戦その4
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
重巡洋艦 ノーザンプトン
「レキシントンより信号! {貴艦の幸運と任務の成功を祈る、必ず戻れ!}以上です」
「レキシントンに返信、{必ずの帰還を確信す、後ろは任されたし}以上だ」
ハルゼーの艦に対して最初に発見した機動部隊からの攻撃は全て爆撃機によるものであった。だがその攻撃は水平爆撃でも急降下爆撃でもなく離れた位置からの噴進弾による攻撃であった。
其れは第四艦隊側では苦肉の策であった。戦時急増として戦時標準船をベースに建造された飛鷹型六隻に載せるには熟練搭乗員が不足しており搭乗員養成課程を修了したばかりの新人が多数を占めていたのだった。隊長クラスは流石に兼子大尉のようなベテランを持ってきていたがそれが精一杯だった。ちなみに兼子大尉は前職が翔鶴の制空隊長だったのを引き抜いて当てている。
この事態は欧州で戦争が始まる前から問題になっておりいち早く気が付き真っ青になった空軍の源田實少将が対策に狂奔し女性搭乗員が誕生する切っ掛けになったりしたのだが、彼が動き出す前から搭乗員養成機関の拡大と募集の強化が始められていたのは例によって{総研}が絡んでおり所謂{総研案件}となっていたのであった。
また養成だけでなく搭乗員の救助にも力を入れており、敵地に不時着した搭乗員を救助に行く特殊部隊まで存在していた。搭乗員たちは上官から{飛行機や艦船は直ぐに代わりは作れるが搭乗員は時間と金が掛る。決して安易に死んではならない}と口うるさく言われるようになっていた。
その為肉薄しての爆撃などもっての外でその為に誘導噴進弾のお披露目が行われたのはハルゼーたちには逆に不幸の始まりと言って良かった。
第四艦隊から発進した部隊は戦闘機九十六機、爆撃機七十二機で防空隊を突破したのが六十六機でそこで噴進弾が発射された。
発射された噴進弾の内故障と対空砲火によって八発が失われたが残りは目標に向かって命中した。
艦隊の外郭を守る護衛部隊がまず被弾した。噴進弾は熱源探知で一番熱を発している部分を狙って命中していく。護衛部隊の指揮を執っていた軽巡洋艦アトランタは四発の噴進弾を万遍なく受け、炎上した。命中時に残っていた噴進弾の燃料が引火した為である。
そのまま鎮火の見込みが無く、放棄・自沈した。さらに駆逐艦エリソン・マコーム・グウィンらに数発ずつ命中し、エリソンは横転沈没しマコームは艦中央部から真っ二つになって沈んでいき、グウィンに至っては複数の弾庫が誘爆して船体をバラバラにして轟沈した。
より大型の空母にも被害は集中した。ホーネットは飛行甲板に3発食らい後部エレベータを破壊された上、甲板が大きくめくれ発着艦が不可能になった。ヨークタウンは機関部区画と艦橋に命中し速力が12ノットまで落ちた上指揮を執る艦長以下艦橋要員を失い、エンタープライズは飛行甲板に満遍なく4発の命中弾を受け全てのエレベータが破壊され戦闘不能となる。
一番運に見放されたのはサラトガであった。彼女には実に8発の噴進弾がこれでもかとばかりに命中し、飛行甲板とエレベータを破壊した。更に爆発でガソリンタンクが壊れ誘爆、火達磨となり放棄された。
ハルゼーの座乗するレキシントンは一番運が良かった。彼女には1発しか命中しなかったし、飛行甲板の先端部だったので速力や艦の指揮には問題が生じなかったのであった。
「飛行甲板の方はもうすぐ修理が終わります」
「使えるようになったら直掩機を交代させろ、他の艦の機体も降ろせ、どうせ攻撃隊の分が空いているはずだ」
「ホーネットの方は飛行甲板の修復が終われば何とか発着艦は出来ますからあちらにも降ろしましょう、後の艦はひたすら真珠湾を目指してもらいます」
参謀長の言葉にハルゼーは眉根を寄せる。
「だがそれでは攻撃隊はどうするのだ?」
「1次攻撃隊は収容できます、2次攻撃隊はこちらを目指して貰いますが我々がハワイに後退する事で燃料切れになり海に降りる事になりそうですな」
「それではパイロット達に死ねというようなものではないか!」
ハルゼーが憤然とすると参謀長は冷静に答える。
「一部隊を後ろに置いて不時着機のパイロットを拾わせましょう」
「その指揮を執るのは?」
「ノーザンプトンのスプルーアンス提督ではいかがでしょうか?」
「事実上の殿だ奴が受けてくれるかどうか?」
だがハルゼーの懸念に反して快諾するスプルーアンスであった。
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水平線にヨークタウンとその護衛が消えていく。速力が落ちている彼女らより先に他の艦艇はいるはずである。
「よろしかったのですか?」
参謀長の問いにスプルーアンスは僅かに首を傾げながら答える。
「帰還してくる第二次攻撃隊の連中を拾う役目がある以上それは誰かがやらねばならん、だが虎の子の空母を危険には晒す事はできん、ならばその役目私の部隊が行うのが合理的だ」
「ですが、その最中に敵に攻撃されたら……」
「その懸念は当然だ。だが我々はやらねばならない、ハワイを守る為にも!」
「Aye,sir !」
だがこの時ハワイで何が起こっているのか知る由もない彼らであった。
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空母レキシントン
「提督、もうすぐハワイの防空圏に入ります」
「そうか、空軍司令部に連絡は付いたのか?」
「無線封止を解いていないようで返信がありません」
ハルゼーは舌打ちをする。
「この期に及んで何の意味があるのだ! 呼びかけ続けろ」
そこに別の参謀が来て報告する。
「艦隊は現在3群に別れております。 味方機回収の為に残っているスプルーアンス提督の部隊、ヨークタウンとその護衛部隊、そして本隊です」
「警戒を怠るな、直掩機を常時上げておけ飛行長に……」
その指示は駆け込んできた別の参謀にかき消される。
「長官! 敵と思われる飛行編隊をレーダーが捕捉しました」
次なる戦いの火蓋が切って落とされた瞬間であった。
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