幕間話 15話 双頭の鷲は強く羽ばたく
※架空戦記創作大会2018春投稿作品です
※ この作品は拙作『平賀譲は譲らない』を世界観のベースにしておりますので以下の部分についてご理解いただきますようお願いします。
西暦と年号のズレがあります、1923年に大正天皇の生前譲位によって大正が終わり1924年に昭和元年となっていますので昭和17年はこの作品では1940年になります。
沿海州の大部分がユダヤ人国家イスラエルとなっている設定です。これはロシア革命の時ニコライ2世一家を救出する代わりにイギリスと日本が沿海州一帯をロシアから買収し、それをユダヤ人に転売して建国となったと言う設定です、沿海州の売却代金でロマノフ家は亡命して後にイスラエルを除く極東とシベリアの一部を勢力圏にしたロシアを建国しています。
(ウラル以西を押さえているソ連と対立関係になっています)
※2018/05/18 ロシア共和国をロシアに修正
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
歴史の波に呑まれ消え行くものと思われたロシアという国は生き残った。
革命によって皇帝一家は囚われの身に成り嘗てのフランス王家の様に処刑される物と思われたが彼らは密かに国を脱出し逃げ延びる事に成功する。
この奇跡とも言うべき背景にはロシアを支援するイギリス王家とロシアの……というよりもロマノフ家を影より支える存在{皇帝の影法師}と呼ばれる存在無しには語ることは出来ない。
尤もこの組織が存在したかについては物的証拠が殆ど無く実在を疑問視する意見も多いが此処では其れが存在したという前提で述べたいと思う。その方がその後の展開にも不自然な所は無くなるからである。(寧ろ実在している後述するある人物の方が非常識な存在である事に気が付くであろう)
数少ない資料の中にニコライ2世の第2皇女であるタチアナの回想録にあるイギリスへの亡命時に一家に付き添う一団が其れであると一部の歴史学者は主張するが彼女は其の集団については詳しく触れておらず確証ではない。寧ろ迎えに来たイギリス側の人物後年彼女の妹マリア皇女の夫となるジェイムズ・ブラッカリイ卿の事が事細かに書かれており、両者の馴れ初めが判る一級資料とされているが故に其の辺りを惜しむ声があるのである。
彼らは亡命王家という事で国も無くイギリスに滞在する事になろうかと思われたが転機が訪れる。ニコライが皇位を追われる前に交わしたある売買契約書が発端である。それはイギリスに極東の領土沿海州を金銭で譲渡するという内容であった。その契約で得た領土をイギリスは日本と共にユダヤ人たちに転売し其処にイスラエルという国家を建設したのである。
ニコライ一家は売買で得た莫大な資金を元に反革命勢力を結集する事に成功しシベリアを中心とする極東の旧ロシア領を奪還し其処にロシアを建国する事に成功した。勿論共産革命を危険視するイギリスと日本の全面的な協力があったのは言うまでも無く、軍備に関しても両国の強力な支援の下ソビエトとの戦いを優勢に進めることとなった。ロシアはロマノフ家を王家として戴くも嘗ての帝政と違いイギリス式の{君臨すれど統治せず}を国是とした。(其の為国名から帝国を外している)国の制度もイギリス式を取り入れ隣国イスラエル・日本とも安全保障条約を結び国防を磐石なものにした。イスラエルはロシアが敗れればソ連の次の標的となることを知っているので打ち続くソビエトの侵攻に対して義勇軍として部隊を送り込んで勝利に寄与している。日本も兵器の供与、近代戦を戦う為の将校の教育を支援しており空軍の派遣を行うなど惜しみなく援助を行った。
その結果数次の衝突を経てソビエトの攻勢を押し返しウラル山脈以東を確保する事に成功する。
其の中でロシアを支えたのはエカテリーナ2世以来の女性君主で其の再来とも言われるエカテリーナ3世である。彼女は国民の絶大な支持を受けていた。彼女について語る言葉は多いが其の中で一番の呼び名は{薔薇の撃墜王}である。
ロシアの歴史近代編より
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欧州ポーランド=ソ連国境上空
「カチューシャ! 上方に敵機! 被せてきます」
「捻り込むわよ! サーシャ付いて来て!」
「了解!」
カチューシャことエカテリーナの乗る機体は捻り込みを掛けてダイブしていく。其の後をサーシャことアレクサンドラの機体が追随する。
地表がぐんぐん大きくなっていき速度計が800キロを越える。重力に逆らいながら操縦桿を引き機体を引き起こしていく。追随する敵機は追いつく事が出来ずに離されたところに引き起こしを終えたカチューシャたちの餌食となった。
「此方{双頭の鷲1号}敵機撃墜、これより帰還する」
味方への犠牲無く彼女たちは帰還するのであった。
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「引き上げですか?」
「はい姫様、故国とソ連の国境がきな臭くなっております。既にソ連はシベリア鉄道を使って兵力の集中を行いその数100万とも言われています」
「なんなのよ! 此方にも侵攻しているのにその数は!」
「父君、ブラッカリイ卿の話ではこちらは助攻に過ぎずあちらが本命だそうです」
「これだけの兵を死なせても本命で無いなんて……」
余りの話に絶句するエカテリーナに言葉に詰まるロシア軍情報将校。彼女もブラッカリイ卿の電文を見て信じられなかったのだから無理も無い。
「卿からの伝言です。{スターリンは国民の命は水鳥の羽よりも軽く見えるようだ、これ以上の蛮行は許すことは出来ない。奴らの始末は自分がつける、お前は自分の出来る事をせよ}です」
「自分の出来る事……」
ぐっと唇を噛み締めて彼女は想う。自分の出来る事、やらねばならぬこと。ノブレス・オブリージュ(高貴さは義務を強制する)……
「解りました、イーナ、国に帰るわよ。私は私にしか出来ない事を成さねば」
「了解しました! 姫様、遂に立たれるのですね! 」
「姫は止めてよ! 私はロシアのエカテリーナ、国の為にこの命捧げる積りよ!」
其の言葉を聴いたイーナたちはお辞儀をしつつ感動に打ち震えていた。
(エカテリーナ様が遂に立たれる……我々も身命を賭して御仕えいたします)
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インド洋上 巡洋艦アドミラール・マカーロフ艦上
エカテリーナは故国への帰途に付いた。イギリスのスカパ・フローを出立する時にはそこに居た日英艦隊から惜別の汽笛が鳴らされ上空は両軍の航空機が見送りを行うほどの反響であった。
マカーロフの周りはロシア艦隊が周りを固め、さらに外周には英国のインド洋艦隊がガードを固めている。その後は東洋艦隊が警護を引き継ぎ台湾で日本艦隊にバトンが渡される事になっていた。
台湾に着いたときには日本の艦隊が出迎えに来ていた。最新鋭の巡洋艦阿賀野を旗艦とする第十戦隊と第二水雷戦隊である。
「この艦とあちらの艦似てますわね」
「はい、この艦は日本で作られた物ですので、残念ながら今の我が国には大型の艦船を作る設備がありませんので」
艦長が申し訳無さそうに言うのをエカテリーナは止めた。
「咎めているのではないわ、我が国はまだこれから、皆で力を出し合い、進んでいくしかないのよ、いつかきっと自国で作った艦に乗る事が出来るようになる、其の為にも此処が頑張りどころよ」
「姫様……」
艦長は感激の余り滂沱の涙が止まらなくなった。
彼は後に{この姫様の為ならば死ぬ事も厭わない気持ちになった}と記している。
其の後横須賀に寄港したときには彼女を一目見ようと観衆が押しかけ横須賀が人で埋まったと表現される程であった。
本国に戻り直ちにアレクセイ陛下の名代として(後に摂政)国民を鼓舞しソ連との{大祖国戦争}を戦い抜いた。戦後即位しエカテリーナ3世と成ったときロシアでのお祭り騒ぎは言うまでもなかったが、何故か日本でも祝いの提灯行列や花火が打ち上げられ{日本の皇族の様}であると言われたのであった。
尚スターリンは彼女に高額の懸賞金をつけており刺客も随分と送ったがことごとく失敗し、ベリヤにウオトカのグラスを投げつけたそうである。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
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