155話 ハワイ強襲
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
外交交渉が頓挫して国連の定める期限を過ぎた時、英国首相ウインストン・チャーチルは側近にこう語ったという。
「この時点で戦争は始まったのだ、英国に神の恩寵あれ、そして哀れなる巨人に慈悲を」
これまでの動きにアメリカ合衆国内部で関係改善の動きが無かったわけでは無い。
ルーズベルトの政敵である共和党のトーマス・E・デューイはルーズベルトの姿勢を批判し『彼はアメリカを戦争に駆り立て多くの若者を死地に送ろうとしている』と声明を発表し多くの賛同を得た。
マスコミも批判的な物も多く議会でも反対の意見が出ていたが大統領は方針を変えなかった。
ハワイでは市民の間に攻撃があるのでは無いかという不安が起こっていたが、ハワイ駐留のウォルター・ショート ハワイ方面軍司令長官は『ハワイが攻撃される事は有り得ない、なぜならば合衆国軍が居るからだ』と声明を発表し人心を慰撫した。
>>>>>>>
ワシントンDC ホワイトハウス
「大統領閣下、最新の{コノエレポート}が届いたので?」
「ああ先程な、これによると日本は開戦と同時にハワイに空襲を仕掛け、フィリピンとインドシナに軍を上陸させるようだ。予定ではその3時間前に宣戦布告をするようだな」
「ですが、それは大使館で止められる訳ですな」
「そうだ、そしてハワイに来た連中はキンメルの艦隊が撃破しフィリピンではコレヒドールに拠ったマッカーサーが日本を釘付けにする、その間に旅順を落とし、制海権を奪って締め付けて行く。あの島国では直ぐに息切れするだろう」
「イギリスはどう出ますか?」
「これもコミンテルンの奴らが調べて来たぞ、奴らの息のかかった者たちは英国の中枢にもいるようだな、チャーチルが側近のブラッカリイに欧州以外への不介入を指示したそうだ」
「全く情報をくれた奴らには感謝ですな」
「そうだな、ご褒美に連邦刑務所行のチケットを用意しよう。もう奴らは用済みだからな」
だが、FBIが踏み込んだ時にはゾルゲ達はアジトを引き払い国外に脱出していた。
>>>>>>>
太平洋上
「間一髪でしたね」
「そうだな、ルーズベルトの性格なら用が済んだ我々を消すことなど厭いはしないだろうからな」
部下の言葉に答えるリヒャルト・ゾルゲは水平線の向こうに消えたアメリカの方に向いて海を見ていた。現在中立を標榜するオーストラリアへ向かう途上の船上にいるのであった。
此処に居るのは部下のアグネス・スメドレーを始めとしてハリー・ホワイト財務次官補などコミンテルンのスパイたちである。
「だが問題は無い、公然と活動した我々とは別に政府には同志が残っている。系統は分けているから判明する事は無い」
「今度は何処に行きますか?英国にしますか?」
「フランスがいいのではないか? あそこはまだ混乱しているからな、我々が引っ掻き回せば案外簡単に社会主義革命が起こせるのではないか?」
「それはどうかな?」
「!」 「誰だ!」
何時の間にか彼等の周りは囲まれていた。
「ようこそ、英連邦へ、君たちはVIP待遇で迎えさせてもらうよ、無論監獄の中だけどね」
「英国情報部……」
「君達が米国を出てくれたのでこうしてお迎えが出来たわけだ、さて時間はたっぷりあるからね、色々と質問させてもらうよ」
こうしてコミンテルンのスパイたちは捕縛されたのであった。
>>>>>>>>>>>
ハワイ準州 オアフ島 ワイメア・ビーチ
夜の砂浜、波打ち際より密かに上陸する黒い影があった。
すると陸側より一定間隔で点滅がありそれに影が応え持っていたライトを点滅させる。
やがて陸側から現れた人物が影に近づいてきた。
「確認するが、{スルガ}だな?」
「ああ、そちらは{スンプ}だな」
符丁を合わせた彼らは声を潜めて会話をする。
「ここは打ち合わせのビーチで問題はないか?」
「問題は無い、このビーチは地元警察が封鎖中だ。近くの商店を襲った強盗犯が逃げている事になっているからな」
よく見ると彼の制服は警察のものらしかった。
「よく警察に化けられたな」
「化けてるんじゃない、表の職業だ。おれの姿を見ろ、どう見ても日本人には見えないだろう、ハワイの地元警察には俺みたいなのが結構居るんだよ」
「流石に情報部という所か」
海から上がった男は流石は軍の情報部だと感心していたが本当は東機関の現地工作員通称{草}部隊であった。
「それで後続の連中はどうしてる?」
「そいつらはもう直其処まで来ているさ。後はこの信号器を押せばいい、今は現地時間で何時だ?」
「そうだな、3時になるところだ」
「ならもう問題はないな、今頃日本では宣戦が布告されているはずだ」
そう言って手に持った信号器のボタンを押すのであった。
其の頃日本では国内外の新聞とラジオ局の記者を集めて国連決議に基づきアメリカ合衆国に対して宣戦を布告する旨が伝えられたのであった。
>>>>>>>>>>>
同時刻 ワシントンDC 国務省
「これはハル閣下、朝早くからお伺いして申し訳ない」
「野村大使殿、何か重大な事でしょうか?」
「はい、我が国は国連決議に基づき貴国への武力行使を行う旨を通告させていただきます」
「すなわち宣戦布告ですか?」
「其の通りです」
「それは今この時と考えればよろしいのですか?」
「其の通りですな、其れと今頃栗栖君がこの国の主要なメディアの記者を集めて発表していると思いますよ」
「……それは手回しがいいですな」
「貴国はフェアプレーがお好きなお国柄と御聞きしていましたのでその様に取り計らわせていただきました。戦争はスポーツではありませんがなるべく沿うようにしたいものです」
「そうですか、ご苦労様でした」
内心の葛藤を顔に出さずにハルは答えたが同時に困惑もしていた。大統領の話では宣戦布告は日本大使館の職員の工作によって遅れるはずだったからだ。
野村吉三郎は退室しようとしたが急に振り返りハルに話しかける。
「そう、忘れていました。この武力行使ですが国連の常任理事国の連名で行います。恐らく他の大使館からも連絡があるとは思いますが念のためお知らせしますね」
「な・何ですと! そんな筈は」
「何かの間違いですか? それは確認されてからの方がよろしいかと」
野村はうろたえるハルに同情の視線を送っていたが踵を返して退室した。
「そんな馬鹿な。チャーチル閣下がその様な事……私は嵌められたのか」
虚ろな顔をして呟くハルが我に返り大統領に知らせに行くまでには少なくない時間が流れていた。
その時には既に始まっていた。 ハワイへの一撃が。
ご意見・感想ありがとうございます。
ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。
あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
読んでいただくと励みになります。
※感想返しが遅れております、申し訳ございません。