152話 太平洋の曙
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この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
日本と米国は着々と戦争準備を進めていた。外交筋では話し合いが進められていたがそれは単なる時間合わせに過ぎなかった。この間に国連は米国に対し仏領インドシナからの撤兵、満州国への介入の停止、ハワイ準州をハワイ王国への現状復帰とこれまで使用してきた軍事基地の使用料の支払い、フィリピンと大韓民国の独立と選挙による民主的な政権樹立を要求した。
これに対して米国は反発、国際連盟を時代錯誤の集団と非難し米国主導の国際機関を設立すると宣言しニューヨークに国際連合を立ち上げ加盟を募った。加盟国はソビエト連邦、満州国、韓国、中南米の国々であった。
其の為国際連盟は要求を飲ませる為の直接介入を決議、軍事オプションを含む介入を認め米国に通告した。事実上の最後通告で宣戦布告の代わりと言っても良いものであった。
其の中で米国はイギリスに対しては個別交渉を行い介入への不参加を求めていた。欧州でソビエトとの戦いを抱えるイギリスは二正面作戦を避けるだろうとの見立てであった。
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アメリカ合衆国 首都ワシントン・ホワイトハウス
「イギリスは介入不参加を決めたかね?」
ルーズベルトの問いに国務長官を務めるコーデル・ハルは顔を顰めて答える。
「チャーチル卿はしたたかな方ですな。本音では介入不参加なのに世論が其れを許さない。其の為国民にソビエトの脅威を強調するためにカナダ軍を欧州に送り参戦させるとの事です」
「成る程、カナダからの援軍が必要な程欧州が追い詰められているように見せて介入は事実上不可能だと見せるのが目的か」
「其の為にオンタリオ・ケベック両州でカナダ軍が集結しております」
陸軍長官のヘンリー・スティムソンが報告し、海軍長官のウイリアム・フランクリン・ノックスが補足する。
「カナダに向けて大規模な船団が数次に渡って向っているのも観測されております、カナダ軍を運ぶ物と思われます」
「ふむ、概ね満足する結果になりそうだな、事実上日本を相手にすれば良いという訳だ。今の内にパナマ運河経由で大西洋の艦隊を太平洋に動かすか」
「それは危険です、日本の遣欧艦隊が北海にいます、ソ連との戦いでは海軍の出番はありませんから大西洋側の沿岸部に攻撃を仕掛けてくる懸念があります」
「そうか、残念だな」
「その代わりでは有りませんが竣工したばかりのアイオワとニュージャージー、モンタナとオハイオを回航しましょう、即時戦力化は出来ませんが西海岸で訓練させてそのままハワイに送れば良いのではありませんか」
「それはいいな」
「エセックスとイントレピッドも回しましょう、ですがこんなに回しては大西洋艦隊からブーイングが来ますな」
「その次に竣工する艦を回すことにして宥めてくれ、大切なのは太平洋、奴らは必ず来るぞ、ハワイの守りは大丈夫なのか?」
「現在でも十分な戦力を与えています。それに奴らがいつ来るのか判るのですから問題は無いはずです」
「どうせなら緒戦で派手に戦果を挙げてくれれば助かるな、キンメルとの連絡は密にしておくようにな」
「承知しております、大統領」
「奴らの作戦が漏れているのが助かりますな、太平洋艦隊を狙って戦艦部隊と機動部隊がハワイ近海まで侵攻、インドシナとフィリピンに陸軍戦力を上陸させ占領を図る、韓国と満州国は独立国故に攻めてはこない、旅順要塞の守りを固めるのみとはね」
「韓国駐留軍と満州国駐留軍は現地軍と共同で旅順を落としその後南下して日本本土を攻める、フィリピンはマッカーサーの指揮する部隊はコレヒドール要塞に拠って長期持久体勢に入り上陸した日本軍を釘付けにする。その間にグアムを経由した部隊が増援として逆上陸し日本軍を挟み撃ちにします」
「後はイギリス東洋艦隊とイギリス極東軍やオーストラリア軍だが、どうなのかね?」
「彼らは動かないでしょう、東洋艦隊はイギリスのアジア植民地を守るのが精一杯ですし、マラヤに駐留しているイギリス極東軍も治安維持が優先です。オーストラリア軍は動員すらかけて居りません。中立を宣言しております」
「やはり欧州に戦力を引き抜かれているから動けずか」
「むしろ、日本降伏後の事も考えてはいかがですか?イギリスをこのままアジアに放置するのは宜しくないかと」
「まずはインドシナの支配を確実な物にするのだ。その後は幾らでも料理できる。マラヤ、シンガポールはその後で良い、イギリス一国ではどうにもならんだろうからな」
「むしろ欧州をソ連が席巻すると厄介なのでは?」
「それはスターリンに言っておくさ、ロシアまでは呉れてやる、それ以上は欲深だとね」
景気の良い話をして会議を終わらせるルーズベルトであった。
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山口県 柱島泊地 連合艦隊旗艦 斐伊
「総力戦研究所 戦略立案室より参りました堀栄三であります」
「ご苦労、早速で済まんが作戦の説明を頼みたい」
木村連合艦隊司令長官の前で敬礼する陸軍中佐の徽章を付けた男は持ってきたアタッシュケースより書類を取り出す。そこには極秘の大きな赤いスタンプをされた表紙に{太平洋の曙作戦要綱}と記されていた。
この書類を持ってきた堀こそ譲と石原中将が作戦について話していた時に居た男である。この作戦案は堀が総研が集めてきた情報を元に基本案を作成した物であった。
「まずこの作戦は陸・海・空の連携の元行われる事になります。緒戦、連合艦隊の目指すのはハワイとなります」
ハワイという言葉が出た時艦隊司令部の参謀たちから溜息が漏れた。
あるいはと思っていたが現実になるとその名前の重さが響く物らしい。
「日米が開戦すれば劈頭我が軍がハワイを攻撃するというのは連合艦隊でも討議されていました」
草鹿龍之介参謀長が皆を見回して口を開く。
「元々は山本前長官が黒島前参謀に研究させていた物です、ハワイを機動部隊の航空戦力で空襲し、真珠湾内の太平洋艦隊を撃滅する。大筋ではそのような作戦であったはずです、総研でも同じ作戦になったのですか?」
草鹿の問いに堀が口を開く。
「目標がハワイであるという事は同じですが一つだけ違う事があります」
「それは?」
「山本案はハワイへの攻撃だけでした。この案はハワイ侵攻を行い恒久的に占領するのが目的です」
その言葉を聞いた木村は思わず自身の豊かな髭をつまみ、草鹿は天を仰いだ。
彼らを以てしてもその内容に想像がつかないのであった。
「では、作戦について説明いたします」
艦隊司令部は堀の話す作戦内容を聞き、さらに驚くことになるのであった。
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