150話 悪辣なる策謀
お断り 昨今小説家になろうにて無断転載される事例が発生しております。
其の為此処にてお断りしておきます。
この作品は 私ソルトが書いたもので小説家になろうにのみ投稿しアルファポリス・ツギクルにリンクが張ってある以外は無断転載になります。
この当時総力戦研究所は設立当初とは違った評価を世間から受けている。当初は、役立たずな発明をする閑職部署、だがその後はこの組織が見つけた(としている)技術の提供を受けた企業や技術者が開発に成功した幾つもの工業製品の数々から日本の技術発展の陰には総研ありとまで言われている。
もっとも、其の姿さえ表の姿に過ぎないのだが。
「アメリカに流れた情報、通称{近衛文書}ですがアメリカはそれに従った行動を取っています」
総研本部にある戦略立案室、ここは総研設立時から存在するが其の存在を知る者は少ない。
ここでは国や軍の取るべき戦略を研究する部門で表ざたにはしていないがダンケルクにドイツ軍を誘引し戦艦を集中使用することで殲滅する事を欧州派遣軍に提案したのはこの部署だったりする。
「現在アメリカの海軍工廠及び造船所では戦艦の建造が確認されています。艦級はアイオワ・モンタナの2種類、前者は高速戦艦・後者は重武装の二本立てです。これは大和級への対抗策と考えられます」
「うまく引っかかってくれたか」
「空母の方の建造も認められますが大きさは護衛空母級が主です。正規空母{エセックス}級の竣工は二隻までは確認、建造中は四隻に留まっています。大型船渠や船台は数に限りがありますからな」
「大和級四隻建造さらに拡大発展型の改大和級の建造計画をみればそうなるだろうな」
男の手元に置かれたアメリカに渡った情報の写しの中にあるのは大和・武蔵・信濃・甲斐の四隻同時起工とその進水後に同じ船渠で造られる{改大和級}四隻の情報。特に大和は仕様まで細かく書かれている。
「しかし、大和級は大和・武蔵までで建造は終わり、改大和級は計画のみだが仕様まで流れたのはまずいのでは?」
「其の心配は無い。其の計画書その物は本物だが実際の大和とは違う」
所長の譲は手にした計画書A-140と書かれた計画書を机に放った。
「本物だが違う? よく判るように話してくれんか?」
この部屋にいる三人の内一番ふくよかに見える男が発言する。
「この計画書は故藤本喜久雄中将が計画したA-140と言われる大和級の元になった戦艦の計画だがそれには仕様の違いでAからFまでの型が存在する。この計画書はE5と呼ばれる物だが実際にはF6を基本としてさらに改良したF6改を元に大和は建造された。見れば判るがもはやまるで別物だ。分かっていただけたかな? 石原中将」
「そんなに違うのか?」
そう言って陸軍中将石原莞爾はもう一つの綴りの表紙にA-140F6改と書かれた方を見る。
A-140F6改 大和級戦艦
基準排水量 69000トン
全長 279メートル
全幅 37.6メートル
主機 IHI=RRガスタービン機関30万馬力複合推進機構搭載
速力 34ノット
航続距離 16ノットで6500海里
兵装 50口径46センチ3連装砲3基
54口径12.7cm単装速射砲10基
高性能20ミリ機関砲10基
垂直式噴進弾発射機96基
艦対艦噴進弾発射機4連装2基
艦載機 VS527{翡翠Ⅱ}×3
AH66{帝釈}×2
対してE5は
基準排水量 66500トン
全長 270メートル
全幅 37.6メートル
主機 重油専燃ボイラー20万馬力
速力 29ノット
航続距離 16ノットで7500海里
兵装 50口径40センチ3連装砲4基
60口径15.5センチ3連装砲2基
60口径12.7センチ高角砲12基
12.7ミリ武式機関砲連装40基
となっている。おまけに最後の頁には海原を進む大和の精密なイラストが載っている。これは最近売り出し中の挿絵画家小松崎茂の画によるものであるとは石原も気が付いていない。
「確かにまるで別物だ、ということは他の情報も偽物か」
「大したことの無い情報は其のままだが重要な機密は偽物だ」
「何たる悪辣、これではルーズベルトは道化ではないか」
「共産主義者達を使ってうまく立ち回ろうとするからだ。それにあの国はあの失策で全世界を敵に廻したに等しい」
「合衆国軍の仏領インドシナ進駐か。ド・ゴールが激怒して国連に提訴していた奴だな」
「国連の撤退要求をあの国は跳ねのけた、その上で国際連合という組織を作り国際連盟を偽国際機関と非難した。国際連盟加盟国は全会一致でアメリカへの懲罰的軍事介入を決したよ」
「素晴らしい、正に我らは錦の御旗を持った官軍というわけだ。だが何故アメリカはインドシナ等に出兵したんだ?」
「それを見てみれば判る。仏領インドシナのトンキン湾に眠る海底油田の埋蔵量の試算だ。これはフランスの石油企業と日本の出光が合弁で開発する事になったんで調べたものだ。何故か埋蔵量が近衛首相の元に届いた時桁が違っていたがな、どうやら転記ミスしたようだ。ちゃんとしなくてはいけないな」
「それに引っかかった奴が可哀そうになるな。それでビュシーに逃れたフランス政府にインドシナの安定の為として殆ど脅しのように軍を送り付けた訳か。そしてビュシー政府を吸収したド・ゴールの撤兵要求を正式な政府と認めなかったのはあそこを第二、いや満州国があるから第三の衛星国にして利権を得るつもりだったか」
「そういう事になる。だがそれがあの国の躓きの始まりさ。イギリスへの対抗心からアメリカに味方しそうなフランスを敵対させて欧州を敵に廻したからな。これで後顧の憂いも無くなった」
「処がそうもいかなくなったようだ」
そこに会話に割り込む者が現れた。それは今だ沈黙している3人目では無く部屋に入って来た本郷であった。
「何か起きたのか?」
「ああ、ルーズベルトにとっては悪夢のような話だろうがな」
その話を聞いた譲は元々この部屋にいた3人目に話しかける。
「忙しくなってきたが大丈夫か?」
「いえ、問題ありません。その事も想定内にして作戦を考えております」
「そうか、連合艦隊司令部の方に行ってもらうことになる。よろしく頼むよ」
譲の言葉に敬礼する男、こうして新たな策謀がスタートする。
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