149話 自重無き戦争準備
柱島泊地
この日連合艦隊に新たな艦艇が合流した。
「観艦式で見たときも凄かったですが竣工した後の大和と武蔵はいやはや凄まじいの一言に尽きますな」
正式に第二艦隊配属が決まった大和に第二艦隊司令部が移乗したとき参謀長が漏らした一言がこの艦を端的に表していた。
「そうだな、威容申し分ない」
第二艦隊司令長官に任命されたのは前連合艦隊参謀長だった宇垣纏中将である。山本五十六前連合艦隊司令長官が更迭された後司令部は解体されて各々新たな部署に移った。宇垣は砲術専攻で戦艦への想いが強かった為今度の任官に喜びが隠せなかった。彼は日記{戦藻録}に『今日大和ニ座乗スル、近年ニ無ク愉快、男子ノ本懐コレニ尽キル』と記していた。
艦長を務める松田千秋大佐が出迎えた。
「ようこそ大和へ、司令長官こいつは正真正銘の化物ですよ」
「その様だな、君は?」
宇垣は松田の横に立つ士官に声を掛ける。
「艦政本部第四課牧野茂中佐です。大和の調整で乗り込んでおります」
「そうか、よくぞこれほどの艦を作ってくれた。有り難い、感謝する」
「いえ、我々もこれだけの艦を作る事ができて光栄です。この艦はこれまでに蓄積された技術の粋を尽くして作られておりますので説明させて頂く為乗艦しておりました」
牧野中佐の案内で宇垣たちは大和を歩く事にした。
「艦橋側面についているあの六角形の板はなんだね?」
「あれは位相配列式レーダーの素子です」
「位相配列式?」
「従来のようにレーダー素子を回転させたりが必要ないので故障も少なく高速で目標を捕らえる事ができます」
「それは凄いですな」
「又、レーダーと連動した新型の射撃管制装置によってレーダー射撃も可能になっています。対水上・対空戦闘にも対応しています」
「対空戦闘に使えるのか?」
宇垣も近年の航空機の急速な発達には危機感を感じていた一人であった。上司であった前連合艦隊司令長官である山本大将が航空主兵派で大鑑巨砲主義の宇垣とそりが合わず事あるごとに{戦艦は航空機の前に敗北を喫する}と言われ続けていたのであった。
「それについてはこちらに……」
牧野は一行を艦橋側面に案内する。
「こちらが此の艦の防空を受け持つ対空砲火群です。高角砲として軽巡洋艦の主砲に使われている12.7糎単装速射砲を片舷五門計十門積んでいます。この砲はカートリッジ型自動装填装置を備えていますので射撃速度は折り紙付きです、レーダーの情報は各砲塔に送られます。そしてもう一つ、これは高性能機関砲台です、従来のと違うのは多銃身砲式となり高速で大量の弾が発射できるのが特徴です。最大射撃速度は毎分三千発です」
「三千発!」
「これの射撃も現在は艦のレーダーより射撃情報を得ていますが最終的には砲台に小型のレーダーを搭載し、砲台単位で運用できるように目指しています。そうすれば射角さえ維持できればどのような艦にも簡単な作業で積むことが出来るようになります」
「これがあれば航空機に怯えることは無くなります、十分に対抗可能です」
松田艦長もそれまでは操艦術によって航空機の攻撃をかわすしか無いと思っていたのだがこのおかげでその心配もなく安心していた。
一行は艦橋の前の方へ移動する。
「ここには側面と併せて副砲を置く予定になっておりました。ですが新開発の武装が間に合ったので変更されて搭載されたのです」
そこには幾つものハッチのようなものが規則正しく並ぶ場所であった。
「これは?」
「垂直式噴進弾発射機です、このハッチ一つ一つに噴進弾を装填しており前部に六十四基後部三十二基あります、噴進弾は現在は艦対空噴進弾のみですが、対潜弾、そして新型誘導弾も試験中です。近日配備できるでしょう」
「そうか、楽しみだな」
「大和だけではありません、新型艦も次々と就役しております。次の戦いの為にね」
「そうだな」
彼らは海上へ視線を向ける。其処には新たな連合艦隊旗艦の姿があった。
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