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平賀譲は譲らない  作者: ソルト
3章 昭和編
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145話 逆転有罪

「そもそもこの話は近衛首相、貴方の腹心がアメリカ合衆国大統領の現在の状況について知らせてきたのが発端ですね。先制攻撃することで大統領を排除し後継者と講和条約を結ぶ。確かに成功すれば比類なき功績です」


「ルーズベルトの支持率は低迷している。彼が日本に対して挑発行為をした結果我が国と戦端を開いてしまうと必ず彼は排除される、そうだったですかね?」


「その様な話を持ち出しても遅いよ、既に話はし尽くした。後は閣僚の決を取るだけなのだ」


「其の話その物が嘘だとしたら話が根底から覆りますね」


「貴様! 首相の話を虚言だというのか!」


 激高する永野を一瞥して譲は話を続ける。


「首相の腹心とは新聞記者の尾崎秀美でしたな。彼がコミンテルンのスパイで有るならどうでしょうか?」


「何を世迷言を……」


「証拠は有りますが?」


 譲がそう言うと本郷が会議室に大量の書類を持って入ってきた。


「この綴りは尾崎がアメリカの同志に向けて送った電文の写しです。近衛首相の得た情報が細かく記されて送られています。軍の配置に人事、欧州への派遣について。竣工したばかりの大和と武蔵の情報もです」


 其の綴りを取って目を通していた近衛はぎょっとした表情になり紙をめくる速度が速くなっている。


 やがてがっくりと首をうなだれるのであった。


「首相!」


「全部本物だ、私が職権で調べた情報まである。間違いなくこれは私の傍に居ないと得られない情報だ」


「馬鹿な! 何かの間違いだ!」


 そう叫ぶ永野に向けて譲が目配せをする。


「そうでもないさ」


 そう言って本郷が一枚の写真を取り出した。其の写真には日本人の男が白人女性と抱合っている写真であった。


「尾崎と抱合っているのはアメリカのジャーナリストのアグネス・スメドレー、彼女もコミンテルンのアメリカでのメンバーだ。彼女はある人物からの指示でアメリカ国内でスパイ活動に従事している」


「それは誰なんだ?」

 

 尋ねる鈴木に譲は答える。


「リヒャルト・ゾルゲ、表向きはドイツの新聞記者だがこいつはコミンテルンのスパイの極東・アメリカの親玉的存在でしてね。こいつの正体を暴くのには苦労しましたよ」


 本当は前世知識で知っていたのだがその辺はごまかして答える、実際に知っていなければばれないほど彼の偽装工作は完璧だったのだ。


「話は戻りますが、其の尾崎の組織は我が国の在アメリカ合衆国大使館にも存在していました。宣戦布告は間違いなく妨害されて遅れて合衆国アメリカに届く事になりますね」


「そんな人物が居るのか! 誰だ!」


「これも近衛首相の働きかけで外務省に入省した西園寺公一、先年亡くなった元老西園寺公望公の孫に当たる人物だ」


「……!」


 其の言葉を聴いた近衛は顔面蒼白になり震え始めた。


「つまり今回のアメリカ合衆国との戦争準備は向こうの手のひらの上で踊っていたのに過ぎない。すでにコミンテルンの手先は全て拘束させて戴きました。後は貴方たちだけです」


「我々は知らなかったんだ、コミンテルンとは無関係だ!」


「それは調べていますがね、彼らに何処まで喋ったのか調べる必要がありまして」


 本郷はそう言って合図すると憲兵たちが部屋に入ってくる。


「近衛首相等にはいささか御聞きしたいことがある、連れて行け!」


 近衛はうつむき黙って連れて行かれたが、永野は何かの間違いだと叫びながら、他の閣僚たちと供に連れて行かれた。


>>>>>>>>>


 御前会議は終了し陛下も退出されたが、譲と本郷、鈴木と米内らは山本と向かい合って話していた。


「では、黒島が今回の作戦を持って来た訳か、永野の差し金でか」


 米内が詰問すると山本は頷いて答える。


「連合艦隊司令部内でも米国討つべしの声は高くなっていて、黒島の作戦に賛同する者が多くてな」


「だから博打のような作戦に乗ったのか。愚かな事を、現在の日本は欧州に派遣軍を送っていて片手を縛られた状態だ、それでアメリカと単独で戦おうなどと……」


 鈴木が溜息を吐きつつ言うと山本は皮肉を漂わせながら。


「開戦してしまえば、イギリスが同盟国を見捨てるわけがないと近衛公は自信ありげだったが」


「そうだとしても、欧州の状態を見ればイギリスも迷惑するはずだ、ドイツは片付いてもソ連がいるのだからな」


「どうもあせっていたようだ、今更ながらだが」


 再びの米内の嘆きに山本は淡々と答える。


「どちらにしても、君は更迭となるだろう、しばらくは謹慎してもらうことになるな」


「尋問は無しなのか?」


「司令長官が直接彼等の手先に接触していないのは明白ですから」


 山本の問いには譲が答える。東機関(日本国内では憲兵隊の一部門に属している)の内偵によって彼がそれらの勢力に属していないのは判明していた、逆に今回の会議へ出てくると事前に判らなかったのは関係ないとマークする対象から外されていたのが原因であった。


 こうして後に{近衛の乱心}と関係者に密かに呼ばれた事件は収束する事となった。


 関連してコミンテルンの関係組織が一斉摘発されたが表向きには外為法違反とか脱税などの罪状で逮捕という処理がされたのでこの事が公になったのは機密指定解除が為された三十年後のこととなった。



ご意見・感想ありがとうございます。

ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。

あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…

読んでいただくと励みになります。


※感想返しが遅れております、申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 近衛の謀略が阻止されて良かった。 近衛は刑務所に入れたいよ。 コミンテルンのスパイどもを検挙できて良かった。
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