15話 譲(おれ)の出発した後の日本その4
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原正幹視点
俺は今複雑な気持ちだ。
俺の妹の結婚相手には優秀な人物をと言う思いがあった。そして俺の大学同期の最優秀者と呼ばれた男に嫁がすことを考え実行に移したのだ。
話はとんとん拍子に進んだがある日をきっかけに俺はその結婚が良かったのか不安になったのであった。
話は結婚前にさかのぼる、妹の結婚相手、平賀譲は同期の中では飛び切り優秀な男だった。
だが結婚前のある事以降俺は奴の変化に気が付いた。婚約して結婚真近に奴が怪我をして入院したのだ。考え事をして階段を踏み外したという事であった。一時はその命の心配をするほどであったが意識が戻って直に退院した。
そこまでは俺も安心していた、だがその後奴に会ったとき妹のカズの事をすっかり忘れていた、奴は頭を打ったため一時忘れていたと言う説明をし、俺もひとまず納得した。
だがその後の奴の言動は俺の知っている譲ではなくなっていた。
「今日も旦那様から手紙が届きましたよ~!」
夫がイギリスに留学しているために実家に帰ってきている妹カズが嬉しそうにしている。
妹の喜ぶ顔を見ることは俺にとっても嬉しいことだ、だがその手紙に書かれていることはおよそ俺の知る平賀譲が書くような文章ではないのだ!
「…イギリスの不味い食事に君のこころ尽くしの食事を思い出し涙がでそう……」
こんなことは序の口で
「霧のロンドンはその神秘的さから美しいと言われますが、僕にとっては君の居ない町などなんの魅力もありません」だと!
あいつはこんな「軟弱者」ではなかったはずだ!あの人を人とも思わない孤高にして隔絶した頭脳の持ち主天才と言う言葉をほしいままにした男はどこに行ったのか、俺は今からでもロンドンに乗り込んで奴の首を締め上げたい、どういうつもりなのかを!
だが……妹の喜ぶ顔を見ると決心の鈍る俺が居る、くそ!譲め、早く帰って来い!
俺は相反する思いに苛まれるのであった。
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第三者視点
「話が違うではないですか!」
激高している人物をなだめているのは伊藤博文である。
「君たちの思うことも判るが我が国の事情もあってな」
伊藤の話している相手は大韓帝国の政治団体一進会の幹部である。事前に約束していた韓国の日本単独での保護国化をイギリスとの共同に改めると言われたことに怒っているのである。
「正直今後もロシアは満州も朝鮮半島も支配下に置くことを諦めないだろう、今回我が国はかろうじて勝つことが出来た、だがそれはイギリスの同盟があればこそだ、今後もイギリスの力を借りるにはこうすることが必要なのだ、イギリスが韓国と中国に利権を持っていればそれを守ろうとして協力せざるを得なくなるそのための布石なのだ、分かって欲しい」
「だが桂さんは我々に最大の援助をすると約束した」
「確かにな、だがそれは最終的にはアメリカがハワイやフィリピンなどに行ったように自国に併合するための方便だ」
「そんな……我々はどうすれば」
「そのための共同による保護国だ、そうすれば一方の国が併合しようとしても出来ないからな」
そして伊藤は諭すように言った。
「我々日本もつい40年前には将軍の支配する封建国家だった、だが維新を果たし国を富ませることに必死になった、それが今の日本だ、君たちは短期間で成果を出そうとしているがそれは安易な一手だ人は自ら求めねば変革しない、与えられた物では人は君たちに今は感謝する者が居るかもしれないだが数十年の後には余計なことをしてくれたと恨まれるのが落ちだからな」
伊藤が語っているのは譲が教えた{未来}の真実であった、結局インフラ整備や教育の普及などの利点はあったが植民地支配という状態は両国の間に色々な問題を残したのである。
(しかも投資しすぎて東北の開発が遅れたり、自分の国の農業圧迫するなんて本末転倒じゃないか!)
内心では桂や小村たちの目先にとらわれたやり方に怒っていた伊藤博文なのであった、また推進派であった山縣有朋がこの結果に考えを変えたのが大きかった。
「鉄道に関しては南満州の鉄道経営に乗り出したハリマン氏が韓国国内の鉄道敷設に協力したいと申し出てきている、満州と鉄道でつながればこの国の発展にも役立つだろう」
「……」
伊藤はアメリカが資本投資をすることを話してアメリカも参画するつもりであると言外に伝えた。
それは韓国が、今後も係争地になる満州に隣接する緩衝地帯として機能し独立を護るただ一つの方法なのだと、そして力を蓄えてから自立するのも手であると教えているのであった。
(だが舵取りを誤れば国は引き裂かれることになる、あとは彼らの才覚次第だが我が国があえて火中の栗は懐には入れたくないのでな)
こうしてイギリス・日本と大韓帝国(保護国化後は大韓民国)の間に条約が結ばれ大韓民国(民主化されたため国名変更)は保護国となった。
また、日本は遼東半島は租借(港や軍事基地の使用)のみになり鉄道はアメリカの資本に任せる(使用権として国債の償還を受け、使用料を毎年貰う)ことで合意した。
こうして日本の半島と大陸に対する政策は定まった、この変化がどのようになるのか献策した平賀にもまだわからない。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも・・・
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