142話 自由の海作戦
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「この作戦名は{自由の海作戦}名付けました。我が国が宣戦布告を通知した1時間後にハワイの米軍基地に一撃を加えます」
山本が切り出すと流石に会議室はざわめいた。宣戦布告から攻撃までの時間が短いのに皆驚いていたのであった。
「そんな短時間で大丈夫なのか?」
「もし通知が遅れたらどうするのか?」
「大丈夫です、現在アメリカ大使館には野村吉三郎大将が全権大使として詰めて居られます、暗号電文で予め宣戦布告の段取りを授けておけば問題はありません」
「果たしてそうかな?完璧な様でも上手の手から水が落ちるとも言う、危険な事だ」
大丈夫だと請合う黒島に米内が皮肉をたたき付けるが其れを物ともせずに切り返した。
「完勝を目指すには際どい手を使うのは常道、幾らでも言いぬける事は可能です、本番までに対策は色々取れますしね」
「攻撃と言うが具体的にはどうするのかね?」
「ハワイは遠い、それに艦船で近づいてはアメリカの哨戒網に引っかかるだろう、そもそも奇襲になるのかね?」
更なる質問に黒島は手応えを感じながら答えていく。
「機動部隊を使います、連合艦隊には第一航空戦隊・第二航空戦隊・第三航空戦隊が居ります、これらの航空戦力で真珠湾の米国太平洋艦隊とホイラー飛行場、港湾施設に攻撃を仕掛け撃滅してご覧に入れましょう」
「成る程、航空機ならば例え哨戒網を突破して通報されても対応するまでに攻撃出来るな」
永野が頷きながら言葉を繋ぐ、どうやら軍人でない閣僚たちに説明を兼ねているらしい。
「フィリピンや満州はどうするのだ? 急な動員は現状無理だ、召集令状を出して予備役を集めても使い物になるまでに半年はかかるぞ」
陸軍の参謀総長が話しにならないと首を振る、特別編成の第三軍が欧州に出ているために常備戦力の第一軍や第二軍からもそれらに抽出している為に定数割れを起こしておりこれ以上部隊を動かすと本土の守りまで手薄になってしまう。
「空軍も同様だ、既に本土防空部隊の搭乗員の不足が深刻化しており女子挺身隊の結成の議論さえ起きているのだ」
空軍幕僚長が溜息を吐きつつ言う、搭乗員は養成に時間が掛かるので養成機関を強化しているがそれでも足りなくなり、搭乗員資格を持つ女性を徴兵して女子挺身隊として本土防衛部隊で哨戒任務などをさせるべきか検討されているのだ。
「問題は無い、フィリピンは台湾からの渡洋爆撃で当面は対応する。フィリピンに米軍を封じ込めておけば良いのだ。出てきたところを連合艦隊が叩く、満州も同様だ、旅順要塞の線で防いでいてくれれば良い、欧州が落ち着いて、部隊が帰還してから攻略する」
「そのような見通しでは早々に行き詰るぞ、英国が参戦できるかどうかは現状判らない、このまま単独で戦うのは無理だ」
米内の諭すような口調に参加している者達からも賛同の声が起こる、尤も閣僚たちは米内と東条を除くと殆どが近衛と親しい者達で固められており数の上では劣勢であった。
(おかしい、山本もこの作戦に不備があることくらいは判る筈、何故支持するのか?)
鈴木は何か裏があるのではないかと感じていた。
其処に今まで沈黙していた陛下が言葉を発せられた。
「皆の国を思う気持ちには感謝するが此方から戦を起こすのには根拠が薄い。満州・布哇の民の為と言うのならば国連の決議に基づいた行動をすべきではないのか?」
このお言葉に対して近衛は陛下に一礼して自分の所見を述べる。
「陛下の御懸念尤もであります。ですがご安心下さい、この戦争は長く続くことはありません」
「その成算、何処から来るのですかな?」
鈴木の問いに対して近衛は満面の笑みを浮かべるとこう切り出したのであった。
「ルーズベルト大統領は失脚します。そうなればこの戦は勝ちなのです」
「いかなる事でそうなるのか小生には理解しかねます、ご説明をお願いします」
驚いた鈴木が問うと近衛は説明を始めた。
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「私の腹心がアメリカの政治顧問を務めている者と懇意なのは閣僚の皆さんもご存知の事と思いますが、其処からの情報でルーズベルト打倒を目指す勢力がある事が判りました。現在ルーズベルト大統領の支持率は非常に低い状態です、これは経済政策が機能していないのと、外交政策で我が国を敵視し、国連の決議に従わないなどの失策が原因です」
「ここで我が国がアメリカの非を鳴らして宣戦し攻撃をすれば国民の非難はルーズベルトに集中し野党である共和党から弾劾追訴を受けるでしょう、現在の上院、下院供に野党である共和党が優勢ですのでこの戦争により大統領の罷免となり、後任には副大統領が就任します、そうなれば合衆国は講和に応じて国連の決議に従い我が国への敵視政策を止めるでしょう」
余りに都合が良すぎる、鈴木はその言葉が喉から出そうになっていた。
「それは余りにも我が方に都合の良すぎる話だな。宣戦を布告して果たしてその通りになるか……」
米内が疑問を呈すると東条も頷く、この二人が冷静なのに鈴木は安堵した。
(この二人が居てくれて良かった。あと陸軍も空軍も及び腰か、無理もない、最精鋭を欧州に送っているんだ、不安しかなかろうて)
(その他に関しては近衛の息のかかった者は致し方ないとして山本は何故この様な計画に乗ったのだ?黒島などに乗せられた訳ではあるまい、もしやこの話は近衛から永野に話が行き、それから山本へなのか? 出番の無い連合艦隊に働き場所をと言えば山本も受けざるを得ない、海軍は輸送船団の護衛ばかりと言われていたからな。ダンケルクでの作戦は超極秘、詳細はこの国では防衛大臣と儂と陛下位しか知らぬ作戦なのだからな)
この時点でダンケルクの戦いの詳細な情報は入っていない、今後の事もあり総反撃を行った事は知られていても艦砲での集中砲撃やヘリ部隊の奇襲、中距離弾道弾の事は伏せられていたのであった。
鈴木の内心での焦燥とは対照的に会議は結論を出そうとしていた。
「それではこの作戦を行うかどうか皆さんから決を採ろうではありませんか、議論も尽くしましたし」
風見司法大臣が音頭を取り決を採ろうとする。
「待たれよ、陛下は無暗に戦火を起こすのを好まれては居らぬ、再考を要する」
鈴木の抗議に永野は薄ら笑いを浮かべながらこう返した。
「陛下の御心は常に我らと共にある、我ら臣下の決議に御同意下されるはずだ」
その言葉にも陛下は黙ったまま身動ぎ一つしない。
「では、決を採ることにいたしましょう」
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