141話 荒れる御前会議
12/11 修正しました 参謀記章>参謀飾緒
唐突な海軍の提案に会議は驚きで騒然とした。
「軍令部長、君の発言を聞くと我が国はアメリカに戦争を仕掛けると聞こえるのだが、私の耳が可笑しくなったのであろうか?」
枢密院議長を兼任している鈴木貫太郎侍従長が呆れた顔で確認するが軍令部長を務める永野修身大将は真面目な顔で答える。
「間違いなく宣戦を布告し鬼畜米国を討つべしと申し上げます」
「訳を聞こうか、バシー海峡の事件はアメリカの暴走だとの印象を全世界に植え付けた。欧州もアメリカ非難一色だ、ソ連を満州国を通じて支援している疑惑も解けていない今あの国は孤立を深めている。其の国にこちらから仕掛ける意味があるのか?」
防衛大臣を務める米内光政が永野を睨みながら言う。その姿を見て鈴木は永野が独断でこの提案を行い大臣も知らぬ事だと理解した。翻ってみると陸軍・空軍共に白け切った態度を見れば彼らも預かり知らぬ事だったことが判る。
其の時思いも拠らない所から声が掛かる。
「まあまあ、軍令部長も良く考えられた事でしょうから、一つ内容を拝聴しては如何ですかな?」
鈴木はその声に振り返り声の主を見て謀に気がついた。
(そうか、この二人はグルであったか、だからこそこの会議を開く事が出来たのか)
今回の御前会議を提案した内閣総理大臣近衛文麿を目にして鈴木は警戒を強めるのであった。
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「ご存知の通り欧州もアメリカのやり方には非難を強めて居ります。中国大陸でも満州国との摩擦で中華民国も反アメリカになっております、元々中華民国はドイツから軍事支援を受けて居りましたのでアメリカとは関係が良くありませんでした、さらに蒋介石を張学良が監禁した西安事件で中華民国は満州国に攻め込まれて屈辱的な講和を余儀なくされました。この情勢下でのバシー海峡事件の発生でアメリカは相当に焦っていると思われます」
永野の説明に近衛は身を乗り出すようにして頷いていたが、米内や鈴木は白けた顔をしていた。
(アメリカが焦っているのは当たり前だ、我が国とイギリスがドイツと戦い共倒れになることを期待してたのにそうならなかったのだからな)
そう考えていた米内は殊更戦端を開きたがる永野に怒りを覚えた。
「アメリカが焦ろうが我が国が戦端を開く必要は無い、現在欧州に第三軍を派遣しておりそれには空軍も海軍からも部隊を抽出している状態での戦争開始は無謀だ」
米内の発言は常識的な物であり一部の閣僚も陸軍・空軍の担当者も頷いていた。
「そうは思われません、先般の国際司法裁判所でのアメリカのハワイ併合や満州国建国への不当であると言う判決が出ている以上それを是正するのが我が国の使命なのです、それを為すには我が国の実力行使あるのみ、我が海軍の太平洋に展開している部隊だけで十分に成し遂げられます」
「それは、無謀と言うものだ、アメリカの国力は我が国の2倍以上になる、私の専門分野の経済に関しても一国で戦うのは無謀だ、唯でさえ欧州での戦いで我が国はかなりの負担を強いられているのだ」
永野の反論に岡田前内閣より米内と共に留任した東条英機大蔵大臣が更なる反対意見を述べる。
「海軍の意気こそ買うべきです、先ずはどの様な作戦があるのか聞くのはどうでしょうか?」
司法大臣の風見章がとりなすような発言をして永野を援護する。
(どうやら、近衛公の取り巻きと永野たちは示し合わせているのか、これは油断ならんな)
鈴木はこの時総研の所長や本郷が欧州に居るのを残念に思った、あちらでの作戦を進めるために止むを得なかったがこれは完全に裏を搔かれた事になる。
(今は兎も角全貌を炙り出さねば)
嘆いても仕方が無い、腹を括ってこの後に望むこととしたのであった。
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「それでは実際の作戦について説明をさせていただきます」
永野に呼ばれて作戦を説明する為に入室した人物に米内は目を疑った。
「山本君! 君がこの作戦に加わっていたのか!」
連合艦隊司令長官 山本五十六大将がそこにいた。
「米内さん、戦という物には機と言うものがあります、今がそれなのですよ」
「馬鹿な事を……してはならない時に戦を起こして滅んだ国など歴史に限りなくあるんだぞ」
「時には賭ける事も大事なのです」
「ブリッジやポーカー等と一緒にするな!」
「まあ作戦案を御聞き下さい」
山本の後ろから現れた参謀飾緒を付けた人物が口を挟む。
「黒島君もか! いや……連合艦隊首席参謀の君だからこそか」
絶句する米内を尻目に山本は宣言する。
「では、作戦について説明いたします、作戦名は{自由の海}作戦であります」
こうして作戦の説明が始まった。
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