140話 先制攻撃論
日本の貨物船が米軍の潜水艦の攻撃を受けたというニュースは衝撃を持って迎えられた。
日本は直ちに国際連盟に提訴し各国からも合衆国に対する非難は高まっていった。日本国内でも米国への報復を唱える者が出始めており険悪な雰囲気が漂っていた。
日本政府からの抗議に対して合衆国はでっちあげであり日本の自作自演であると反論し当日其の海域に自国の潜水艦は居なかったと発言した。
こうして両国の主張が食い違い、両者の対立はさらに深まるのであった。
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フィリピン アメリカ合衆国海軍在フィリピン司令部
この地に訪れた三人の男たちの所属はそれぞれ異なっていた。
彼らは司令官に面会を求め司令官は彼らを会議室に招いた。
「では、バシー海峡には潜水艦の派遣は無かったというのですな」
「それは声明で発表した通りだ、我が海軍がその様な海賊のごとき者と一緒にしてもらっては困る」
日本海軍の軍服を着た男が質問すると嫌そうな顔をした司令官が答える。
「ですが我が海保が救助した船員の中にカメラを持った者がおりまして攻撃してきたと思しき潜水艦が戦果確認の為に浮上してきた所を写しているのですよ」
海上保安庁の制服に身を包んだ男は数枚の写真を取り出す。
「この写真を分析した所艦橋の形や船体の形状から合衆国海軍の潜水艦であるとの結論が出たのですよ」
海軍の男が説明すると司令官は一瞥して反論する。
「なるほどそう見えなくも無いがこの写真だけでは我が国の艦だとは到底言えませんな。そもそも我が国は潜水艦をあの海域には配置しておらんのですから」
「なるほど、それは本当に間違いが無いのですな」
司令官の答えに最後の一人で背広姿の男が確認する。
「くどいぞ!」
「まあまあ、これは重要な事なのですよ、我がロイズはこの度一連の遭難事件にあった何隻かの船の保険を引き受けていました。当然船や積荷の保険金の支払いをしなくてはいけないのですよ、ですがそれは保険の金主達の損になります。ロイズでの金主の方々は欧州の貴族・富豪、名前は出せませんがやんごとなきお方も参加されております、勿論アメリカの方もいらっしゃる。当然ながら遭難事件の原因調査はしっかり行う必要があるのですよ」
保険調査員を名乗る背広の男はそう言って肩をすくめる。
「ですのでこれは公式な質問となりますが……」
こうして話し合いの結果海峡にはアメリカの潜水艦は居ないとの言質を引き出すのであった。
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司令部を出た3人は電信局に赴き電文を送ってもらうように依頼する。
「やはりと言ってはなんだが拒否してきましたな」
「予想通り過ぎて呆れます、あれで誤魔化せたというのでしょうか?」
海軍と海保の人物が会話をしていると、電文を手配していた保険調査員の男が会話に入り込む。
「彼らの思惑はどうあれ我が方は言質を取ったのです、{海賊には死の制裁を}ですよ」
「そうだな、死んでいった者たちにはせめての供養になればいいがな」
彼は表の顔ではなく裏の顔を見せて話していたのだった。海軍と海保は日本の東機関のメンバーで保険調査員は英国情報部(MI6)のメンバーである。皮肉なことに彼らの上司が同じ人物であることは彼らも知らない秘密であるのだが、その事を知る由もない彼らはフィリピンを後にしたのであった。
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バシー海峡 合衆国海軍潜水艦グランパス
「左前方5千メートルに貨物船らしき物視認、単独航海しています」
「最近は珍しいお客さんだな、護衛も無しとはな」
潜望鏡を覗く副長の言葉に艦長はお客さんの呼び名で獲物を表現した。彼らこそこの海峡で立て続けに起きている遭難事件の当事者であった。
「よし、雷撃深度まで浮上、艦首発射管開け、雷撃準備」
こうして目標への攻撃が命令されたがその事が命取りになるのであった。
そこには海中に潜み貨物船を狙うグランパスを捉えている者たちが居た。
「目標は雷撃準備を開始しております」
「攻撃しますか?」
「雷撃準備、艦首発射管1番から4番まで使用、1式魚雷を使う」
艦長は躊躇うことなく命令を下し流れるような速さで伝達された命令に従い攻撃準備が整っていった。
「台南の司令部より入電、{新高山ノボレ}です」
「よし、攻撃命令が下ったぞ、水雷長魚雷発射だ」
「魚雷発射します」
魚雷が発射されて水雷長がストップウォッチを片手に読み上げる。
「発射から5秒……10秒」
グランパス側では恐慌状態になっていた、今まで一方的に狩る側に居たのがいきなりかられる側になったのだ。
「魚雷推進音、近づく!」
「電池直列、電動機全開、面舵一杯! 浮上しろ、メインタンクブロー!」
艦長は魚雷から逃れようと色々な手を尽くした。だが魚雷は命中し艦は二つに折れ、後ろ半分は沈んでいき、前半分は海面に飛び出して暫く浮かんでいたが浸水が進み沈んでいった。
海面に浮かんだ遺留品や遺体、そして海面に飛び出た時に脱出した乗組員から米国海軍の所属である事は明らかであり国際的な非難は米国に集まった。
海軍長官代行を勤めるエジソンは関与を否定しでっち上げであると日本を非難した。遺留品などから判った艦名グランパスは直前に行方不明になっていた艦で日本の謀略で証拠として使われたとした。言外に日本によって拿捕されたような表現でそれを知った日本側の憤激を買う事となった。
「大統領、このような発表をしてよろしかったのですか?」
「構わんよ、元々それも計画の中なのだから、それよりニュージャージー州の知事選、頑張りたまえよ」
大役を終えたエジソンは長官代行を辞任し、後任にフランクリン・ノックスがついた。大統領の企みは次の段階に進んでいく事になる。
それは日本で動き出していた。当時政権を率いていた近衛文麿は御前会議を招集し、今後の日本の対策を検討するとした。そこで海軍が提案したのはアメリカへの宣戦布告と同時に行う奇襲作戦の実施であった。
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