幕間話 11話 紀元二千六百年特別観艦式
※このお話は以前あった{軍艦撫子}話に繋がっております。
本筋の話ではありませんので興味の無い方は次へお進みください。
今回は2話同時に掲載しております。
1940年10月11日
欧州で大戦がはじまって約一年経ったこの日紀元二千六百年を祝う式典の一環として特別観艦式が執り行われた。戦時中という事で当初の規模よりも縮小されてはいたが国威発揚という面を考えて中止や延期は為されなかった。
流石に欧州に派遣されている艦艇が多いので艦艇数の参加は少なかったため何か目玉になる物があればと関係者が考えていた頃ある野望に燃える男が好機到来とばかりに密かに動いていた。
「よろしいのですか? 大臣や次官にも知らせずにこのような事をして」
「構わん、いいか良く覚えて置くことだ、この世で最も強い台詞は{可愛いは正義}だ!」
「はあ」
部下の諫めも何のその、その男平出英夫少将は自分の欲望の元暗躍を始める。
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「やはり艦の数が少ないので迫力に欠けるか」
「ではどうする?」
「就役した護衛空母や護衛駆逐艦も出すか?」
「なんとかも山の賑わいだな、ボリュームはともかく華に欠けるが……」
「では不意打という事でこんなのはいかがでしょうか……」
「なんと! そんな事ができるのか?」
「可能だと艦政本部から言質はとっております」
「判った、それを検討してみよう」
全く別の所で別の企みも進行していたのであった。人手不足と式典に向けての繁忙によってこれらの動きは軍上層部も把握していなかった。
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観艦式当日
観艦式は滞りなく始める事が出来た、陛下の乗る観閲旗艦はもはや不動と言っても良い比叡である。軍人も所詮は役人であるのでなにも仰らない陛下の気持ちを忖度しておりそのことに誰も違和感を持たなかった。
「第五列は以上であります……そして列外としての艦船の紹介に移ります」
観閲旗艦{比叡}上で主要な艦船の披露が終わっていた。乗り込んでいた者たちは口々に感想を口にする。
「やはり物足りないな、戦艦も{長門}と{陸奥}しかいなかったしな」
「皆欧州に行ってるからな、さっきの第5列なんて工作艦と護衛空母しかいなかったぞ」
其処に広報担当者からの案内が入る。
「右手前方をご覧ください、この観艦式に合わせ急遽参加を決定した艦が到着しました」
皆がそちらに向くとこちらに波を蹴立てて向ってくる二隻の艦が見えた。
「あれは? ずいぶんと大きい!」
「見たことも無い艦だ、アレは何だ?」
艦船に詳しい者たちが見知らぬ艦に驚きの声をあげていると、その艦たちは長門の横に並ぶようにして停泊する。
「で・でかい! 長門がまるで戦艦と並ぶ巡洋艦のようだ」
「もしかしてこれが……」
其処に広報官が情報を開示する。
「現在艤装中の大和級戦艦の一番艦大和と二番艦武蔵です、今日の日に間に合わす為に此処に来るまで突貫工事を行って間に合わせました」
見ると主砲などは搭載されて居らず、白いカンバスシートに覆われており竣工するにはもう少し時間が必要だと判る。各艦の舷側にはここに来るまで突貫工事をしたであろう工員たちが並んでいた。彼らは晴れの観艦式にいつもの作業着姿で出る事に躊躇っていたが艤装委員長からの強い勧めで整列したのであった。
事実彼らの働きを称える声が各艦から巻き起こり、観艦式は大熱狂で閉幕するはずであった。
その後に現れるアレが無ければである。
「おい! もう一隻シートを被せた艦が来るぞ、あれは何だ?」
「あれは、金剛ではないか?機関の故障で横須賀工廠で修理中のはずだが?」
艦政本部の者たちが乗っている艦から驚きと困惑の声が上がる、機関を突貫修理で仕上げ観艦式に間に合わせたのかと皆が思っていた処、艦の舷側に張っていたシートが取り外された。
「な! なんだあれは!」
「神聖なる軍艦になんという事を」
「萌えますな」
「漢字が違うだろ! いやそういう問題ではない!」
「これぞ芸術だ、そもそも芸術とは爆発のような物であり……」
見ていた者たちの発言の中にはおかしな物もあったが概ねは驚愕といった雰囲気であった。
比叡の艦上は陛下の周辺を中心に凍り付いたようになっていた。しわぶき一つせず艦が波を蹴立てる音だけがやけに響く。
「へ・陛下……」
陛下の御傍に控えていた鈴木貫太郎侍従長は鋭い目で金剛を見る陛下の姿を見て絶句した。そして先程目にした物を恐る恐る再び凝視した。
それは金剛の舷側狭しと描かれた軍艦撫子の金剛の絵姿である。横須賀工廠の最新の船渠で密かに集めた絵描きたちに平出少将が書かせたもので渾身の力作であることはその筋の者であれば直ぐに判る物であった。
比叡艦上に居並ぶ海軍の重鎮たちは顔面蒼白になっており、陛下からどのようなお叱りの言葉が発せられるのか戦々恐々であった。
「か……」
陛下の口からこぼれた言葉に身を竦める重鎮たち。
「可愛いではないか! そうではないか?」
侍従長の方に顔を向けられ笑顔で話す陛下に全身肝のような侍従長も顔色なく。
「はっ!」
と答えるのがやっとであった。
この陛下の一言が多くの関係者の首を繋ぎ(物理的にも)この世界に新しい概念を誕生させた。
すなわち{可愛いは正義}ということを。
その言葉は国語辞典にも載せられ国民に広く受け入れられた。
随分後にこの騒動は総研の所長が陛下と謀って平出少将を実行役として行った壮大なプロパガンダであったと報じた某国営放送のドキュメント番組があったがその時には関係者は皆いなくなっており壮大な謎として残ったのであった。
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