137話 国境防衛戦
「ソ連軍後退しました。ソ連軍の死者は凡そ2万、捕虜は約6千名、殆どが前線で使い捨てにされる懲罰部隊の兵士です、彼らは本隊が壊滅するとすぐに降伏を申し出てきました」
「そうか、哀れな者達だな、怪我の手当てはちゃんとしてやれよ」
「判りました、捕虜の収容については同盟軍からの指示に従って行うようにします」
「ですが如何して出身地ごとに分けるんですかね?」
「さあな、其の辺は聞かされてないからな、何か思惑があるんだろう、司令部に報告を入れて置け」
前線の機甲部隊では司令官と幕僚たちがこんな会話をしている頃後方の司令部では司令官が報告を受けていた。
「将軍、ロンメル閣下の第7機甲師団はソ連軍を撃破、ソ連軍は200キロ後退した模様、現在航空部隊による追撃が行われております」
「そうか、新型戦車が出ているという話だったが5号や6号の敵ではなかったか」
報告を受けたグデーリアンは満足そうに頷く、日英軍相手では必ずしも有利でなかった戦車であったが、相手がソビエトであれば十分戦えることが証明できたからだ。
「航空部隊の方も戦闘機部隊の十分な援護を受けていますから戦果を挙げる事と思われます」
参謀の言葉に頷きながらグデーリアンは僅か2週間前に起こった事が今でも夢ではないかと感じていた。
(我が軍が日英軍やポーランド軍と肩を並べて戦うなんて誰が想像したというのだ)
ポーランドのソビエト側国境にドイツ軍を展開させる事になったあの日の事をグデーリアンは思い出していた。
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2週間前 ドイツ=ポーランド国境地帯
「武装解除ではなく転進ですか?」
思わず目の前の日本陸軍将校に問いただすグデーリアンがそこにいた。
「そうです、閣下たちの軍はポーランド国内を通りソビエトとの国境地帯に展開してもらいます。これは我が同盟と貴国との間で行われている講和の一環であると理解いただきたい」
答えているのは第3軍参謀長を務める永田鉄山大将である、ダンケルクの戦いで勝利した時に戦時昇進で大将になった為軍服に対して真新しい徽章が目立つ彼が話しているのはドイツとの講和の条件にドイツ軍による国連の平和維持活動への参加という一文があるからである。
前回の大戦での講和条件に多額の賠償金が設定された為にナチスの台頭を招いた事を受けて、金ではなく物納をすることで賠償金の額を下げようとする狙いからである。もちろん純粋に日英軍も疲弊しており正直猫の手も借りたいほど対ソ戦に戦力を必要としていたのもあったのだが。
この講和に関してフランスが難色を示していたのだがいまだビュシーとパリで2つの政府が睨み合いを続けているフランスには講和に関して口を挟ませないというのが各国の意見であり、フランスも一方的にドイツと講和して同盟軍に負担を掛けたためビュシー側はともかくド・ゴールの側も強く主張できずに押し切られた。アルザスとロレーヌ地方の帰属をフランスに確定する位で手を打つ予定である。
そして今回のソビエトの停戦破りに対して国連は全会一致でソビエトに対しての軍事介入を決定し当事国であるポーランド・フィンランドに加えてイギリス・日本・オーストリア・イタリア・スペイン・イスラエルが参戦を表明、そこにドイツが加わる事となったのである。
「政府の命であれば従います、ですがポーランドのソビエト側国境までかなりの距離がありますが」
「その辺りは問題がありません、我が国の工兵師団が輸送のお手伝いをします」
永田参謀長は隣に立っている将官を紹介する。
「秋山徳三郎です、閣下の部隊は我が師団の鉄道連隊が輸送します。ご安心ください」
その言葉通り秋山中将の指揮する鉄道連隊は鉄道を使いドイツ軍を迅速に輸送していった。重量のある6号戦車もそのまま運ぶのであった。国境沿いのポーランドの鉄道線に作られた臨時の貨物ヤードでは特別編成の列車が編成されつつあった。
「虎(6号戦車)は赤線の入ったクレーンで積め! でないと重さでひっくり返るぞ」
「機関車をもう一両繋げ、重連でないとこの編成の列車は引けんぞ」
凸型をしたディーゼル機関車が先頭にいた同型の機関車に接続されて出発準備が整っていく。
「我が国の戦車や砲は大型だ、そのまま積んで走れるのか?」
質問をするドイツ軍の将校に鉄道連隊の将校が答える。
「問題は無い、すでに終点までの間の建築限界を測定しているからな、引っかかる所はこちらが補修済みだ。あとはあそこを潜れれば問題は無い」
指さす先に見えるのは木で作ったトンネルのような枠組みで荷物の積まれた貨車がそこを潜ってから列車に連結されていく、どうやら建築限界を示す物でそこに当たらねば問題は起きないという事らしい。
こうしてあれよあれよという間にドイツ軍は国境に送られ他の国の軍と並んで布陣するのであった。
「やれやれ、後方部隊の差だけで我が国が敗れた訳が判るというものだ、だが我々は運がいいという事だろう。少なくとも本国深くまでは兵火に晒されずに済んだのだからな」
グデーリアンが言うと参謀たちも頷く、そこに電文を持った参謀が報告する。
「我が空軍の爆撃隊が敵機甲部隊を捕捉、これを撃滅せりです」
その報告に司令部はさらに沸き立つのであった。
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「新型戦車18両撃破、その他車両25台撃破、まあまあだな」
「出撃してまだ三日でそれだけの戦果を挙げたのは中尉位の者です、大体同盟軍との戦い中でもそれだけの戦果を挙げられた爆撃機乗りは居ませんよ!」
「そうか? Ju87Gは乗りにくいが戦果は挙げられるがなあ?」
後部座席に座る機銃手はそんなことが出来るのは貴方だけですと言おうとして止めた。何故か凄く徒労感が漂っていたのであった。
「それよりルーデル中尉、もう燃料も弾も有りませんが」
「おお! そうか、では引き上げると基地に連絡してくれ、燃料と弾を用意して待ってろと」
「もう勘弁してください! 朝から3回も出撃しているんですよ、休ませてくださいよ!」
流石に機銃手もキレて文句を言う。それをしり目にハンス・ウルリッヒ・ルーデル中尉は代わりの機銃手を乗せて出撃し、さらに戦果を挙げるのであった。
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