134話 クーデターから始まる終戦
ライン川東岸
「閣下、部隊の再編制ですが暫定的には終了しました」
「そうか、それでやれそうか?」
「重火器や火砲、戦車が不足しております。補給が来ませんと満足な戦闘は出来ない物と」
「橋を落とされたのは痛かったな。浮橋では重いものは乗せられないからな」
ヘルマン・ホトの指揮する第10軍は何とかライン川を渡りそこで防衛線を構築していた。一緒に後退した他の部隊を編入して数だけは居たのだが殆ど身一つで逃げ出した者が多く武器が不足しており中央からの補給待ちであった。
「中央にいた編成中の部隊は殆どがポーランドやオーストリア国境に送られているそうです」
「あちらの守りは手薄だったからな、攻められればベルリン陥落もあり得るか」
「こちらもルーデンドルフ橋を敵に抑えられています。そこを橋頭保として侵攻されたら……」
「あまり考えたくない未来だな、ええ?」
彼らは防御を固くして敵が侵攻するのを待ったがどういうわけか日英同盟軍は現れなかった。
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ダンケルク~アラス中間地点
「隊長、虎5両、豹12両その他22両生け捕りにしました」
「結構な戦果だな、いつものごとく待機所前に並べとけ」
ドイツ軍が去った後に残されたのは燃料切れで放棄された戦車やトラックに牽引された砲などである。放棄する際には爆破して放棄する決まりになっていたはずだが脱出を急いだのか無傷の戦車などが道路際に点々と置き去りにされておりその無傷の物を生け捕りという表現で回収していたのであった。
「こうなってみると哀れな物ですね」
ずらりと並べられた戦車を見て帳面に記載している兵士が言うと、隊長が頷く。
「それだけあの攻撃が凄まじかったってことだな」
艦砲射撃の凄まじさに加え反撃に転じたダンケルクの同盟軍の攻撃は苛烈を極めた。特に特火連隊の自走15糎半榴弾砲と自走多連装噴進弾発射機(MLRS)による制圧射撃でドイツ前衛部隊を文字通り{火葬}した後に戦車を前面に出して前進、辛うじてパウルスの第6軍が防衛線を構築することで押しとどめていたが気化弾頭を装備した地対地噴進弾の攻撃で遂に第6軍を降伏させたため逃げ遅れた部隊は軒並み降伏する事になり捕虜は最終的には20万を越えると言われている。ライン川を渡って帰還できたのは40万程だが武器を失い負傷者も多いのでまともに戦えるのは10万も居ないと見られていた。
「戦死者は20万に届くと言われてるが艦砲の直撃を受けた部隊は木っ端微塵になってしまって実際どのくらいなのか見当がつかないそうだ」
「戦艦はおっかないですね、そういや敵にも戦艦は居たはずですけどどうなったんですか?」
「ビスマルクとティルピッツの事か? 既に沈められているよ。陸上の反攻作戦と同時に海軍が泊地に殴り込みをかけたんだそうだ。Uボートの基地と軍港に巡洋艦部隊が攻撃を掛け、出航していた独逸戦艦部隊は待ち伏せしていた潜水艦が沈めたそうだ」
正確には潜水艦による雷撃の後機動部隊からの航空攻撃で止めを刺したのだが、わざとその情報を秘匿しており味方も知らないのであった。
「あのグスタフとかいう列車砲はどうなったんですか?」
「ああ、あれは戦略爆撃隊が掩体壕に隠れていたのを見つけて止めを刺したそうだ。かなり頑丈な壕だったようだが新型の貫通爆弾を使用して破壊に成功したんだそうだ」
「そいつは凄いですね、では余勢を駆ってそのままドイツ領に殴りこみを掛けるんですか?」
「そいつが妙な事に降伏した敵軍の武装解除を行うんで、ライン川を挟んで待機せよと言われてるそうだ、唯一ルーデンドルフ橋のみ対岸の地を確保せよとなってるがな」
「どうしてなんでしょうね?」
「お偉いさんの事が俺たちに判る訳が無いだろうが、さっさと次の獲物を捕らえて来い」
「了解しました!」
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ドイツ ベルリン
ヘルマン・ゲーリングはベルリン空襲を阻止できなかった責任を取らされて空軍総司令官の職を追われて現在森林長官を務めていた。今日はナチス指導者のヘスの招集を受け自宅から車で向っていた。
「いやに軍人が多いな」
お気に入りのメルセデスの車窓から外を眺めていた彼は外の風景の違いに気がついた。
「オーストリアとポーランドの侵攻に備える為に動員をかけた部隊がベルリンに集まっているそうです。ベルリン市民に見送られて出征式を行うと通達が来ております」
彼の秘書は通達された内容を知らせる。
「ふん、ゲッベルス辺りの考えそうな事だ、良く親衛隊が黙って居た物だ」
「その親衛隊からも支持されての事なのです」
「そいつは妙だな、良くヒムラーが許可した物だ」
会話をしていると車は官邸に着いた。
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「我々は重大な決断を迫られている」
会議が始まるとルドルフ・ヘスはこう切り出した。
「本土を戦場としてあくまで戦うか、講和を求めるかですか?」
アルベルト・シュペーア軍需相が質問をする。それにヘスは頷き返し、言い足した。
「私としては国土を戦火で荒廃させたくは無い」
「何を弱気な事を! 損害を受けたとはいえ国防軍は健在です、反攻作戦はこれからですぞ!」
ヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相が激高して机を叩く。
「だが、海軍は壊滅、空軍もかなりの損害を受けている、陸軍では精鋭百万が撃破され、残存部隊は装備も十分に支給されていない」
ライヒスバンク総裁を務めるヒャルマル・シャハトが指摘すると苦虫を噛んだような表情でゲーリングが反論する。
「我が帝国の勇敢なる兵士たちはその様な困難でも必ず敵を打ち破る、君は銀行にちゃんと金の勘定をするように命令すればいいのだ」
捲くし立てていると外で爆発音と衝撃でガラスが揺れた。
「なんだ! 爆撃か? 空襲警報は無かったぞ」
ざわめく中、会議室に国防軍の将校がノックもなしに入り敬礼をして報告する。
「緊急事態であります! 官邸のすぐ近くで爆弾が爆発しました! 反政府グループによるテロと思われます」
「何だと! 直ちに警戒態勢を取れ、親衛隊員はどうした? 何故此処に来ない!」
ヒムラーが声を荒げると、入室してきた将校は気の毒そうに告げる。
「閣下、親衛隊は動きません、正確には動けなくなっております、彼らは一部を除き国家反乱の容疑で拘束されて居ります」
「馬鹿な! そんなはずは無い」
掴みかかろうとするヒムラーに対して将校は拳銃を抜き突きつける。
「お静かに、ここに居られる方々全てに国家反逆容疑が掛かっております。申し遅れましたが私はクラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク少佐であります。反逆者を捕らえた後新政府は同盟軍へ講和を申し入れる事になります……連れて行け!」
最後の言葉はシュタウフェンベルク少佐の後に入室してきた兵士たちに告げたものであった。サブマシンガンを構えた兵士たちがヘスたちを拘束していく。
「クソッ! ゲシュタポや武装親衛隊はどうしたのだ?」
手錠をかけられたヒムラーが叫ぶと気の毒そうな顔をしたシュタウフェンベルク少佐が答える。
「彼らはラインハルト・ハイドリヒ親衛隊大将の命令で武装解除したよ、反抗した者もヴァルター・シェレンベルグ中佐が部隊を率いて鎮圧した」
「あ・あの裏切り者が! 地獄に落ちろ!」
叫ぶヒムラーを先頭に連行されていく閣僚たち、ゲーリングは他の者たちがうろたえたり、叫んでいたりする中で静かにしていたが、ふと シュタウフェンベルクに尋ねた。
「我々は同盟軍に引き渡されるのかね?」
「閣下達は我が国の裁判所で裁かれます、ドイツでの犯罪はドイツで裁く、国連からは特別検事や裁判官が派遣されるでしょうが……」
「いや、判った。 これが国民の声であると言うのならそれに従おう」
こうしてクーデターは成功し臨時政府が樹立した。そして直ちにイギリス・日本の同盟軍に対して停戦と講和の申し込みを行ったのであった。
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