130話 ソウルクラッシャー作戦3
ダンケルクから後退するドイツ軍に驚くべき知らせが入った。
同盟軍の攻撃によりライン川に掛かっていた橋がルーデンドルフ橋を残して破壊され残ったルーデンドルフ橋に戦車等の重装備を持った同盟軍が侵攻し橋は占領された。
「馬鹿な! 同盟軍は魔法でも使ったというのか! どうやったら数百キロも離れた場所に重装備の部隊を送れるんだ」
そう叫ぶ将軍も居たが現実は過酷である、彼らはライン川を渡り本国へ帰ろうと雪崩を打って後退して行った。
だがこれは始まりに過ぎないのであった。
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話は少し遡り〔ソウルクラッシャー作戦}開始のBBC放送があった頃、フランスのコタンタン半島に近づく船団があった。彼らは上陸用舟艇を用いて海岸から上陸に成功する。この地域にはフランス軍が皆無の状態であったからだ。
その理由はド・ゴールが樹立した自由フランス軍にあった。ドイツ軍と講和した政府に対して同盟軍とともにドイツと戦うとした彼らには当初ド・ゴール直卒の機甲部隊と外人部隊しかいなかったがドイツとの講和を良しとしない部隊が続々と駆け付け一大勢力となっていた。政府はそれを認めずに軍を差し向けたがその軍がド・ゴール側に寝返るなどし、大衆もド・ゴール支持に廻り、パリに向けて進撃した自由フランス軍の勢いを恐れビュシーに逃げ出した。パリに入城したド・ゴールは臨時大統領を名乗りフランス統一に乗り出したがビュシー政府側に着く者もおりそこで国内で睨み合いという事になったのであった。その為コタンタン半島は無防備な状態になっていたのだ。この対立は海外の植民地にも及びその事がある重大な事件を起こす事になる。
「部隊上陸に成功しました」
「よし、これからは長距離走だ脱落するなよ」
「ハッ」
最初に上陸した部隊の特徴は徹底した機械化部隊であることである、歩兵も全てトラック等に乗り砲も牽引されていた。最も特徴があるのはこの部隊には戦車が居ない事であろう、無論戦車に代わる物は存在するのではあるが。
「機動戦闘車隊、前進せよ」
ディーゼルエンジンの音を響かせながら発進するのは大きな装輪を片側に4つ着けた戦車のような形をした車両である。これは小松製作所が兵員輸送用に製作した三十八式装甲装輪車をベースに開発された物である。元々陸軍の機械化師団用に開発されていた物だがある研究所がこれをベースにファミリー化を進言した為にこの機動戦闘車が誕生したのだった。
この他に指揮通信車や偵察警戒車に炊事自動車まで作られている。この機動戦闘車は戦車と同じ砲塔が付いているがそれは90ミリ新砲塔に換装した三十五式戦車の余剰となった七十五ミリ砲を砲塔ごと移植したのだ。
一式機動戦闘車
全長 8.6メートル
全幅 2.9メートル
全高 3.1メートル
重量 27トン
速度 105km (舗装路)
主砲 日本製鋼製 三十五式60口径75ミリライフル砲(三十五式戦車を新砲塔に換装した後の余剰砲を移植)
エンジン 三菱 空冷4ストロークV12気筒ターボチャージドディーゼルエンジン 600馬力
「我々がドイツ軍の後方に回りこまねば{大反攻}は成らぬ、各員奮闘努力せよ!」
指揮車からこの部隊、独立混成第一機動連隊に激を送るのは連隊長になったばかりの島田豊作中佐であった。彼らが先鋒となってドイツ軍の後方を進み退路を断つという重大な任務を受けていたのであった。
「レッキによるとこのまま街道を進み分岐点には連絡員が待機して誘導する事になってますが、何時の間に潜り込んでいたのでしょうか?」
「恐らくはこの戦争が始まる前からだろうな、でなければこんな物が作れるはずが無い」
副官の質問に島田はレッキを指しながら答える。其処には道路状況が事細かに記入されており舗装の状態から、急カーブなどの情報も記されていた。
「凄いですな、速度の指定までしてある」
「これが有ればフランス領内はあっという間に通り抜けられるな」
彼らは知らなかった。ドイツ領に入っても新たなレッキが用意され案内人が用意されている事を。
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島田の率いる部隊は順調にフランス領を進んでいた。
彼らは道の状態の良い所では時速80キロを越える速度を出していたが落伍した車両は殆ど居ない。装甲戦闘車を先頭に兵員輸送車や食料弾薬を積んだトラック、そして三色迷彩が施されたスーパーカブに乗るオートバイ部隊の姿も見える。
「順調に進んでいます、現在の所ドイツ軍は見えません」
街道脇で現地協力者たちが用意した燃料を補給しながら副官が島田に報告する。
「有り難いな、フランス=ドイツ国境までこのままなら良いがな、そういえば第二陣はどうなっている?」
「こちらも順調です、あちらは戦車を連れてますからね、いくら運搬車に積み込んで運んでもこちらよりも移動速度が違います、一日遅れくらいですかね」
「そのくらいなら問題ないな、その頃には航空支援が受けられるだろう、ああして設営隊が頑張っているからな」
島田が指差す先には平原に穴のあいた鉄板を敷き詰めている設営隊の姿があった。
「ああして臨時の飛行場を作っておいて航空部隊を進出できるようにしてるからな。陸空両方から攻撃を仕掛けられるわけだ」
島田たちは知らなかったが設営隊以外にも先行して潜入していた工作員たちが各所に臨時飛行場を設営しており一部部隊も到着していた。こうして彼らはフランスの国境を越えてドイツ領に雪崩れ込んだ。
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進出した航空部隊は直ちに攻撃に参加する。戦闘機に守られた爆撃機隊はまずライン川にかかっている橋を攻撃するために飛び立った。そしてルーデンドルフ橋を除く橋をすべて破壊した。そしてルーデンドルフ橋には橋の奪取を狙う島田の部隊が向かっていった。
「この橋は落とすなという事だ、無傷で奪取せよ!」
橋のたもとに布陣するドイツ兵の陣地に機銃を撃ちかけながら島田が命令を下す。車両を降りた歩兵たちが遮蔽物に隠れながら近づいていく。
「敵の工兵が橋の橋脚に取り付いています、爆破する積りでは?」
「爆破させるな! 狙い撃て」
工兵に対して銃撃を行うが、ドイツ軍も必死で反撃を行い前進できない。戦闘車は対岸に向けて砲撃を開始している、対岸から砲撃をしようとする敵に反撃しているのだ。
「隊長! 味方です」
副官が指さす先には回転翼機が多数見えていた。彼らは低空を飛び、高射砲を避けてきたのである。その中のスリムな機体の下部に取り付けられた発射機から噴進弾が一斉に打ち出されて敵陣で炸裂した、すると日本軍地上部隊に向けての攻撃が落ちていった。
「今度は降下兵を下すのか」
島田が双眼鏡で状況を把握していると今度は大きめの回転翼機が対岸に向けて高度を落としながら近づいていき下したロープから部隊が降りていく。
こうしてルーデンドルフ橋は占領されその他の橋を落とされたドイツ軍は退路を断たれたかたちになるのであった。
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