128話 ソウルクラッシャー作戦 1
※ 最後の方説明くどかったですかね?
BBC放送のニュース番組の中でヴェルレーヌの「秋の歌」の前半部が朗読された。これが作戦を開始するという合図であった。この放送は各地の海賊放送局にも転送されて放送された。
ドイツ軍では国防軍情報部のヴィヘルム・カナリス大将がこの放送に気付き何らかの動きがあると警告を発した。
だが陸軍上層部はダンケルク沖に同盟軍の大船団が集結しつつあるという偵察情報を受けていたのだが、ルントシュテット元帥らはその動きはダンケルクから撤収する為の作戦行動であるとして現地部隊に更なる攻勢をかけるように指示した。
だが実際にはまるで反対の事が行われていたのであった。
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「独立特火第一連隊は揚陸完了しました。直ちに攻撃準備に入ります」
「判った、別命あるまで攻撃態勢のまま待機せよ」
ポーランドとソ連との戦いで活躍した{特火大隊}は試作兵器をすべて使用した後、イギリス本土へ戻り補給と増援を受け大隊から連隊に改変された。独立という名は師団に属さずに司令部直轄部隊という意味である。
その外にも揚陸艦からは戦車や砲が続々と下ろされていき配置についていた。それは地上だけではなかった。
「総員聞け、我が義勇ロシア共和国空軍第一航空隊は今回の{大反攻作戦}支援の為にダンケルク上空での防空任務に着く事となった」
「本当ですか! 姫様」
「本当だ、それと姫様はよせイーナ、私は一空軍士官としてここに居るのだ」
「失礼いたしました」
イリーナ・テレシコワ少尉は少しおどけた敬礼をしながら答える。
「ですがこれで仮想敵任務ともお別れですね」
サーシャことアレクサンドラ・アシモフ少尉が嬉しそうに言うとエカテリーナは微笑みながら答えを返す。
「そうだな、やっと戦える」
「ですがこれまで頑なに断られて来たのにどうしてなんでしょうか?」
アレクサンドラの姉でイリーナの僚機を勤めるスターシャことアナスタシア・アシモフ少尉が質問するとエカテリーナは顔を引き締めて答える。
「今回は同盟軍の総力を挙げての一大決戦なのよ、私たちを遊ばせておくほど彼らも余裕が無いといった所かしら? いかがです? 父上」
その視線の先にはジェームズ・ブラックリー子爵こと本郷が立っていた。
慌てて敬礼をするイリーナたちに問題ないと告げて本郷が口を開いた。
「理由としては50パーセント位だな」
「では、残りはどういう理由で?」
「それはお前の生まれにある、ニコライ2世陛下が退位されてアレクセイ1世陛下が王位を継承された、だが持病がありその病気は子供に遺伝する事が判ったのだ、そこでアレクセイ陛下は生涯独身で過ごされて王位は姉妹の子に継承させると宣言されたのだ、其れがエカテリーナお前なのだ」
「どうして私が?」
「今のロシアにはソ連に奪われた故地の奪還という悲願がある、それを為すには国民の強い支持が必要だ、お前は王族でありながら軍人として戦場に立ち国の為に働いている、国民の間ではロシア中興の祖とも言われるエカテリーナ2世の生まれ変わりだといわれているそうだ」
「そんな事が……」
「だからお前に求められることは一つだ。死ぬな! この戦いを生き延びる、それがお前の戦いだ」
「ハッ! 肝に銘じます」
「「「「我々も姫様の身を護ります」」」」
彼女たちは一斉に本郷に向け敬礼をした。
「よろしい、お前たちはお前たちの戦いをしろ、俺は俺の戦いに出向く」
「父上も戦場に出られるのですか?」
「ああ、飛び交うのは砲弾などではないがな」
娘の出陣を見送った本郷は自分の戦場に出発する。それはこの大戦の帰趨を左右するであろう重要な場所であった。
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譲視点
大西洋 スペイン沖
船団旗艦を務める明石はジブラルタルを抜けて大西洋に出ていた。
すでに足の速い戦艦や空母は先行しておりすでに戦場に着いた頃だろう。無線封止しているので正確な動向は判らないが。
イギリス本国から来た対潜対空掃討隊が航路の掃除をしてくれたからUボートの襲撃は受けてないはずだ。我々の所にも到着して警戒に当たってくれている。
「交代の対潜哨戒機が発艦しますな」
明石の艦長を務める鶴岡大佐が指さす先には護衛空母岩殿の飛行甲板から回転翼機が飛び立つところであった。
「Uボートは居るのかね」
大物たちが通った後だからそちらの襲撃に躍起のはずなんだがと思ったが流石に本職は考え方が違うらしい。
「その分警戒が厳しいと考えて後方を進む補給部隊を狙う奴もいるようで」
なるほどね。
「まあ、明石は幸運だから大丈夫だろう、艦長も運がいいしな」
「まあ、運がいいからだけで戦争が出来れば問題ないのですが」
軽口をたたくと困惑した様子だな、だけど鶴岡大佐は前世の世界では幸運な人なんだよな……扶桑の艦長になった時同期の艦長がお祝いに尋ねてきて昼食を共にして夕食はそちらの艦でとなったその午後にその艦陸奥は柱島で謎の爆沈をして難を逃れる。その扶桑が出撃する前に異動となって艦を降りるがその出撃がレイテ沖海戦で扶桑はスリガオ海峡で沈み生存者が殆ど居ないという事になる。更に31戦隊司令になり沖縄に出撃する艦隊の護衛を九州沖まで命じられるが豊後水道の処でその艦隊旗艦大和から帰投するように命じられ同行を願うも却下される。大和は九州沖で沈み、又難を逃れた形になった。本人は後に取材を受けて「運には恵まれたが武運には恵まれなかった」と答えたという。
まあそれを買ったわけではないが工作艦の艦長なら武運はいらないし向いてると思うんだが。
そんなことを考えていると何か起こったようだ。
「お客様のお越しのようですな」
鶴岡大佐が指さす先にはあわただしく動く艦艇の姿があった。
「潜水艦の反応があったそうです、駆潜艇31号と55号が向かうそうです」
通信士からの電文を鶴岡大佐が読み上げてくれた。中々ドイツもやってくれる。
「だがまあ運気はこちらにありだ」
俺は艦長の運の良さを信じることにした。偶にはこういうのもいいだろう。
そして潜水艦が居るであろう海を見つめるのであった。
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