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平賀譲は譲らない  作者: ソルト
3章 昭和編
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127話 決戦!ダンケルク 6

「敵はアナグマの様に高地にトンネルを掘り潜んでいたものと思われます」


「やるな、しかも鋭い牙を持ち合わせている」


 パイパーは砲塔天蓋に命中弾を受け大破した戦車ティーガーを観察していた。これは攻撃を受け擱座した戦車を必死の思いで回収車が引っ張ってきた物である。


「これは成形炸薬弾による物です」


 親衛隊の中で砲弾に詳しい士官が報告する。


「成形炸薬弾?」


「モンロー/ノイマン効果を応用した砲弾です。すり鉢状に成形した炸薬にそれに合わせた金属ライナーを装着する事で爆発の衝撃波を一点に集中しその圧力で金属ライナーがユゴニオ弾性限界を越えて流体として振る舞い超高速の金属噴流を装甲板に叩きつけて貫通させるという物です」


「意味が判りにくいがそれを食らったと言うのか?」


「はい、こいつを食らったらたとえ6号戦車ティーガーの正面装甲でも危ないですよ」


「そんなにか! 我が軍ではそれは開発していないのか?」


「我が軍でも開発はしています、この砲弾は戦車砲の様な初速の早い砲では効果が出ません、むしろ遅い砲の方がいいのです、奴らは歩兵砲と迫撃砲で使ってきました、我々は歩兵が携帯できるロケット弾に搭載を決めておりもうすぐ配備されるそうです」


「日本軍の方が一歩先んじていたのか」


「どうします? 戦車を投入するのは危険ですが」


 副官が問いかけるとパイパーは暫く考えていたがやがて顔を上げた。


「敵が穴倉に篭っているのなら我々は狩り出すだけだ、ダックスフントのようにな」


>>>>>>>>>>>>


 次の攻撃は工兵と装甲擲弾兵が塹壕を掘って前進し、後方から戦車が砲撃支援する形となった。

これは歩兵砲と迫撃砲の射程外に戦車を置く事で成形炸薬弾の攻撃を受けないようにするためである。がむしゃらに進む事で彼らはあっという間に高地の坑道まで侵入した。


  ここでドイツ軍は火炎放射器や毒ガスを使う積りであったが坑道の入り口に仕掛けられた対人地雷クレイモアにより損害を受けた、どうやらそれらの攻撃に備えていたようだった。止む無く装甲擲弾兵が坑道に突入し掃討することとなった。


 坑道の中での戦いは凄惨を極めた、銃撃の応酬から始まり遂には白兵戦に移行するまで時間は掛からなかった。着剣した銃で渡り合う両軍兵士たち。その中で奮戦していたのは迫撃砲弾を撃ちつくした船坂少尉である。


「ふん!」


 突き掛ける装甲擲弾兵をかわし逆に致命の一撃を叩き込む。さらに迫る兵の顔面に銃床を叩きつけ、その隙に突き掛ける兵から銃をもぎ取り銃で頭を殴りつける。さらに奪い取った銃を槍のように投げその銃は迫ってきた兵を貫いた。


 しかし、船坂少尉の奮戦も空しく一区画ずつドイツ軍は侵攻し、両軍の流す血は坑道から溢れて流れ文字通り屍山血河を築いたのである。


「誰か! 誰か居ないか?」


 敵味方の死体の間を船坂少尉は縫うようにして歩いていた。その姿はまさに幽鬼と言ってもいいものであった。服は破れ全身に傷を負い片足を引きずっている。


 彼は坑道を進み大隊の司令部があった所まで来た。其処はさらに悲惨な状況になっていた。ここまで敵が攻めて来た時に坑道に仕掛けていた爆薬を使い自爆攻撃を行っていたのだった。


「こ・ここに居るぞ……」


「その声は……野中大隊長!」


 瓦礫の中から掘り出された野中中佐は既に虫の息であった。むしろ此処まで生きていたのは奇跡と言ってよいだろう。


「大隊長しっかりしてください!」


「その声は…船坂少尉か、迫撃砲部隊はどうした?」


「皆戦死しました、自分のみが死に損ないました。大隊はどうなったのでありますか?」


「各持ち場からの連絡が取れなくなってからこの司令部に敵が押し寄せてきた。そこで爆薬に点火したのだ」


「では!」


「恐らく全滅したのだろう」


 野中中佐の顔は悲痛に歪んでいた。


「爆発音と衝撃が何度もあったから皆坑道を爆破して敵兵を道連れにしたのだろう……少尉今日は何月何日だ?」


 問われた少尉があれこれ考えて答えると野中中佐は安堵した表情をする。


「そうか、総司令部から命令を受けた日数は持ち堪えたか……少尉、此処での任務は終了だ。脱出して本隊と合流せよ、そして復命するのだ{第二大隊は任務完遂せり}とな」


「そんな! 中佐を置いては行けません」


「俺はもう駄目だ……力が全く入らん、大隊で生き残ったのは少尉だけだ、少尉には俺たちの戦いを報告してもらいたい」


「出来ません、私もここでお供します」


「生きて帰れたら伝えて欲しい………弟の五郎と第一大隊の安藤中佐にだ、{ロンドンで会う約束が果たせなくてすまない}とね」


 か細い声でそう告げると野中中佐は目を閉じ二度と目を開かなかった。


「大隊長……お願いですが応えられそうにもありません、自分もお供します、奴等ドイツの隊長を道連れにして」


>>>>>>>>


「敵の総数は増強大隊程度? それなのにこちらの損害は倍以上だと!」


 高地の占領を成し遂げたパイパー戦闘団の司令部に挙げられた報告は驚くべき物だった。


 高地を守っていた第二大隊は定数1120名それに高地攻略戦で合流した部隊を合わせて1550名であった。それに対して攻め込んだ武装親衛隊(パイパー戦闘団)は9831名その内死者行方不明者だけで3552名も出していた、負傷者は2200名にも上る。


「奴らは最後には坑道を爆破して来たのです、自分たちも一緒に」


「まるで狂戦士バーサーカーだ」


「それだけでは有りません我々が第六坑道と呼ぶ坑道にはオーガが居ました」


「物語の中の怪物が?」


「奴一人で装甲擲弾兵が20人も白兵戦でられたのだ、あまりの勢いにそこは突破できなかった」


「そいつはどうなった?」


「接近せずに滅茶苦茶に銃撃と手榴弾をお見舞いしたそうだあれで生きていたら本当に人間じゃあないぞ」


「高地頂上には観測所を構築中です、あと半日あれば弾着観測が可能になります」


「判った、今から視察に行くぞ」


「しかし!」


「敵は全滅した、危険は無いだろう」


 だが只一人一番危険な一人が残っていた。


>>>>>>>>>>>


 船坂少尉は坑道内を探してありったけの手榴弾を体に縛りつけた。そしてそのままの姿で匍匐前進を続け坑道の外に出た。そこには敵味方の死体が山になっており隠れるには打ってつけだった。


(ここで待っていたら必ず司令官が視察に来るはずだ……そうしたら)


 両手に握りしめた手榴弾を確かめるのであった。


 パイパー達は頂上を目指して歩いていた。


「ここは激戦だったようだな」


 そこは敵味方の兵士が斃れ山のようになっていた。


(来た!)


 船坂少尉は手榴弾の安全ピンを外しいつでも激発できるようにしてから起き上がった。死体の山の中から立ち上がったボロボロの軍服を着た男にパイパーたちは凍りついた。


 船坂少尉は彼等に駆け寄り手榴弾の信管を叩こうとした。幕僚の皆はとっさの事に動けずにいたがパイパーが一番に動いた。腰のホルスターからワルサーを引き抜き発砲すると弾は船坂の首に命中し船坂は痛みとショックで昏倒した。手榴弾を握り締めたままであった。


「恐ろしい奴だ、私が来る事を狙ってこの死体の山に隠れていたのか」


「止めを…」 「待て! 勇士にする事ではない、無駄かも知れんが軍医の所に連れて行け」


 硬く握り締めた手榴弾を引き剥がされ船坂少尉は担架で運ばれていった。



 この時ダンケルクの司令部にある情報が寄せられていた。ドイツ軍の後方を偵察していた機体からの情報である。


「ドイツ軍は急進しこちらの設定したD線内に入ったか」


 情報を見ていた永田参謀長は通信参謀に向き直り命令する。


「イギリス本土の総司令部宛に暗号電文を打て{狐は網に掛かった}とな」


 復命した参謀が通信の為に部屋を出て行くと永田は別の電文を手に取る。


 それはイ号高地守備隊からの決別電文であった。


(敵部隊高地の坑道に侵入せり、我ら最後まで抵抗するも刀折れ矢尽きるに至る、この交信が最後になる物と思われ此処に通信を送る、我ら異国の地に果てるとも魂は靖国に還り護国の鬼とならん、同盟軍の諸士の奮闘を祈る。天皇陛下万歳)


「済まん、野中中佐……そして第二大隊の皆、稼いでくれた時間で反攻の準備は整った。見ていてくれ必ずドイツ軍を撃破してみせる」


 電文を握り締めながら永田は誓うのであった。


 その日総司令部は{ソウルクラッシャー作戦}の発動を下命した。



ご意見・感想ありがとうございます。

ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。

あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…

読んでいただくと励みになります。

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