126話 決戦!ダンケルク 5
※お知らせ 新盆なので少し忙しく投稿遅れますすいません
戦略地点名イ号高地をめぐる戦いが始まった。
この地点を攻略するためだけにヘルマン・ホトの第10軍とフリードリヒ・パウルスの第6軍は集中して攻撃を開始した。対する日英軍も増援を送り幾つもの戦いが行われて行き、それは数に勝るドイツ軍がイ号高地を護る日英軍を押す形で形に現れてきていた。
前面に出てきたのはパウルスの第6軍であった。戦車を進めるために装甲擲弾兵と工兵が人工泥濘地を潰して行き、空からの攻撃を警戒して高射砲部隊と2号戦車など前線で役に立たなくなった車両に対空機銃を搭載した物を投入していた。
「攻撃の手を緩めるな、間断なく攻めるのだ、大軍に細かい用兵は必要ない」
パウルスは兵を叱咤激励し兵たちもそれに応えた。
僅か1週間で高地の周りを守る日英軍を排除してしまったのである。もちろんその代償は大きく第6軍は完全に疲弊した。そのためホトの第10軍が代わりに前に出る。
「高地を包囲し日英軍を近づけるな」
進撃してくる日英軍を押し止めて彼は高地の攻略に着手する。そして高地の攻略を担う部隊を呼び寄せた。
「司令官、なぜ親衛隊の連中が呼ばれるのです! 高地の周辺の制圧に血と汗を流したのは我々国防軍なのですぞ」
幕僚の抗議にホトは苦笑いで答える。
「総司令部……いや本国の首脳の命令なのだ、高地攻略の功績を親衛隊が取ることでナチスの威信を上げようと言うのだろう」
「そんな、閣下はそれで宜しいのですか?」
「良くは無いが君はこの作戦がこれで終わると思っているのかね? 高地を守っているのはあの日本軍、それもあの第3軍の流れを組む部隊だけにこれで終わるとは思えない、其処に踏み込んで多くの血と汗を流すのは親衛隊の連中に任せたほうが良いのではないかね?」
「確かに……」
ホトの意図するところに気付き絶句する幕僚を横目に見ながらホトは呟く。
「だが日英軍がこれで終わりだとは思えない、何を企図しているのか、それを見極めねばなるまい」
そう言って高地を見上げるのであった。
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高地の攻略を担うのは武装親衛隊第一装甲師団であった。彼らはまず高地に猛烈な砲撃を行った。コンクリート製の堡塁を狙い撃ちし、そのことごとくを破壊した。その砲撃跡を見た者はそこにいた日本兵はすべて戦死したと考えた。
「思ったより簡単な仕事だったな、直ちに高地を占領しよう」
「我が方の火力の前には日本など恐れるに足らずだ」
だがそれは完全に相手を舐めてしまっていた、彼らは決して死に絶えては居なかった。獲物が来るまでひたすら牙を磨いていたのであった。
そして高地の中に縦横に掘られた坑道の中に彼らはいた。獲物を狩る獣が隠れて待っているのと同じようにダミーの堡塁を攻撃させていたので彼らの損害は全くなかった。
「少尉、迫撃砲磨きに精が出るな」
「これは大隊長、わざわざご苦労様です」
「いやいや、こう毎日砲撃を食らっていては坑道内の見回りしかすることが無くなってな」
「敵さんが来ればこいつの出番ですな」
そう言って迫撃砲分隊を率いる船坂少尉は擲弾筒を構える。
「そうだな、もうすぐ奴らが登って来るからな、頼んだぞ」
そう言って次の視察場所に向かう野中中佐は誰にも聞こえない声で小さくつぶやいた。
「これからが本番だ、この高地は地獄の一丁目になるからな」
そして高地攻略戦が始まった。後の戦史で{欧州大戦で最も過酷な戦い}に必ず研究者たちが挙げる戦いが火蓋を切ったのだ。
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最初の攻撃は高地を押さえて頂上に弾着観測点を作る為に送られた親衛隊の部隊に向けて行われた。
彼らは日本軍は全滅していると信じ込みピクニック気分で登っていたがそれが間違いであるといやと言うほど見せ付けられる結果となった。岩陰からの機関銃などからの攻撃で次々と打ち倒されていき壊走した。油断していた為大隊長を失うという大惨敗である。
武装親衛隊は未だに敵の組織的抵抗があるのに驚いたが今更国防軍に援けを求める事はプライドが許さなかった。そのため戦死した大隊長に代わりヨアヒム・パイパー大尉を戦時昇進で少佐にして臨時の戦闘団を編成し高地攻略に当たらせる事となった。
「少佐、こうして見ると奴らがどこにいるのかまるで判りませんな」
「近寄れば判るさ、撃ってきてるところにいるのさ」
双眼鏡で高地を観察している副官が尋ねるとパイパー少佐は同じく双眼鏡で眺めながら吐き捨てるように言った。
「だが地上に何も無いと言うことは地下に隠れているんだろう、炙り出すしか方法は無いか」
そう言うと戦車部隊を呼び寄せて前進を命ずる。
「少し斜面がキツイが登れない事もあるまい、戦車に発砲してきたら10倍返しにしてやれ」
パイパー少佐の命令で戦闘団は交戦に入った。
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「戦車部隊前進してきます、距離1500! 攻撃しますか?」
「まだだ、味方の歩兵砲陣地が砲撃を始めたら同時に砲撃を開始する、弾種はタ弾を装填」
「ハッ!」
前進してくる戦車が砲塔を旋回させて目標を探している、どうやらカモフラージュされた陣地に気が付かず狙いがつけられないようだ。
更に前進してくる戦車に向けて隠れていた歩兵砲陣地からの砲撃が始まる。命中弾は戦車の装甲に弾かれた物も多かったが装甲の薄いところに命中したのか煙を吹いて止まる戦車が居る、戦車の後ろに付いていた兵たちにも損害が出てきている。
それでも生き残った戦車は砲撃をしてきた所に砲を向けて砲撃を開始する。そこに弓なりの軌道を描きながら船坂隊の迫撃砲からの砲撃が降り注いだ。
「こいつ、戦車がやられる! ただの迫撃砲弾じゃないぞ」
ドイツ軍の歩兵が悲鳴を上げる、彼らにとって頼もしい楯ともなる6号戦車や5号戦車がやられていくのだ、悪夢のような光景であった。
「引け! このままでは被害が増すばかりだ!」
こうしてパイパー戦闘団の最初の戦いは彼らの敗退で終わった。だがこれからが凄惨な戦いになるという事はこの戦いに参加した者達にはわかっていたのであった。
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