125話 決戦!ダンケルク 4
正体不明の砲撃を仕掛けてきたのは列車砲であった。
その事を知った同盟軍司令部は戦慄を禁じえなかった。偵察機に搭載されていた精機光学工業の偵察カメラで撮影されたその砲を分析したところ情報部から来ていた情報に載っていたものと合致したのだ。
「グスタフ乃至はドーラと呼ばれている砲で口径は800ミリ、最大射程は48キロから38キロ、重べトン弾を使用した場合厚さ7メートルのコンクリートを貫通する……」
「とんでもない化け物ですな、偵察機が見つけたのは1基だけですが他にもあるんですか?」
「待て、うむうむ発射間隔は30~40分程、余りに大型で建造数は多くは無い、おそらく1基か2基であろう…か、なるほどなあの間隔からすると2基は存在すると考えてよかろう」
永田が資料を読むと写真を分析した資料を持ってきた参謀はため息をついた。
「あんなので狙われたら堪りませんな、主要区画は破られないでしょうがどうしても構造上防御が薄くなるところはありますからな」
「全くだな、だが狙いはあまり正確では無い様だ、恐らくは弾着観測が出来ないからだろう、長時間航空機を飛ばしてはおれんだろうからな直ぐに日英の迎撃機がすっ飛んでくるからな」
「となると彼らが次に欲するのは……」
「山や丘など此処が見渡せる地点に地上部隊を進出させようとするだろうな」
そう言って永田は地図を引き寄せ眺め始めるとある地点を抑えた。
「ここがそのポイントだ、こいつは日露戦争の203高地の時のような戦いになるかもしれんな」
総司令部はその丘の守備隊に対し死守命令を出した、この戦いが始まって初めてのことであった。
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「野中よ命を粗末にするなよ、そちらが主攻撃地点だとしても周りには友軍もいる、完全に孤立するわけではないからな」
「判ってるとも安藤、貴様こそイギリス本土に行ってトンボ帰りなんだ、無理をするなよ」
戦略地点名イ号高地と名付けられた丘の守備をしているのは歩兵第三連隊第二大隊でその大隊長は野中四郎中佐であった。丘に作られた野戦司令部の有線電話で第一大隊長の安藤中佐が彼を案じて電話をしてきていたのであった。
「こっちは新機材を受領しに行くだけだ、受領したらすっ飛んで援護に来てやるさ」
「{アラスの荒鷲}に来てもらえるなら勇気百倍だな、隊の皆に伝えておくよ、ああもしイギリス本土に行って空軍の戦略爆撃隊に会えたなら、そこには弟の五郎が居るはずだ、手紙は出しておいたが届いているかどうか分らんからな、会ったら伝えて欲しい、{俺は軍人としての本分を尽くす、お前も頑張れよ}とな」
「おい! 縁起でもないこと言うなよ、そんな言葉なら伝えないぞ、元気でやってるか、ロンドンで飲もうとかにしておけ!」
「そうだなあ、その時はお前も同席しろよ、それじゃあな」
通信が終わって受話器を置きながら安藤輝三中佐はつぶやいた。
「約束だぞ……」
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地中海 スペイン近海
譲たちの乗っている明石の所属する船団はバレアレス諸島の近くを航行していた。
船団がイタリアに接近した時には緊張したが遭遇したイタリア艦隊が{航海の無事を祈る}と電文を寄こしたのでかえって拍子抜けした位である。
現在はジブラルタル駐留のイギリス艦隊の先導を受けており安心していた。
「イタリアはドイツ寄り中立と思っていましたがそうでも無かったですな」
明石の艦長を務める鶴岡信道大佐が譲に話しかける。
「同じファシストと言っても一枚岩では無いのですよ、反共産主義を掲げているのにソ連と結んだドイツに愛想を付かしたのもあるのかもしれませんな」
「そこを突いたチャーチル首相の外交勝利というところですか、側近のブラックリー卿を派遣して統領ムッソリーニと交渉して協力を取り付けたそうですな、流石ですな」
譲はジェームズ・ブラックリー子爵が本郷だと知っているので噴出しそうになるのをこらえて応えた。
「イタリアにとっても利益になることですしね、統領にとっては受け入れやすかったのですよ」
「艦長! 至急電です!」
そこに通信士官が艦長に電文を手渡す、それを見た鶴岡大佐は眉を少し上げた。
「どうしたんだい?」
「船団指揮官より伝達です、船団の速力を上げて進めとの事です」
「ダンケルクで何かあったな……こちらが着かないと{大反攻}は始められないからな」
「直ちに航路を再検討します」
「ああ、そうだね場合によっては船団の再編成もあるかもしれんな」
そう言って譲は明石の右舷側の景色に目をやる、遠くに見える諸島の前を戦艦を主隊とした艦隊が進んでいた。
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