124話 決戦!ダンケルク 3
※ 遅くなりました
ダンケルクでの本格的な戦闘が始まって二週間が過ぎていた。
ドイツ軍はじわじわと日英軍の陣地を落として迫りつつあった。一つの丘、一つの小さな森を挟んで攻防が続き犠牲を出しつつも確実にドイツ軍は前進してくる。その前に立ちはだかる日英軍は防戦に努めながらも、時には痛烈な反撃をして押し返していた。
空では敵陣地に爆撃をしようと互いに部隊を繰り出して攻防を繰り返している、一進一退で膠着していた。地上ではドイツ軍は重駆逐戦車を先鋒にして6号戦車5号戦車を中心に据え陣地を蹂躙せんとして突撃を敢行している。因みに戦車の愛称はドイツ軍では非公式の物で日英軍がタイガー・パンサーと仇名で呼んでいたのを傍受したドイツ兵たちが勝手に呼んでいるのであったが、すでにこちらの方が普及しており上級将校でも知らない者がいないと言われるまでになっていた。元はチャーチルが側近のある貴族の言った言葉を聞いて使い出したのが始まりだったのだが意外な展開を見せていたことになる。
その戦車たちを日英軍は陣地構築と戦術で倒していった。重量級の戦車の弱点である足回りを狙い泥濘地を作り其処に誘い込んだり、掩体壕に隠した味方戦車が至近距離で狙い撃ちするなどである。
そのときに活躍したのは四式中戦車に搭載されているL7 105ミリ砲を固定式戦闘室に搭載して三十五式戦車の足回りを持つ一式砲戦車である。既存の完成した車体に搭載する事で量産体制を整えたため、四式中戦車と違い十分な数を持ってきておりその砲威力でドイツ軍戦車部隊を恐怖に陥れた。
当初ドイツ軍は2個軍団を送っていたがマジノ線に張り付けていた部隊と、ベルギーなどにいた部隊も送り、兵力は100万近くまで膨れ上がった。対して日英軍のダンケルクの兵力は総勢38万であった。その中にはベルギーから撤退してきたベルギー軍とユダヤ人脱出を行っていたイスラエル軍の姿が見える。これまでの時間稼ぎをしている間にダンケルクは強固な要塞と化しており3倍の兵力差を持ってしても容易に落ちそうに見えなかった。
「ここまで強固な守りは見たことが無い、マジノ線なんぞ比べ物にもならないな」
総司令のルンテシュテット元帥がぼやくと参謀長のマンシュタイン中将が答える。
「ですが奴らの後ろは海です、このまま押して海に叩き込むまでです」
「しかし奴らは何故この地に布陣を? 逃げ場のない所に何の意味があるのだ?」
「日本の古い戦術に{背水の陣}と言うのがあります、逃げ場のない地に陣取る事で兵の士気を上げるということを狙っているのでしょう、元々は古代中国の戦術だそうですが」
「ほう、詳しいな」
「日本に教官として赴任していたメッケル元参謀本部次長の論文に有ったのです、尤もそう思い通りにはなりません、間断なく攻撃を仕掛け彼らの士気を奪うまでです。そのための秘密兵器を取り寄せました」
「よろしい、奴らの肝を冷やしてやろう」
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ダンケルク 要塞防御総司令部
要塞化されたダンケルクの地下に作られた総司令部では永田参謀長が地図を広げて唸っていた。
「不味いな、予想以上にドイツ軍の侵攻が早い、このままでは間に合わなくなる、反撃を強化するか……」
机の上に置かれている電文には日本から到着する護送船団の到着予定日が記されており、それに合わせて行われる作戦の予想日時も載せられていた。
「最前線にいる奴らには苦労させるが、これもドイツ軍を叩きのめす為だ、許してもらえる物ではないが……」
其処に物凄い爆発音と共に衝撃が部屋に走る。
「なんだ! この地下司令部にこんなに衝撃が走るとは?」
其処に士官が永田の元に駆けつけ電文を渡す。それを見た彼は思わず目を見開いた。
「なん……だと! こんな事が有ると言うのか? 直ちに非常呼集をかけろ!」
司令部に緊張が走り伝令が飛び出していく、此処に来て最大の危機が訪れようとしていた。
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アラス近辺上空
「確かこの辺のはずだが……」
千早少佐の乗る零式司令部偵察機はダンケルクを襲った謎の大口径砲による砲撃を行った物の正体を確かめる事とその場所の特定をするようにとの偵察命令を受けて飛行していた。こうして飛行している間にも砲撃は行われ、若干ではあるが犠牲が出ているのである。このまま放置も出来ない為に駆り出されたのであった。
「少佐! 右前方に発砲による閃光を確認」
「直ちに向かえ、高射砲(八十八ミリ)に気をつけろよ」
機体を傾け方向を変えて向かうと異様な光景が見えてきた。眼下には鉄道にお馴染みの線路が引かれていた、だがその数と引き方が明らかに普通ではない、まるで何かを動かすかのような……
「鉄道線? だが何だってこんなに引かれて……そうか! 列車砲!」
「見えました、あれが目標では?」
操縦員が指し示すほうには仰角を掛け砲撃の準備を整えた砲の姿があった。そしてその足元には鉄道の線路があったのだ。
「写真を撮るぞ、そして司令部に電文を打たねば」
「敵機です!」
「くそ! 急速反転離脱! ロケットブースター点火!」
カメラのシャッターを押すと機体は方向を変えて逃げ出しに掛かる、それに追いすがるbf109で有ったが両翼のロケットブースターを点火するとたちまち引き離していった。
「よし、このまま帰投する」
そして彼は基地に向けて打電した。内容は{ドイツの砲撃点を特定した、なお我に追いつくメッサー無し}であった。
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