幕間話 10話 後方だからと言って暇ではない
※ 本筋から離れててすいません。
ダンケルクで前哨戦が行われていた頃、譲はインド洋上にいた。
「何でこの年になって戦場に行く破目に……」
工作艦明石の艦上で彼が辺りを見回せば海上を整然と艦列を作り船団が進んでいた。今回彼に欧州行きの話が出たとき彼の長男は東京帝大を卒業して大倉土木(後の大成建設)に就職していたが彼の身を心配して止めた程である。
彼の乗っている明石の所属する欧州輸送大規模護送船団ヒ41はこれまでの規模を上回り三つの群に分かれて進んでいた。中央に護るべき輸送船などを集め周囲を護衛艦艇で囲むようにして護衛している。
今回の護送船団はダンケルクに集結している日英軍への補給と決戦用の資材を積んでいるので通常よりも大規模になったのである。三群に分かれているのもその為である。
今回はイスラエルの部隊とイギリスの艦艇も同行している、イスラエルは同胞を救出する為の部隊を派遣することになり日本まで艦隊を送って船団に合流した。イギリスは航海の安全のために香港から同行しているのだ。それというのもフィリピンが問題になっているからである。
明らかに満州国の背後にいるアメリカが満州国ともめている日本に対しての嫌がらせである。公海を選んで航路を設定しているのにフィリピン近海ではアメリカの艦隊が現れて臨検を要求してきたからだ。これまでの船団も同じような目にあっており、公海上だと突っぱねると砲を向けて脅迫まがいの電文を送って来て危うく一触即発だったのだが近くにいた艦隊が駆け付けたので事なきを得た。
その為に今回はさらにフィリピンを避けるような航路をとっていたにも関わらずアメリカの艦隊は現れた。そこにダビデの星とユニオンジャックを掲げたイスラエルとイギリスの部隊が出ていきアメリカ艦隊と対峙する、流石に彼らと揉めるのは不味いらしく慌てて引き上げていった。
その後はイギリスの勢力圏に入ったので安全な航海が続いている。
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「本郷中将も用事があるって言うんだが話だけなら通信で何とかできればよかったんだがな」
どうやら込み入った話があるらしく俺の方が出向かねばならないようだ。この時代はまだ通信網は海底ケーブルを使った電信が主である。通信衛星はロケットが成功しているのでもう少しで打ち上げも可能だが送受信の施設などのインフラ整備が必要である、早くモバイル端末やインターネットが実現すればいいなと考えて居ると向こうから大阪金属の技術者がやって来た。
「所長、新型砲弾の件ですがあんなに沢山要るんですか?あれのお陰で戦車の新型徹甲弾(APFSDS)の開発スケジュールも遅れてしまいましたし」
「まあ、現場が要るっていうんだからしょうがないさ、戦車の方は前の便で送ったタ弾があるから当座は凌げるだろうし、ダンケルクの戦況はこの船団が着かないとどうにもならないようだしね」
「そうですか、まあ生産も落ち着いたし、今度こそ全速で開発に集中できますね」
是非そうしてもらいたいものだ。
このまま進んで紅海に入りスエズ運河を進めば地中海だ、ここもイタリアが中立だから大丈夫だろう、地中海を抜ければイギリスはすぐだ。
出発するまでが大変だった、指示しておく事が多かったからね、艦船の方は福田君や牧野君がよろしくやってくれるだろう、現場の方は西島君が居れば大丈夫だろう。
出発前に伊藤のじいさんの処に挨拶に行ったらなんか謝られた、なんだろう? 覚えがないんだが?まあ年だしな、勘違いしてるのかもしれないな。
そう言えば原子力の脅威の映画第二段として{炉心融解の恐怖}というのを作って学者達に見せてやった、なにせネタは十分にあるからな、皆恐怖でドン引きだったよ、場所はぼかしているけど特にチェルノブイリや福島は衝撃だったようだ。
因みに第一弾の核兵器の映画は大幅な編集を受けて一般公開されることとなった、核の恐怖を一般に知らせるのが狙いだがそのままだと不味いので編集を受ける事になったのだ。{世界最終大戦}というタイトルだが似たような言葉があったような気がするがまあ気にしないことにしよう。あらすじは国連に反抗する国が日本やイギリスに宣戦を布告し攻撃を仕掛けてくる、世界中が戦争となりその中で{最終兵器}として核兵器が登場し日本の地方都市が壊滅する、次の目標はロンドンと東京と判り両国の特殊部隊が核兵器製造工場の破壊を目指し敵地に潜入するという話だ。
時期的に敵はあからさまにドイツやソ連の事を指しているし中の戦争の映像は実際の戦闘映像を使っているから迫力抜群でそこに円谷たちの特撮による核兵器の部分が違和感なく入り込んでいる。アインシュタイン博士たちがゲスト出演して核兵器の解説をしており完全なプロパガンダ映画なわけだが反核のメッセージも持たせているのだ、最後には核を使った国は完全に破壊しつくされ止めに自ら作った核が落とされる、因果応報の話になっており、アインシュタイン博士の{この繰り返しがいつか人類を滅ぼすだろう}という言葉で締めくくられている。
これで核兵器を抑制できたらいいなとは思うが個人と国家は違うからな、作ろうとする国が出てきても可笑しくはない、国連で現在戦争中のため疎開しているけど協議は始めることになったし早めに条約などを整備してほしいものだ。
そう言えば出発前の忙しい時に本田宗一郎がやって来て、新型航空機エンジンの情報を求めてきた、RA183シリーズとスーパーカブが戦時生産で滅茶苦茶忙しい時にだよ、思わず気でも触れたのかと思ったが、奴は本気だった。一緒についてきた藤沢が呆れた顔で首を振っていたのでこの状況で更に前に進む気だと知れた。ある意味、宗一郎らしいと言えよう。
しょうがないので情報は渡したがホンダだけでは無理だろうからきっとIHI辺りに行くだろう、この忙しい時に相手をしなくてはならない担当者に同情するね。
三菱や川崎には嫌なライバルの出現だろうな、まあ与えた情報はイーブンだし後は自分で頑張ってもらうしかないな。
「早めに終わらせて帰らなくちゃな」
そう言いつつ着くまでに宿題になっている研究の整理をするために艦内に戻るのであった。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
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