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平賀譲は譲らない  作者: ソルト
3章 昭和編
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120話 ドイツ包囲網と逆転劇

 富士山麓演習場


 現在此方には併設されている陸軍富士学校の戦車教導隊が試作戦車を用いて各種装備の試験を行っている。


「状況終了、各車撤収後総評を行うので集合せよ、では撤収!」


 其の指令を受けて試作四式中戦車六両は移動を開始する。


「次世代徹甲弾はまだ性能にばらつきがありますな」


 原乙未生大佐が双眼鏡で標的を見ながら帳面に書き付けている。因みに標的は欧州でドイツが登場させていた大型駆逐戦車ヤークトティーガーに酷似している、というかそうさせたんだけどね。


「まだ弾体を作る冶金技術に問題があるようだな、現状ではAPDSが精一杯か」


 双眼鏡で装甲の破損状況を見て苦々しく呟く、最後に試験していた砲弾は装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot) 試製九式徹甲弾(略称超特甲)である、高速で着弾した弾体(侵徹体)が装甲との狭い領域で高圧に圧縮されて両者が流体として振舞う事で、相互侵食を起こし装甲を貫徹するのである。


 弾体を作っている大阪金属ダイキンの連中が試験結果を見てショックを受けていたようだ。頑張って貰いたいものだ。


「ライフル砲と言うのも問題があるようですな、かといって滑空砲も熟成に時間が掛かりますからな」


 原大佐もAPFSDSの問題点であるライフル砲からの高速回転によって弾道が不安定になる問題の解決が進まないのが悔しいらしい。ライフリングの無い滑空砲の方もロイヤル・オードナンスやボフォース・日本製鋼らが必死で研究しているが未だ試作が精一杯である。


「この状態では間に合いませんな、早くて1946年か7年になりそうですね」


「となるとタ弾しか無いな」


 タ弾とは対戦車用成形炸薬弾の事でノイマン・モンロー効果を利用する化学エネルギー弾である。この弾は通常の徹甲弾と違い弾速は遅い方がより効果を発揮することが出来るのである。


「タ弾の方は各種欧州行きの船団に積み込んであり、もうイギリスに着くころですね、追加の特甲も同じ便に積んでますから、あれで何とかして貰いたいものです」


「全くだな」


 自己鍛造弾とかまで開発は当分勘弁して欲しい物だ。


 >>>>>>>>>>>>


 欧州の戦いのニュース映画の最新版はダンケルクの戦いの前哨戦だがやはり西住少佐のことが話題になってるな、まあプロパガンダでもあるが対戦車誘導弾をカモフラージュする為に殊更大きく取り上げてる感じだな。


 彼の活躍によりドイツ軍機甲部隊は相当な被害を受けたようだ、特に新型の駆逐戦車ヤークト・ティーガーを撃破したのは大きい、此方の士気上げにも相手へのダメージと両方だ。


 映画の中では205号の6号戦車ティーガーを倒した所を大きく取り上げているがあれは俺の前世ではティーガーⅡに当たる車両でまともに撃破するのは難しい代物のはずだ、増してあの205号車は僅か5分で6両の三十五式改を撃破した化け物のような相手である、誰かは判らないが、大方オットー・カリウスかヴィットマン或いはヨアヒム・パイパー辺りだろう。


 虎退治にご利益があるとして清正神社の御守やお札がバカ売れしているらしいが、あれは俗説なんて言い難いよなあ。


 部隊に同行していた技術本部要員の報告では西住車の砲塔に弾かれた敵弾の衝撃で内部装甲が飛び散る危険性があったが内部に張った高分子ライナーが防いだそうだ、コストを度外視した6次試作車を送っておいて良かったよ。

 

ポーランドとフィンランドもソ連軍を撃破して追い払った。ソ連軍の損害は死傷者と捕虜合わせて百万以上を失っており当分は挽回できないだろう、そのためポーランド側からドイツに圧力を掛けることが出来るようになるな。


 オーストリアはドイツ系住民に配慮して中立だがこちら寄りだし、バルト海はこちらが制海権を握ったからドイツ包囲網が完成するわけだ。


 これでドイツに圧力を掛けて行けば欧州の戦いは一息つくな、満州国との小競り合いもあるしこれ以上向こうに兵力を割くのは難しいからな。


「所長、本郷中将より至急電が入ってます」


 渡された電文にはただこれだけが書かれていた。


「フランス、ドイツと単独講和ス」と。


>>>>>>>>>>>


イギリス・チャーチル邸


「何という事だ、なんと愚かな真似を!」


 ウインストン・チャーチル首相は報告を聞いて激怒していた。


 フランスがドイツと単独講和を結んだと言う知らせは欧州に衝撃を持って伝わっていた。


「これはリッペンドロップの金星ですな、うまく取り入ったと見えます」


 報告書を見ながらジェームズ(本郷)が溜息をつく、さしものイギリス情報部と東機関もそれを察知することは出来なかったのだ。


「講和条件はマジノ線要塞の破却とアルザス・ロレーヌ地方の帰属をドイツにするという条件ですか、寛大な条件に飛びついたというわけですか」


「馬鹿にしておる、ダンケルクで我が国と日本が何故戦っているのか分かっておらん、自分たちが良ければ良いのか!」


「全くですな、ですがまだフランスにも人は居るようですな、ド・ゴールは講和に反対し決起を呼びかけております、これを支援しておかねばなりますまい」


「そうだな、其の手配頼めるかな? 今ドイツ軍がマジノ線に張り付いていた部隊をダンケルクに回されれば我々は詰んでしまうからな」


「承知しました、後は包囲網の再構築の為の工作に入りますよ」


「うむ、頼んだぞ、ドイツに引導を渡してくれるわ」

 

 チャーチルの言葉に本郷はにやりと笑った、其の不敵な笑みは敵手たるドイツからは寒気をもたらすような笑いであった。





ご意見・感想ありがとうございます。

ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。

あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…

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