119話 ダンケルク前哨戦~タンク・エース4~
※ 何とか終わりました
「西住隊長、右から一両来ます、第三中隊の損害六両、あの一両にやられたそうです」
「虎の中の虎、王虎とは奴の事だな、あいつは此方が引き受ける、各車は残敵掃蕩に専念せよ」
そう言うと西住は自分の車両を205号車に向けさせる。
「距離3000m、ここからでも狙えますが、もう特甲がありません、正面は抜けんでしょう」
「構わん、こちらに注意を向けさせる、砲撃用意」
「了解!」
高松軍曹は素早く弾道計算コンピュータを操作して照準誤差を修正する。
「照準良し!」
「撃て!」
砲撃はまっすぐ狙っていた目標に進み命中した。砲塔中心より僅かに外れた砲弾は、砲塔の避弾経始によって弾かれた。
「さて、こっちが相手してやるぞ」
>>>>>>>>>>>>
205号車はいきなりの衝撃に見舞われた。激しい衝撃と振動、金属音が車内に響き、乗員は激しく体を揺さぶられて体のあちこちをぶつけて呻いた。
「くそ、あんな所から当ててきたか、流石に指揮車という事か、あいつを狙うぞ! 進め!」
ビットマンはぺリスコープを操作しながら撃ってきた相手を特定した。
「距離2500照準よし!」
「撃て(フォイヤー)!」
素早く照準を合わせた砲手は合図を聞いて即座に発砲した。
低く伸びる砲弾は、斜面を降りる戦車の砲塔に命中したが、こちらも避弾経始に弾かれ斜め上に飛び去った。
>>>>>>>>>>>
「痛てえ、当ててきやがったぞ、斜面を降りてて狙いにくかったろうに」
高松軍曹は衝撃で頭をぶつけて呻いた。後ろでは西住少佐がペリスコープから相手を観察している。
「このままあいつに側面を見せずに相対するぞ、側面を晒すとやられる、このまま後進しろ」
斜面を降りた西住車は205号車に前面を向けたままで後ろに下がっていく、これに対して205号車は距離を詰めて有効射程に入ろうとする。
「このまま追いかけろ、いずれ側面を晒す時が来る、来なくても距離を詰めればこいつなら真正面からぶち抜ける」
その後両車は幾度か砲撃の応酬を行ったが共に決定的なダメージを与える事が出来なかった。追いかけっこをつづける事暫し状況が動く、焦れたのか西住車が方向を転換しようと横を向いた。
「しめた! 装填急げ、狙い撃つぞ」
砲弾が装填されて狙いをつけようと動いたその時異変が起こった。履帯が地面を踏む音が変わり明らかに挙動がおかしくなる、エンジンの回転数が急に上がり車体がおかしな振動を発した。
「どうした?」
「急に挙動が! 履帯が空転しています! うまく動けません!」
「何だと!」
ビットマンが慌ててペリスコープを覗くと、敵の戦車の砲塔がこちらを指向していた。
「しまった、衝撃に備えろ!」
その言葉が終わらないうちに敵の戦車の砲弾が命中した。激しい衝撃に轟音、金属の裂ける音、それらに彼らは包まれた。
「エンジン部に被弾しました、行動不能です、火が出ます、車長! 脱出しましょう」
「ハッチ開けろ、全員脱出だ」
彼らはハッチを開けて車体から飛び降りた、そして動きがおかしくなった原因に気が付く。
「辺り一面泥濘だと……いつの間に? まさか! ここに誘い込まれた?」
皆と自陣の方へ駆け出したビットマンは敗北の原因を悟り、そこに誘い込んだ敵手の策に戦慄を覚えた。
「今度まみえた時はこちらがやっつけてやる、それまで待ってろよ」
そう言葉を残して。
>>>>>>>>>>>
日本側の陣地の戦闘は終わりを告げた。
ドイツ軍は二次防衛線を抜くことが出来ず、一次防衛線も放棄して後退した、戦場のあちこちに遺棄された戦車が躯を晒す、その中で西住車は停止して周りに指示を送っていた。
「四発被弾しましたか、四式じゃ無くて三十五式改(チハ改)じゃ四回死んでましたな」
高松軍曹が砲塔に刻まれた敵弾の命中痕を調べながらぼやいた。避弾経始で弾いても命中の衝撃で内部の装甲材が破片となって飛び散り乗員を死傷させる可能性もあったのだ。
「全くだ、知ってるか? 四式の内側に張ってある破片対策用の内張な、まだ試作品で物凄く高価なんだそうだ、そういう装備が奢ってなかったら俺たちはこうしていられなかったな」
彼らの乗っていた戦車はかつて譲が原乙未生少将と富士山麓演習場で試験していた時最後に登場した新型の四式中戦車であった。
四式中戦車(六次試作車)(開発名チト)
全長 9.5メートル
車体長 6.7メートル
全幅 3.2メートル
全高 2.25メートル(標準状態)
重量 45トン
懸架方式 油気圧方式
速度 55キロメートル
変速機 トルクコンバータ付きオートクラッチ
エンジン 三菱 空冷2ストロークV10気筒ツインターボチャージドディーゼルエンジン
800馬力
装甲 砲塔前面190ミリ 車体前面90ミリ(傾斜装甲・増加装甲無し状態)
主砲 一式51口径105ミリライフル砲L7A1
名前の通り1944年制式の戦車ではあるがドイツ軍の戦車が予想以上に進歩したため、急遽六次試作車を増加試作名目で三十両制作しそのうち二十四両を欧州へ送ったのであった。
「まあ、敵さん旨い事{田んぼ}に嵌ってくれましたな」
高松軍曹が擱座している205号車を見ながらため息を尽きつつ言うと報告書を作成するためにメモを取っていた西住少佐が顔を上げて答える。
「重い奴を相手にするのなら足元を掬うのが定石だからな」
「もう、ああいうやつとはやり合いたくないですな」
陣地を作るときに彼らは一部を深く耕し水を張って泥沼にしておいたのであった、その上に欺瞞用の網を張っておいて備えておいたのだが見事に当たったのであった。
こうして日本側の陣地は防衛に成功した。
>>>>>>>>>>
西住たちが戦っていた頃
イギリス側では苦戦が続いていた、チャーチルで抜くことのできない6号駆逐戦車を先頭に立ててドイツ軍はじりじりと前進してくる、救いは荒地を進む6号駆逐戦車が遅いことで時間が稼げたのであった。
後退して二次防衛線で待ち受けるがこのままでは同じことの繰り返しになるのを指揮官が悩んでいると通信が入る。
「こちらガンシップ隊、今から虎を退治する、頭を下げておいてくれ!」
通信が入ると爆音が聞こえ車長がハッチから顔を出して周りを見回すと編隊を組んで飛んでくる物を視認した。
「ヘリコプター? 何をするつもりだ?」
>>>>>>>>>>>
「目標確認、攻撃用意! 護衛機は敵の対空機銃を潰せ、誘導中は動けんので的になる」
「了解!」
護衛のヘリは別行動を取り機銃座から地上の敵に対して掃射を開始する、その間を縫って攻撃機は目標を視認した。
「対戦車有線誘導噴進弾発射!」
ヘリから発射された噴進弾にはケーブルが付いており照準器を覗きながら射手が手元の操作レバーを動かして方向を調整する。進路を微調整をしつつ噴進弾は6号駆逐戦車の戦闘室の真上に命中する。
直後に爆発が起こりさっきまで猛威を振るっていた駆逐戦車は沈黙する、さらにヘリ部隊は後続の6号たちも血祭りに上げて行き、反撃に転じたチャーチルたちの奮闘もあってこちらも撃退することに成功した。
ご意見・感想ありがとうございます。
ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。
あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
読んでいただくと励みになります。