118話 ダンケルク前哨戦~タンク・エース3~
※ 結局3で終わりませんでした、すいません。
現れた物体を見た車長は呆けたような声でつぶやいた。
「化け物……」
再度僚車からの砲撃も弾かれる。
「一体何なんだあれは……」
彼らは絶望的な気持ちになりながらも陣地変換を行いつつ反撃を続けた。
「駄目だ、有効打になっていない」
そう嘆いていると敵の車両が砲撃を開始し、砲撃の先にいたチャーチルに命中する、正面を撃たれたその車両は黒煙を上げて停止した。
「重装甲のチャーチルが一撃だと……」
彼らは後方の司令部に援護を求める事にした。
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「前衛部隊から新型戦車の攻撃を受けて苦戦中だそうだ、特に英国側の方が酷い」
「日本側でも被害が出ています、第一連隊指揮車が被弾、連隊長が負傷の為現在第二中隊長の西住少佐が連隊長代理で指揮を執っています」
「例の新型を預けている部隊だな、あそこは何とかしてくれるか?」
「取り合えず援護を送らなくてはいけませんね、あれの準備を急がせましょう」
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日本側の先鋒を務めている西住少佐の指揮する部隊はイギリス軍を襲った物と同型の正体不明の戦車の攻撃にさらされていた。
「高橋連隊長は救助されたが重傷か……」
高橋大佐の乗る連隊長車は直撃は避けたが砲弾が装甲板に弾かれた時の衝撃で車内の装甲材が剥離飛散して内部の搭乗員を傷つけたのだ。
「掠めただけでそんな事に……」
砲手を務める高松軍曹は戦車兵に似合わぬ巨漢であったが其の身を竦ませた。
「ですがあいつはなんなんですか? 砲戦車のように見えますが」
「待てよ……これだな、6号駆逐戦車、虎を改造して作った物だな、予想される性能は……」
西住少佐が持っていたのは情報部が作成したドイツ軍の新兵器予想情報である。これには現在開発中の物を含めて凡その性能を示していた。
「主砲は120ミリ~140ミリ 前面装甲厚150~250ミリ……虎と言うよりは怪物だな」
西住少佐の持っていた資料と実物には大きな差は無かった。
6号駆逐戦車(Sd.Kfz.186 )
6号戦車の車台を延長して砲塔を外して巨大な戦闘室を作り其処に128ミリ砲を搭載した駆逐戦車である。
全長 10.7メートル
車体長 7.9メートル
全幅 3.7メートル
全高2.9メートル
重量 75トン
懸架方式 トーションバー方式
速度 38キロ(整地)
主砲 55口径128ミリ砲
「数が少ないのが救いですね、此方には二両しか来てませんよ」
「後は6号と5号か、向こうもうちと同じなのかも知れないな、試作品を持ってきたとかだろうな」
部隊は第二防衛線に向けて後退中である、一次防衛線は随伴していた機動歩兵の仕掛けた爆薬で爆破され其の混乱に乗じて後退の時間を稼いだのである。
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二次防衛線は小高い丘を中心にした陣地で構成されている、先行して後退していた小隊が脇を固め殿の第二中隊は丘の稜線に布陣する。
「敵戦車接近距離2千!」
「高松軍曹、新型を狙うぞ、中隊目標敵駆逐戦車、弾種特甲、姿勢前傾、車体上部を狙え!」
西住の命令を受け中隊の戦車は2両の駆逐戦車に照準を合わせる、操縦手が手元のレバーを操作すると車体が前傾し砲を更に下に向ける。
「距離千m!」
「撃て!」
命令を受け各車が一斉に発砲しドイツ軍駆逐戦車たちに砲撃を集中させる。
「命中! 2両とも擱座しました!」
「よし! 後は虎と豹だけだ、各隊前進! 敵を叩き出すぞ」
日本軍の戦車部隊は反撃に転じた。
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「車長、6駆(6号駆逐戦車)がやられました! 敵が来ます!」
「うろたえるな、たかが2両やられただけだ、問題ない」
前衛に展開している6号戦車部隊の最左翼にいた205号車は前進してくる三十五式改の姿を認めた。
「隊長車より205号車、左からタイプ35が来るぞ、そいつを倒せ、丘の上からくる新型はこちらが引き受ける」
「ビットマン了解!」
205号車の車長を務めるミハエル・ビットマンはマイクに手をやって答えると、部下に指示を出す。
「左の奴からやるぞ、停止!」
急停止した205号車は車体の揺動が収まったところで発砲する。
「命中! 敵撃破!」
低く伸びる砲弾は車体の正面を捕らえ三十五式改を仕留める。
「次だ!」
発砲したと同時に動き出した205の周りに砲弾が着弾して土煙を上げる。其の中を掻い潜り停車した205号車はもう一両葬った。
「次は右に居る奴だ、右に旋回!」
流れるようなビットマンの指示で動く205号車を捉える車両は居らず、次々と撃破されていく日本軍戦車たち、やがて近くの車両はすべて動かぬ骸と化していた。
「此方隊長車、205号聞こえるか! 我が方の残存車両二両! 丘の上から降りてきた奴は新型だ、タイプ35じゃない、援護に―――」
隊長車の通信が切れて雑音しか聞こえなくなった。
「こりゃ不味いな、あちらに向かうぞ!」
205号車は土煙を上げながら方向を転換した。
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