117話 ダンケルク前哨戦~タンク・エース2~
※ 2で終わらす予定でしたが終わりませんでした、すいません。
「敵発砲しました! 距離2千!」
「遠いぞ! そんな臆病弾が6号に通じるか! 進め!」
先陣を切る6号戦車の前進は緩まない、其処に砲撃が到達する。正面装甲に命中した車両はつんのめるようにして止まり黒煙を吹き上げた。
「209号擱座、通信途絶しました」
僚車の報告に大隊長は絶句する、まさかその様な遠距離で6号の重装甲を打ち破る事ができる車両が敵に居るとは思わなかったのであった。
「馬鹿な……6号の前面装甲は150ミリもあるんだぞ! それを貫通するなんてどういう事だ、日本軍はエンペラーの魔法でも掛けられているのか?」
大隊長は呆けたようにぶつぶつと呟いた、エンペラーの魔法うんぬんはしばしば日本軍が兵理を逸した戦い方で勝利を収めるのを見てドイツ軍では恐怖と共に語られていた伝説であった。さらに前衛の6号戦車が撃破されていき、遂には中段の5号戦車までにも被害が出たため隊長は後退を命令するしかなかった。
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「敵後退して行きます、対戦車障害物に敵の装甲擲弾兵が取り付こうとしています、どうしますか?」
「問題ない、此方の機動歩兵も反撃している」
障害物を爆破しようとしたドイツ軍装甲擲弾兵たちはサブマシンガンを持った機動歩兵達に蹂躙されている、それに障害物の手前には地雷が仕掛けてあり次々に爆発が起こりドイツ兵の屍を晒す事となった。
「しかし西住隊長、特甲の威力は凄いですな、あの虎を2千mで仕留めましたよ、徹甲弾一つであんなに違うとか思いませんでした」
「まあな、各車に10発ずつしか配られてない貴重な弾だが其の価値はあるようだ」
砲手が感心した特甲こと試製4式徹甲弾は従来の高速徹甲弾とは根本的に違う物であった。
試製4式徹甲弾 (正式名 4式装弾筒付徹甲弾 通称 特甲) APDS(Armor Piercing Discarding Sabot)
元々三十五式後継の新型戦車の登場に合わせて開発されていた新型徹甲弾である、弾体を重金属のタングステン合金で作成し、重く細長い形にする、そうする事により装甲に接触する面積を小さくする事で装甲から受ける抵抗を少なくして貫通力を増す事が出来るのである。但し砲弾直径が小さいと断面積が小さくなり発射時に与えられる運動量が少なくなるのだが、其の矛盾する条件を解決するのが装弾筒である、砲弾の弾体尾部に軽量の装弾筒を取り付けて発射直後に装弾筒が外れるようにし弾体に強い運動量を与えると言うのがこの弾なのである。
無論この弾にも弱点はある。
「砲塔に命中した弾は弾かれているようですね」
擱座している敵戦車を観察していた操縦士が砲塔に残っている傷を指差して指摘する。
「被弾経始(斜めの装甲で砲弾を弾く)が付いてるからな、まあそうなるな」
後退して行く敵部隊を見ながら西住は答えるのであった。
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ドイツ軍 第19装甲軍団 司令部
「6号がやられるとはな……」
報告を聞いたグデーリアンは顰め面をして溜息を吐いた。先鋒として送り込んだ機甲部隊と装甲擲弾兵部隊が撃退されたのは彼にとって一番危惧していた事が当たったからだ。
「やはり時間を置きすぎたのだ、我々が戦力を補充している間に連合軍は体制を整えてしまった」
「ですが、ロンメル閣下の部隊を欠いた状態で攻勢を続けるのは無理があります、やむを得ない事かと」
参謀の言葉が常識的な考えであり正しいのは判っている、だがその為にロスした数ヶ月が取り返しの付かない事態にならないか非常に危惧していたのだが、どうやら当たった様である。
「失礼する」
「何だ貴様らは……親衛隊が何の用だ?」
其処に現れたのは制帽に髑髏のエンブレムを付けた武装親衛隊の将校である。
「我々の部隊に先鋒を任せてほしい」
「なに? 僭越だぞ!」
「我々ならばあの陣地を突破出来るだろう、それだけの装備もある」
「ふざけるな!」 「まあ、待て」
参謀の言葉を中断させてグデーリアンが問う。
「過酷な戦いになるぞ」
「我ら親衛隊は国家と党の為に命を捧げることを誓っている、問題はない」
「わかった、やってもらおう」
「承知した!」
意気揚々と引き上げる将校を横目に見ながら参謀がグデーリアンに問う。
「よろしいのですか?」
「我々は受けた損害の回復を図らねばならんのだ、だが敵は間断なく攻めねばならん、時間稼ぎには良いのではないか?」
「それは確かに……」
「それに奴らには我々の持っていない物を持っている、業腹だがあれを使って貰わなくてはな」
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イギリス軍 第7機甲師団
日本の第一戦車師団と並んで布陣しているこの師団は先程の戦闘で若干苦戦していた。
5号戦車はともかく88ミリ砲を積み前面装甲が150ミリを超える6号戦車を止めるには砲が若干威力不足であったのだ、現在彼らの主力戦車は現在の首相の名を取りチャーチルと名付けられている。
歩兵戦車 チャーチル(MkⅦ)
全長 7.6メートル
全幅 2.77メートル
全高 3.3メートル
重量 43トン
懸架方式 コイルスプリング方式
速度 44km
主砲 ロイヤルオードナンス90ミリライフル砲(ボフォース・日本製鋼らとの共同開発 零式52口径90ミリライフル砲 の同型)
エンジン 三菱 空冷4ストロークV12気筒ターボチャージドディーゼルエンジン 650馬力
元々この戦車が開発された当初は歩兵を支援する為の用途だった為速度も遅く砲も小口径だったのだが、ある筋からの助言でMkⅦより砲の威力を増し、装甲もさらに増加装甲をつけることで攻防に優れた戦車に早変わりした、従来のエンジンでは馬力不足だったので三十五式改と同じ三菱のエンジンを積む事になった。航空機用のマーリンエンジンを改造したミーティアを積む話もあったが当初余剰であったあのエンジンもスピット以外の機体に使うことになり逆に不足するのではと言う事でイギリスに進出して比較的余力のある三菱のエンジンになったのだ。
エンジンと砲が三十五式改と同じになったので整備や弾の融通が出来るようになったのは意外な効能であった。
流石に2千メートルから6号を破壊する事は出来なかったが対戦車壕に隠れての砲撃で損害を受けつつも相当数の撃破を成し遂げて敵を撃退していた。
「ドイツ軍が再侵攻してきます!」
「懲りない奴らだな、陣地の修復は済んだか?」
「はっ! 再配置終了しております、航空支援は受けられませんか?」
「残念だが我がほうの空軍は敵さんとの交戦で手一杯になっているようだ、砲兵の支援はあるようだぞ」
「まあ、敵さんも同じ様ですな」
野戦重砲による砲撃の応酬が行われているが両者の距離が縮むと煙幕弾に切り替えられて視界を遮りお互いの姿を隠すようになった。
イギリス側からは煙の中を動く影が見えていて戦車部隊はそれを狙う事になる。
「距離、約1500ヤード(約1300メートル)」
「全車発砲」
「ファイヤー!」
砲弾は黒い影に直進し、高い金属音を響かせた……弾かれたのだ。
距離がさらに縮まり其の姿を鮮明な物にした。
「な・なんだあれは?」
ペリスコープから見ていた車長は其の姿を見て絶句するのであった。
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