116話 ダンケルク前哨戦~タンクエース1~
「フランス軍諸部隊、輸送船団に乗りました」
「ご苦労、ブレストまで行けば問題なく本国部隊と合流できるだろう」
参謀の報告に司令官が答えるとそれに疑問を呈する声が上がった。
「よろしいのですか? いくらでも戦力が必要なのでは?」
疑問を呈するイギリス軍の作戦参謀に日本の第三軍司令官は温厚な顔そのままで答える。
「確かに戦力はいくらでも欲しいが誰でもいいとは言えないね」
その言葉を補完するように永田参謀長が発言する。
「フランス軍は士気が低い、あの有様では与えられた陣地を守ることは難しいだろう、アリの一穴という言葉があるようにそこから戦線が崩壊する恐れがある、だから後方に送ったんだ」
「なるほど、フランス本土を守ってもらった方がまだ良いというわけですな」
「正直あそこまで酷いとは思わなかったがね」
現在のフランス軍はマジノ線を守るのが精いっぱいで正面からドイツ軍と戦うことは非常に困難であろうと永田は思っている。 現在後退して部隊を再編しているド・ゴールの部隊を除いて。
「ド・ゴールの部隊に補充で回されたのは外人部隊だそうですな」
「フランス軍の首脳はド・ゴールがとことん嫌いなようだな」
「ですが外人部隊の方が戦意は高く練度も上だとか、結果から見れば良かったですな」
「ド・ゴールが敗れればフランスは危ないな、最もこのダンケルクが落ちた後の話だが」
「そうだ、ここが落ちればドイツ軍を阻むのは困難になる、ここが天王山だな」
「天王山勝負を決める決戦の地ですな、日本ではそう呼ぶと聞いております、そしてこのダンケルクが背水の陣であるということも、確か古代中国での戦術でしたか」
「流石だな、ドイツ軍にこの意味が分かるかな……メッケルが伝えていれば判るか」
メッケルとはかつて日本陸軍の近代化に貢献したドイツの兵学教官クレメンス・メッケルである。
「ドイツ軍は機甲部隊を先鋒に持ってきていますな、こちらの防衛線を機動力で突破する積りでしょう」
「そうなるとこちらの戦車との戦いになるな、我が国の戦車第一師団とそちらの第7機甲師団はダンケルクの前面にいるからな」
「向こうの軍団を率いているのはグデーリアンですな、アルデンヌの突破戦術は見事でしたが今度はどうですかな」
「部隊は戦車を一新しているそうだからな、中々手ごわいかも知れんよ」
こうして前哨戦はダンケルクの手前の平野で始まった。
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「西住隊長、敵さんの新型戦車ですがイギリスは動物の仇名を付けてるんですね」
「そうだな、5号戦車が豹で6号が虎だったな、なんでもチャーチル首相が側近と話してて思いついたという話だ」
その話はチャーチルがジェームズ(本郷)と話していて本郷が譲から聞いていたヒトラーが居た世界のドイツで名付けられた戦車の名前を出したところチャーチルが気に入ってそのまま同盟軍のコードネームとなったのであった。
「なんか強そうな名前ですね、アラスでは豹相手にチハ(三十五式)やマチルダが苦戦したらしいじゃないですか、さらに虎なんか出てきて大丈夫なんでしょうか?」
「心配性だな、俺の故郷は熊本なのは知ってるな、熊本と言えば加藤清正が有名だろう、清正は虎退治をしてるんだ、そしてこれはその清正を祀った清正神社のお守りだ、だから心配するな、それにうちの部隊は最新の戦車を回してもらっているからな」
そう言って戦車第一師団第一連隊第二中隊長の西住小次郎はお守りをポンと叩いて笑うのであった。
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アラスとダンケルクの中間点辺りの細かい起伏のある開けたところにドイツ軍の先鋒が差し掛かっていた。
「隊長、奇妙な物が並んでいます、確かあのような物はなかったと偵察資料にはあるのですが」
「コンクリートで出来てるようだが奇妙な形だな」
目の前の物に彼らは当惑する、コンクリート製の大きな塊に角の様な物がいくつも生えた物が半分地面に埋まってそれがずらりと並んでおり戦車の前進を阻んでいた。
「対戦車障害物か……面倒な物が並べてあるな」
「あの障害物の向こうに敵軍が居ます、戦車もいますな」
「良し! ではパンツァーカイル(攻撃陣形)を組め、6号を先鋒に5号が中段を、4号と3号は補助に回れ、装甲擲弾兵は装甲兵員輸送車で付き従い援護せよ!」
指揮官の命を受け陣形を組んで前進する、先鋒は6号戦車で新たに配置された重戦車大隊が受け持っていた。
「指揮車より各車へ、今より敵陣に突撃する、戦車前進!」
土煙を上げながら戦車たちは突撃を開始した。
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「敵戦車前進して来ます、対戦車障害物を砲撃で排除する模様」
「あれは簡単には壊せんよ、まあ元々は別用途なんだがね」
コンクリート製の対戦車障害物は実は海岸に設置される消波ブロックを転用した物であった。これを陣地を構築する前に大量生産し配置したのである、型枠に鉄筋の芯を入れてコンクリートを流し込むだけの簡単な作業で出来るので極めて短時間で配置できたのであった。一部を地中に埋める事でクレーン車でもない限り退かすのは困難な代物である。
「敵先鋒距離2千!」
「良し、各車発砲! 発砲後は適宜陣地変換せよ!」
西住少佐の命令が飛び彼の部下たちは攻撃を開始した。
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