115話 世界の裏側で
N-1ロケットによる地球軌道への飛行成功は乗っていた2匹の犬の生還も含めて世界を駆け巡った。日本では自国の快挙に喜ぶ声や無事生還した犬達を見たいとの声が大勢を占め恩賜上野動物園で特別に展示を行う事になり観客が押し寄せた。
其の中で大磯の伊藤博文の別荘では譲の正体を知る者の内天皇陛下と本郷を除く者たちが集まっていた。
「公、お加減はいかがですか?」
「心配は無い、狂介(山県有朋)達も皆わしを置いていってしまった、何時お迎えが来ても問題は無い」
伊藤博文はこの年99歳になっていた、流石に床に就くことが多くなったがまだ眼光は鋭く集まった者たちを見回した。
「ロケットの成功により我が国は重大な局面に着いたと見る、兵器として転用すれば日本から直接攻撃できるようになったのだからな、それが欧州でも新大陸でもな。そして{核兵器}だ、この二つを組み合わせれば一国を滅ぼす事も出来るだろう、だが……」
「いずれ他の国も手に入れることになりますな、それは歴史が証明している……平賀の言を借りればですが」
鈴木貫太郎侍従長が伊藤の発言を引き継ぐ、其の言葉に他の皆も同意する。
「奴は{核}を持たせない、使わせないようにしている、アインシュタイン達を集めて{原爆}を使用した{事実}を再現した映画まで作って警告まで行ってな、その精神は良い、だがな……」
「甘い……と言うわけですな」
伊藤の言葉に今度は斉藤実が応える。
「そうだ、奴には人の持つ業についての認識が足らん、尤も明治の御一新を経験した事が無いのだ、奴にそれを望むのは酷かのう」
「では、やるのですか?」
「そうだ、本郷からの報告書は読んでおろう、ドイツとソ連そして合衆国、少なくともかの国の指導者どもは{核}を使うことなどためらうまい、後の世の非難? 鼻で笑っておろう」
「表面だけはしおらしくはするでしょうが」
「其のとうりだ、だから我々も持たねばなるまい、だが奴を巻き込む事は出来ぬ、後世の責めはわしが受ける」
「公! 我々も連座しますぞ、一人だけ悪ぶらないでいただきたい」
「おぬしらも損な性分じゃのう」
「なんの、とうに落としていたはずの命を拾ったのです、なんの問題もありませぬ」
斉藤が少しおどけるように話すと皆から笑みがこぼれる。
「判った、奴に内緒で開発を進めさせる、いざと言うときに使えるようにな、隠蔽と他国への威嚇は本郷がうまくやるじゃろう」
そう言って伊藤は安楽椅子に深く身を委ねる。
(すまんの、おぬしを騙す事になるとはな、じゃがその罪はわしが持っていく、あの世にな)
彼の知らない所で始まったこの計画、彼が知るときが来るのかは現在の所わからないのであった。
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イギリス 某所
「伊藤の爺さんも食えないな、まあだからこそここまで生き延びたんだ、それに俺も賛成だしな」
本郷は本国から来た暗号電文を見て一人ごちた、彼はジェイムズと言うもう一つの顔を使い欧州で密かに動き回っていたがここに来て急がなければと思っている。
(ソ連の第一波は叩き潰したが、あの髭野郎が諦めるわけもないからな、ドイツの方は早めに手仕舞いしてしまいたい所だな、だとすると更なる締め付けがいると言うわけだ、戦場の方で日英軍が決定的な勝利を得る必要はあるがな)
そう言ってもう一つの報告書を見ると顔を顰める。
「全く! このはねっかえり娘が! 祖父さんがまた卒倒するじゃないか!」
其処には彼の娘のエカテリーナが義勇ロシア共和国空軍に参加してイギリス空軍の元で訓練を受けているという報告書であった。しかも同じロシアの女性パイロットを集めており彼女たちは{ローザ・ルィツァールストヴォ}と呼ばれている云々と書かれていた。さらにマスコミにその結成を発表する所まで来ており阻止は困難とされていた。
「発表後はイギリス本土で防空任務に就くだと? ドイツ空軍とやりあう気か! マルセイユやメルダース・ガーランドなんかが居るんだぞ、死ぬぞ!」
頭を抱えた彼は巻き返しを図るために出かける事にした、だが彼をもってしてもこれを阻止する事は困難であると思われるのであった。
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