112話 突入と新たなる世界への道
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放たれた魚雷のうち勤めを果たしたのは6本だけであった。
これを試作兵器ゆえの信頼性の低さと見るべきか敵艦の執念の賜物であるかはその場に居た者たちにとっては後で詮索すれば良い事でしかなかった。
この6本の魚雷はさらに2隻の駆逐艦と1隻の難民船を沈めた。
航続距離の長い一式飛行艇が哨戒を続ける中残った艦船によって海に投げ出された人たちが救出されて行く、どうやら狼たちは完全に駆逐された様である。
すでに途中まで護衛部隊が迎えに出てきており合流も真近である。
そして其の知らせはスカパ・フローを既に出発していた救出船団にも伝えられるのであった。
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ロッテルダム港
難民が集結しているテント村の傍に日本海軍の臨時通信所が作られていた。
其処に詰めている通信士はある暗号符丁を受信した。
{ミ・ミ・ミ}
これを聞いた通信士は震える手で記録紙に記録する。そして解読した暗号を持って司令部に駆け込んだ。
「救出船団より入電! 入港時間4時間繰り上げ!」
それを聞いた司令部から歓声が上がり、それは回りに漣のように広がっていったのであった。
其の頃ロッテルダム港に近づく救出船団の旗艦夕張の戦闘指揮所では星野通信参謀が司令官の木村に尋ねていた。
「航路を南周りの迂回航路にしたのは潜水艦を避けるためだったんですね」
「敵は我々が最短コースを取ると読んでいるだろうからな、敵襲を受ければ時間も食うし被害も出る、何より対潜掃討隊も護るものが居たのでは思い切り戦えんだろう」
「それに南に向かえば間接護衛隊に近くなります、空母の艦載機の護衛も受けられますからな」
有近先任参謀の補足を聞いて怒ると鍾馗様のようだと言われるほど厳つい星野通信参謀の顔もほころぶ。
「まだ道半ばにもなっていないぞ、船団に伝達せよ{入港にそなえよ}とな」
木村司令官の命令の元船団は入港に備えて難民の受け入れ準備をするのであった。
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ロッテルダム港では難民たちが船団の入港を待ち侘びていた。
「見えたぞ! 船団だ、凄い数だぞ!」
歓声を上げる者家族と抱き合って泣き崩れる者と港は喧騒に包まれた。
やがて接岸できる船が付けられていき、接岸できない大きい船は沖合いに停泊して其処に向かって上陸用舟艇大発が難民を乗せて向かっていく。
沖合いに停泊した夕張の上を上空援護の戦闘機が編隊を組んで飛び去って行く、追いついた間接護衛隊翔鶴と瑞鶴の艦載機たちである。
双眼鏡で港から向かってくる大発を眺めながら木村少将は呟いた。
「これで多くの人々が救われる……やりましたよ平賀所長」
難民を乗せた船は次々と出航して行き一路イギリスに向かう。
こうして{大脱出作戦}は成功したのであった。
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譲視点
鹿児島県 種子島沖
大神で竣工した船の公試に便乗してここまで来たがここからはヘリに乗り換えていく事になる、余り好きではないが文句も言えないしな。
「では所長お疲れ様でした、無事な到着と実験の成功を祈っております」
「ありがとう船長此方も公試の成功を祈っているよ」
そう言って飛行甲板に駐機しているヘリに乗り込む、ヘリはローターの回転を上げてふわりと飛び立った。
眼下には長大な飛行甲板を持つ大型の船が増速したのだろう、舳先から起きる波が大きく見える。こうして見ると色違いというだけで全然違って見えるものだ。
「色が違うだけであれが翔鶴とほぼ同じ船とは見えないものですな」
操縦士も同じ事を考えていたようだ。
「まあ、こいつは軍艦じゃないからな、分類上は{船}になるんだよ」
「なるほど、だから巡視船というわけですか」
そう、眼下に見えるこの船は海上保安庁が導入する大型航空巡視船で{まなづる}と言う。操縦士が翔鶴に似ていると言っているが図面を流用しているのだから準同級船というわけだ。
内容はこのようになる
まなづる型航空巡視船 PLAH型(Patrol Vessel Large With Airplane and helicopter)
基準排水量 34500トン
全長 285メートル
全幅 34メートル
機関 IHI-RRガスタービン4軸180000馬力
最大速力 34ノット
航続距離 8,500カイリ 18ノット
飛行甲板 279メートル×35メートル
エレベーター3基(内1基舷側)
武装 戊式70口径40mm連装機関砲2基
武式12.7mm連装機関砲 12基
その他
搭載機 救難用ヘリ12機
哨戒機5機
救難艇2隻(超特大発艇の準同級艇)
艦後部には強襲揚陸艦と同じでドック式の格納庫を持っており超特大発艇と同じ救難艇を格納・発着出来るようになっている、1933年に起こった昭和三陸地震のような大規模な災害時に海上からの支援母艦として開発された船で直接的には今回の大戦に関係なく建造予定の船であったが今後の状況によっては軍の指揮下で運用される事になるかもしれないな。
アメリカはこの船を「日本は翔鶴型空母を量産している」と本国に報告していたようだ、ここと長崎三菱で作られていたのを{シンカク・ホウカク}という名前まで付けて報告していた。ちなみに長崎の同級船は{はくつる}と名付けられている。
ともあれアメリカのミスリードは勝手にやってもらうとして{大脱出作戦}がうまくいって一安心である、木村昌福も良くやってくれたようだ、流石前世の世界で{キスカ撤退作戦}を成功させただけの事はある、運も武運も持ち合わせているようだ。
そんなことを考えていると機体は種子島に着いたようだ、眼下には前世のこの島にもあった物が見えている、最もこの時代にはなかった物だが、天に向かってそびえる塔のように見える構造物、ロケットを見ながら新たな時代を開く一歩がやっと形になったなと俺は背筋が伸びるのであった。
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あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…
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