110話 大脱出作戦発動
※ 4月23日修正しました
大分 大神工廠内総力戦研究所所長室
譲視点
「武蔵」の進水も無事終わり、陛下たちは先に比叡で徳山まで戻り其処から新幹線で帰京される。此方はまだすることがあるので工廠に残って先ずは欧州の状況を知らせた通信文を読むことにした。
ドイツがポーランドに来なかったのは幸運なように見えるがフランスにとっては災難以外の何者でもないな、尤もあれだけチャーチル卿やうちの本郷中将の忠告に耳を貸さなかったのだから自業自得なのだがあっさり史実のように降伏されてはドイツを勢い付けるので非常に困る、前工作のド・ゴールに頑張ってもらわないとな。
フランス以外ではルクセンブルグは抵抗のしようも無いだろうから無防備都市宣言してもらって被害を出さないようにしてもらった。
ベルギーはマジノ線延長部分を日本の工兵師団の連中に魔改造してもらったので持ちこたえてくれているようだ、ドイツ軍に機甲師団がいないのも幸いしている。
ゲーリングが空軍を張り込んで来ているが、こちらも日英共同で迎撃しているから互角以上に戦っている、その為ドイツ空軍はアルデンヌ側に来る余裕が無くなっていてド・ゴールにとってもダンケルクの日英軍にとっても助かっている。
お陰でヘリ部隊の投入がしやすいようだ、ヘリボーンでグデーリアンたちを掻き回してもらいたいものだ。
問題はオランダだ、ここは中立政策はベルギーと同じだったがドイツ側を刺激したくないという心理が強すぎて軍備が十分でないのだ、その為開戦と同時に国境線が破られて攻め込まれている、ならば無防備宣言をしてもらってもいいのだが問題があった。
それはこの国にはユダヤ系の住人が多数住んでいてさらにドイツからのユダヤ難民が多数いる事だ、ベルギーに逃げ込ませているが直にそこも戦場となる公算が強い、彼らを脱出させる必要があるという事だ。
まあ、あの地には彼を送り込んでいるし、本郷中将にも頼んでいるから何とかするだろう、此方の問題は満州国との紛争だな、というかもう紛争ではなく戦争状態な訳だが。
後ろにいるあの国が何時黒幕を剥がしてくるのかそれが気がかりだ、そうなった場合の対策を進めないといけないしな。
中島やIHIなどに連絡を入れて出発の準備をする、今度の仕事はかなり隠密に行う必要があるから、直接ここから船で行く事にしよう。
夕張は欧州に出ているからなあ、まあ明日公試の艦があるからあれに便乗しよう。
出かけている間にオランダの事がうまく行ってて欲しい物だ。
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オランダ ロッテルダム港
ここには戦火を逃れて来たユダヤ系住人やドイツからの難民が集結しさしずめ難民キャンプの様な物を作っていた。港には駆逐艦等の小型の艦艇がひっきりなしに入港し難民たちを積み込んでイギリス本土へ送っていた、だが難民の数は数万を越えており焼け石に水といったところであった。
「オットーさん、この書類があれば貴方たちは日本経由で約束の地に行く事になるでしょう」
「ありがとうございます、この査証があればイスラエルに行く事ができます、ただし乗る船があればですが……」
「大丈夫ですよ、イギリスと我が国、そしてイスラエルが大規模船団を編成して此方に向かわせるようにしています、そうすればここに居る皆さんすべてを連れて行けます」
「本当ですか! 子供たちだけでもと思っていたのですが、良かった……」
「お父様、私たちは一緒にいられるのね!」
「ああ、母さんもマルゴーもアンネも一緒だよ」
抱き合って喜ぶ家族を見て微笑む男にオットーはお礼を言う。
「センポ・スギハァラ貴方のお陰です、ありがとうございます」
「いえいえオットー・フランクさん貴方たち一家に神のご加護を」
一家が部屋から退出すると傍にいた書記が杉原に声を掛ける。
「船団は無事に着くでしょうか? ドイツのUボートは北海に出没しています、すでに被害も出ているのでしょう? 」
「ああ、ペシュも知っているだろうが今度の救出船団には日本から来た最新の護衛部隊が付く事になっている、彼らならやってくれるさ」
オランダ大使館の応援に来ていた杉原千畝は{ペシュ}ことレシェク・ダシュキェヴィチの質問に答えた、レシェクはポーランドの情報将校で彼に協力するために書記になりすましていたのであった。
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イギリス スカパ・フロー
戦闘指揮艦 夕張 艦橋
ここにはオランダへ向かう救出部隊の為にありったけの艦船が集められていた、大きな客船から、小型の貨物船まで大小取り混ぜている所にそれを護衛する部隊も集結しつつあった。
「イギリスの護衛艦隊は現在の位置を占位せよ、泊地とはいえ警戒は怠るな!」
「イスラエル艦隊集結完了{我、出撃準備よし、出発されたし}以上です」
「間接護衛隊旗艦翔鶴より{現在サウザンプトン沖を航行中、貴隊との合流は明日以降になる予定}以上です」
翔鶴の通信が届くと艦橋にいた参謀たちから溜息が漏れる、彼らの到着を待ち望んでいたからだ。
「司令、時間的猶予はありません、直ちに出航しませんと間に合いませんぞ」
先任参謀の進言に司令はかぶりを振って答える。
「Uボートの襲撃を受ければ無防備の客船などは魚雷一発で沈んでしまう、それに我々の向かう先は敵に把握されているからな、手ぐすねひいて待ち構えているだろう」
「では! 待つのですか?」
「そうだ、先行している掃海部隊が{掃除}するまで我々は待機する」
そう言って大脱出作戦{カナン}の救出部隊の指揮官に選ばれた第三水雷戦隊指揮官木村昌福は見事なカイゼル髭をなでるのであった。
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