109話 バルト海海戦 ~逆襲のバルチック艦隊~
※4月20日修正
第三者視点
ダンケルク 第三軍司令部
「挺身隊の損害は550名中戦死113名負傷196名か」
「多くの兵を失い申し訳ございません」
アラスの戦いが終わり引き上げてきた日英軍はダンケルクまで戻り補給と負傷者の後送を行っていた。その中で挺身隊として敵中にヘリによる奇襲をかけた安藤少佐の部隊の損害率はやはり大きい。
永田総参謀長に報告する安藤少佐もあちこち負傷していた、彼らの阿修羅のごとき活躍でロンメルの第七師団を壊滅状態に持って行けた(敵将の名前などは捕虜から入手した)言わば代償である。
「ドイツ軍のど真ん中に殴り込みを掛けたんだ、全滅も覚悟していたんだ、よくやってくれた」
永田が慰労するがイギリス軍などはこの作戦を聞いて最初無謀だと呆れ、作戦が成功したらその蛮勇に呆れることとなった。そしてそれは第三軍の新たな伝説となり長く語り継がれることとなるのだがその辺りは省略することとする。
「しかし、ヘリによる空中機動作戦か、戦術が変わりますな」
「いや、今回のような作戦はこれっきりにした方がいいだろう」
野中少佐が興奮したように話すと安藤少佐は冷静に反対する。
「全く同じ作戦だと恐らくドイツは対抗策を取って来るだろう、兵を降ろす時ヘリは空中に静止しなくてはならない、そこを狙われれば一瞬で全滅してしまう」
「対抗策か、ドイツが取って来ると?」
「ああ、過信は禁物だろう、実際あれだけ混乱していたのにすぐに立ち直って反撃してきた、備えをされていたらヘリから降りる間もなく戦死だったろう」
「安藤がそう感じたということはおそらくはそうなのだろう、俺は信じる」
永田の安藤に対する信頼は厚いものがある、今回も彼の意見を入れてヘリによる空中機動は{改善の余地あり、むやみに使うべからず}とされたのであった。
「だが、今回はドイツ軍は完全にアラスから後退した、時間は十分稼げるだろう」
こうして日英軍の時間を稼ぐ作戦は成功に終わったのであった。
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「どういう事なのです! この戦いは時間との競争なのですよ!」
グデーリアンは電話で話す声が大きくなるのを自覚しながらそれでも相手にかける声が鋭くなるのを止められなかった。
「ハインツ、アラスでロンメルの師団が壊滅し彼も負傷した、戦力の立て直しが必要だ、ヘス首相も進軍を一時見合わせて部隊の立て直しを図るべきと言っておられる」
彼の属しているA軍集団司令官であるルントシュテット元帥が進軍の一時見直しを命令してきていたのであった、だがグデーリアンはなおも抵抗しようとする。
「ですが……」
「現在本国では5号と6号戦車で構成された新編の戦車大隊をそちらに向かわせるように手配している、それが届いてからでも良いのではないか?」
「……」
結局グデーリアンは押し切られた、実際戦力になる5号戦車と6号戦車の少なさが進撃に支障をきたすことは彼も感じていた、ロンメルのように88ミリ高射砲を転用する事も考えたが逆にそこを突かれてヘリによる奇襲を許したというのもあったのだ。
こうしてグデーリアンらの進軍は後続が来るまで見合わせとなりダンケルクを電撃戦で落とすという作戦は事実上破綻した。
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バルト海
時間は若干遡る
ソ連がフィンランドに宣戦してから、欧州派遣軍はフィンランドに武器や物資を送っていた、最初は急ぐ必要があったのと隠密性から輸送潜水艦を使っていたが効率から言えば輸送船団で纏めて送る方が良いため準備の方が進められた。
そしてヘルシンキに向かう輸送作戦{多}号作戦が開始される、輸送船団は数次に渡って行われる事になっており輸送船とそれを護衛する艦艇がポーランドより進発する。
ソ連側もそれに気が付いて妨害の為バルト海艦隊に出動を命じた。艦隊は戦艦オクチャブルスカヤ・レボルチャ とマラートに巡洋艦プロフィンテルン・クラースヌイ・カフカース などを中心として多数の駆逐艦などで構成されていた。
ソ連艦隊は輸送船団を求めて進んだが途中日が暮れて夜間航行していた。
「かつて我がバルト海艦隊を敗北させた日本の艦隊を撃ち名誉を回復するのだ! 今回の地の利は我らにある、庭とも言えるこのバルト海に彼らの墓標を打ち立てるぞ!」
「「「「「ウラー!(万歳!)」」」」」
バルト海艦隊側の戦意と熱意は非常に高かった。だがそれが高かったからといって必ずしも結果が繋がるわけではないのであった。まして相手が悪かった。
「司令、対水上電探に反応、夕刻偵察機から報告のあったソ連のバルト海艦隊と思われます」
「そうか、艦隊に伝達、{合戦準備}だ。輸送船団には退避を命じて直衛の戦隊と同航させろ、間接護衛隊の現在位置は?」
「我々の位置より西に100キロ離れた場所にいます」
「向こうにも連絡しておけ、夜は飛べんだろうが残党狩りは任せたいからな」
そして両者の距離は急速に縮まっていく、日本側はレーダーで相手を探知していたが、ソ連側は今だレーダーを実用化しておらず専ら見張り員の目に頼っていた。
「何か見えるか?」
「何も見えんな……敵は本当にいるのか?」
見張り員たちはこう言っていたが日本艦隊は既にバルト海艦隊を捕捉していた。
「司令、敵艦隊まで距離1万メートルを切りました、攻撃を開始しますか?」
「まだ、まだだ、全艦兵器自由使用攻撃用意、レーダーで捕捉し続けろ、見張り員は敵の発砲を見つけたら直ちに連絡、距離3000で砲撃を開始する」
直接護衛隊指揮官角田覚治少将は旗艦榛名の指揮所で仁王立ちになり指揮を執っていた。彼の指揮する直接護衛隊の陣容は以下のとおりである。
戦艦 榛名 ・ 霧島
重巡洋艦 鳥海 ・ 摩耶
軽巡洋艦 北上 ・ 大井
駆逐艦 第19駆逐隊 (磯波、浦波、綾波、敷波)
第11駆逐隊 (吹雪、白雪、初雪、深雪)
第104護衛隊 (桃、樫、栗、竹)
第104護衛隊は大戦直前に編成された輸送部隊護衛の為の部隊で旧桜級駆逐艦から代替わりした松級駆逐艦で構成されている。(旧桜級駆逐艦は改造されて哨戒艦や打撃艦などに転用され船名を番号に変えている)
松級駆逐艦(噴進弾仕様)
基準排水量 1350トン
全長 105メートル
全幅 9.5メートル
機関 蒸気タービン 2基2軸
最大速力 35ノット
航続距離 6000海里/16ノット
兵装 54口径12.7cm単装速射砲2基2門
戊式40mm連装機関砲2門
武式12.7mm4連装機関砲2門
同12.4mm連装機関砲10門
対潜迫撃砲1基
爆雷投射機1基
零式12連装噴進弾発射機
(通常仕様は4連装61cm魚雷発射機を備える)
夜の闇が辺りを包み両者の距離は急速に縮まっていき彼我の距離が3000メートルに達した頃ソ連側も日本艦隊の存在に気が付いた、だが彼らが気が付いたときには手遅れであった。
「撃ち方始め!」
「撃!」
司令長官の命令の元、各艦が攻撃を開始する。砲撃が開始されると同時に魚雷発射管より魚雷が撃ち出されていく、主砲だけでなく噴進弾や機銃まで発射され火線は敵艦に伸びていく。
「敵襲! 至近です」
「何故気が付かなかった、見張りは何をやっておったのか!」
言い争っている所に攻撃が命中する、榛名・霧島の40センチ砲弾が命中し戦艦の重装甲の司令塔を貫通させて中に被害を与え、速射砲の攻撃に駆逐艦の艦上構造物が破壊されていく。噴進弾は船体の至近で炸裂し中に格納されていた小弾がばら撒かれて艦上で爆発する、装甲部分はともかく非装甲部分や剥き出しの機銃座が吹き飛ばされていく。
「敵艦に命中多数! 魚雷……時間!」
ソ連艦の舷側に次々と水柱が立ち上る、軽巡洋艦北上・大井と第19・11駆逐隊の放った魚雷が至近ともいえる3000メートル以内からの必殺の攻撃はバルト海艦隊に止めとも言うべき被害を与えた。
戦端を開いてから2時間でバルト海艦隊は壊滅した、戦艦・巡洋艦は撃沈され、僅かな駆逐艦がクロンシュタット海軍基地に逃げ込んだだけである。
バルト海艦隊の逆襲は完全な返り討ちに合いフィンランド湾は多数の艦が沈んだ事から、後の世に{鉄底湾}という別名で呼ばれた、勿論これはソビエト以外の国での呼び名である。
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