108話 激戦! アラスの戦い
第三者視点
ロンメルの第7師団はド・ゴールの戦車師団を蹴散らしつつ前進したが問題も抱えていた。一つは戦車の不足である、B1やB2に対抗できる5号戦車や6号戦車は元々数が少なくロンメルの部隊にもあまり回されていなかったが度重なる戦闘と移動速度の速さに落伍する物が出てきたからである。
特に6号戦車は69トンもある重量がネックとなっていた、開発に時間を掛けていたので初期の機械的トラブルは解消されてはいたが元々重量級戦車は自力での長距離移動には向いておらず、足回りの消耗が激しかったために整備の為に遅れがちになっていた。
其の為部隊の先鋒は3号や4号戦車を立てざるを得ず、手に余る部分を5号戦車やトラックで牽引された88ミリ高射砲で補う場面が見られるようになった。そして次の問題は補給である。本体との進撃速度の違いから距離が離れており燃料が特に不足しがちで途中フランス軍が遺棄した車両や補給部隊を襲って間に合わせる始末であった。
「ここに来て進撃速度を下げてはならん!」
「ですがこのままでは本隊と離れるばかり、敵中に孤立しますぞ!」
参謀の言葉は正論でありさしものロンメルも折れざるを得なかった、またグデーリアンからも本隊が追いつくまで現状を死守せよと命令が来たため停止を命じた。このためド・ゴールの部隊は全面崩壊を免れフランス中央方面に後退して再編成する余裕が出来た。
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「ド・ゴールは何とか逃げ切ったか、だがフランスの他の部隊は何をやっているんだ?」
「何でも陸軍総司令官のガムラン大将は敵襲の報告があったのに指示も出さずに寝室に入ってしまったとか、あんな司令官の下では将兵も浮かばれんな」
ダンケルクに上陸しているイギリス海外派遣軍(BEF)の参謀長と日本から到着した第三軍参謀長永田鉄山はフランス軍の現状に溜息が出るばかりであった、まともな将軍にまともな戦力を渡すことも出来ない現状にフランスの今後が案じられる。
「そちらの海軍の状況はどうかね?」
「欧州派遣艦隊はバルト海でフィンランドへの物資輸送作戦{多号}の遂行中でソ連のバルト海艦隊と激しくやり合っている」
「なるほど、バルト海艦隊からすればリベンジ戦ということになるしな、しかも今度はホームグラウンドだ」
「増援で我々を連れてきた部隊はそちらの大艦隊と一緒にオランダに取り残されたユダヤ系住民やドイツから逃げて来たユダヤ人難民を救出する作戦{カナン}の真っ最中で回せる船は1ハイも無いそうだ、ああ後Uボート狩りで対潜部隊も超過勤務だよ」
「では時間稼ぎをしないと不味いな、このままでは準備が間に合わない」
「どこかで進撃を食い止める訳か、どこにするんだ?」
「ここだ、ここで限定反撃を行って足止めする」
地図の一点を指し示す、その地名はアラスと言った。
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アラス郊外
「ロンメル将軍、アラスの北に連合軍の機甲部隊を発見しました、此方を発見、向かってきています」
「対戦車陣地を構築して応戦する、88ミリ高射砲部隊は水平射撃準備、5号戦車の可動台数は?」
「10両であります」
「判った。戦車壕に入れて待機、他の戦車も車体を晒さないようにさせろ」
「はっ!」
こうしてドイツ軍とイギリス・日本の連合軍の戦いが始まった。
「戦車部隊、突っ込んできます!」
「車種は?」
「マチルダとタイプ35の混成です」
「5号以外では歯が立たんな、88ミリと5号で応戦せよ」
命令を受けて5号戦車が壕から顔を出して砲撃を開始する、88ミリ高射砲も砲を水平に構えて砲撃を開始した。正面に88ミリを受けてマチルダが大破し三十五式の反撃の砲火が高射砲陣地に命中して高射砲が横転する、5号の砲撃を三十五式は前面の増加装甲で受け止め辛うじて撃破を免れた。
距離が詰まると戦車だけでなく随伴してきた歩兵と装甲擲弾兵との間で戦闘が始まる。銃で撃ち合い手榴弾や擲弾が飛び交いドイツ軍の陣地が削られて行く。
「何としてもここを持たせろ! 敵を通すな!」
ロンメルの叱咤に奮起したドイツ兵は次第に連合軍を押して行き連合軍は後退を余儀なくされた。ドイツ軍は勝利した物の被害と将兵の疲労は大きくカレーやダンケルクに向かう当初の進撃計画の見直しが必要になってきており、アラスで後続を待つことになった。
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ダンケルク 第三軍司令部
ここの臨時大会議室に第三歩兵連隊第一大隊の隊員が集められていた。彼らの長である安藤輝三少佐が前に立ち皆を見回して口を開く。
「ドイツ軍の進撃はアラスで止まっている、だがもうすぐ本隊が到着すれば彼らは再進撃するだろう、ここダンケルクで日英軍は彼らを迎え撃たねばならないがもう少し防備に時間を要する。彼らの進撃を遅らせる為に挺身隊を編成しドイツ軍陣地に攻撃を仕掛ける事に決まり我が第一大隊に其の命が下された。挺身隊の任務は過酷であり多大な犠牲が出るだろう、貴様らの命……俺にくれ、任務を必ずや達成し第三軍ここにありとドイツの連中に見せてやろうぞ!」
「「「「「「「「オオッ!!」」」」」」」」
隊員たちは声を揃え出撃に向けて準備をするのであった。
アラス郊外 ドイツ軍陣地
「偵察部隊より入電、日英軍が接近中です」
「性懲りも無く又来たか、防御陣地の方はどうだ?」
「陣地構築は完成しております、戦車や砲兵陣地も問題無しです」
「では念入りに歓迎会を開いてやろう」
日が落ち始めた夕刻、ドイツ軍は敵を待ち受ける事にした。
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「攻撃開始点に前衛が到達しました」
「攻撃開始!」
日英軍は後方の重砲部隊から攻撃を開始する、野戦重砲が火を噴きドイツ陣地に火柱が穿たれて行く。さらに重噴進弾による攻撃も追加された。対するドイツ軍も反撃の砲火を浴びせている。戦車が陣地に迫りそれを阻止しようと4号戦車と5号戦車が前進し発砲する。
あるドイツ軍の兵士が聞きなれない音を耳にして思わずその方向、空を見上げる。彼が其処に見たものは編隊を組んで此方に飛来する見たことも無い乗り物であった。
「なんだ……あれは?」
彼は声を上げて皆に知らせようとしたがそれは果たせなかった。其の飛来する機体から降り注ぐ銃弾によって命を落としたからであった。そして上空からの銃撃を受けて部隊が混乱した所を後方の司令部で見ていたロンメルたちは上空にいるその機体をみて驚いていた。
「空中で停止している? あの機体はいったい……」
「見てください、機体から何かロープの様な物が下ろされています!」
「何だ? 兵隊が降りてくるぞ、しまった! 敵の奇襲だ、迎撃させろ! あの機体を落とすんだ!」
ロンメルは敵が何をしようとしているのかを瞬時に見抜いて攻撃を命令したが其の命令は伝わらなかった。爆発が起き彼と参謀、警護の兵たちは吹き飛ばされたのだ、ロンメルは一命を取り留めたが破片で頭に怪我を負い指揮が取れなくなり部隊は混乱状態に陥った。
彼らを驚かせたのは日本軍が実戦に始めて投入した回転翼機であった。其処からロープを伝って懸垂下降したのが安藤の率いる挺身隊で彼らはすばやく地面に降りると携帯していた火器でドイツ軍陣地内で暴れ出した、ロンメルのところに落ちたのは彼らが携帯していた携帯噴進弾が着弾した為である。
「徹底的に破壊しろ、奴らを立ちなおらせるな!」
陣地内でドイツ兵と挺身隊の白兵戦が始まった、銃で打ち合い銃剣で渡り合い、擲弾筒や携帯噴進弾で辺りを吹き飛ばしていく、安藤少佐も軍刀を振り回し敵をなぎ倒していく。
奇襲によってアラスの第7師団は敗退し本隊の方に敗走して行った。ここにアラスの戦いは日英軍の勝利に終わったのであった。
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