106話 アルデンヌ攻防戦 1
フィンランドとポーランドでソ連軍の侵攻が始まったと同時にドイツはフランスとベネルクス三国に対して宣戦を布告して侵攻した。
フランスは事前の準備の通り要塞マジノ線での防衛を選択ドイツ軍と対峙した。
中立を宣言していたオランダは事前の防衛体制の不備から侵攻後占領された、ベルギーはマジノ線要塞の一環として作られた防衛線で頑強に抵抗、膠着状態に陥った。
そしてベルギー・ルクセンブルグとフランスにまたがるアルデンヌの森、ここは地形的な背景からドイツ軍の侵攻は無いとして要塞の構築は為されなかった、其の上戦略上の価値が低いとしてフランス軍は事前に部隊の配置すらまともにしていなかった、だがグデーリアンらはこの森を主侵攻ルートに選んでいたのだった。
「この戦いは時間との戦いである! マジノ線に張り付いたフランス軍が戻ってくるまでに後方に侵攻するのだ!」
グデーリアンの機甲部隊は森を突破して遂にフランス側に侵攻した。
「前方に敵軍! フ・フランスの機甲部隊です!」
「馬鹿な! 此方にはいなかったはずだ!」
予想外の敵の出現に慌てる前衛部隊であったが直ちに戦闘態勢を固める。
「敵戦車はB1bis戦車のようです」
「1号や2号戦車ではどうにもならん! 3号と4号戦車を前に出せ」
3号戦車が前進しB1bis戦車に向けて発砲する。
「馬鹿な! 全弾弾かれただと?」
フランスのB1bis戦車はルノーの開発した重戦車に分類される戦車である、多砲塔戦車に分類され車体に75ミリ砲を備え、砲塔に47ミリ砲を備えるが其の大きな特徴は前面と側面の60ミリを越える装甲であった。この厚さの装甲は3号の37ミリ砲や4号の短砲身75ミリ砲では撃破できなかった。
さらにここに居た戦車はB1bisだけではなかった。
「ドイツ軍の進撃が止まりました」
「よし、奴らをこれ以上先に行かせるな!」
B1bis(bisはフランス語で2という意味なのでB1 2型である)よりも車体側面が傾斜した装甲板で覆われたより重防御なB1ter(B1 3型)と車体の前面の砲を撤去して傾斜した一枚装甲板を持ち、大型の砲塔にラファルグCA75ミリ戦車砲を搭載したB2重戦車も少数だが現れドイツ軍に反撃を行いたちまち3号も4号戦車も大破する。
「くそ! こいつらどうなっている、情報にない戦車までいるぞ」
「後退しろ、森に逃げ込め!」
こうして初遭遇した両軍の戦車同士の戦いは先ずはフランスが先手を取った。
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フランス軍 特別編成機甲師団 司令部
シャルル・ド・ゴール大佐は緒戦の勝利に沸く司令部で満面の笑みを浮かべていた。
(私の機甲部隊の理論が正しいということをこれで証明できる)
彼がなぜここで戦車師団を率いているのか?
それは数年前に遡る。
当時ド・ゴールは戦車の運用法について前大戦の経験と欧州に派遣された日本軍の戦車部隊の活躍を元に機甲部隊を設立すべしと唱えていたがフィリップ・ペタンら軍の主流派からは理解されず不遇を託っていた。
戦車もB1シリーズの2番目にあたるB1bisが開発されたがフランス独自の開発で他国を見習う事が無かったため使えない無線機や時代遅れの砲塔配置などで到底満足できないものであった。
其処に手を差し伸べた者たちがいた。イギリスと日本である。彼らはフランス政府に軍の刷新を働きかけ続けた、そのしつこいまでの干渉は一歩間違えば内政干渉と呼ばれかねないものであったが硬軟取り混ぜた交渉で幾分かは戦車の開発などに前向きにさせる事に成功した。
又裏側からは本郷たち東機関がイギリス情報部と手を組んでフランス軍部に裏工作を行い、比較的に近代戦を理解しているド・ゴールに機甲部隊の指揮を執らせるように仕向けた。
ド・ゴールは独裁的かつ強権的な人物で上官にも受けが悪かったが上級指揮官で使えそうなのが彼しかいなかったので仕方無い部分もあった。
結果B1bisの後継としてより防御力のあるB1terとより近代的なB2が生産される事になり、無線機もイギリスから輸入し、そして従来の戦車師団を再編成した特別編成の師団の指揮官にド・ゴールを任命させる事に成功した。
そしてアルデンヌの比較的近くに駐留するように仕向けて工作は完了した、それは戦争が始まるたった一ヶ月前の話であった。
閑話休題
そうして辛うじて間に合った虎の子の戦車師団は森を抜けた地点に陣取りドイツ軍を撃退していた。その後の攻撃も戦車師団と元々この地にいた歩兵師団の援護の元防衛に成功していた。
「これで勝った! このままドイツ軍を森の奥に追い落とせ!」
だがその喜びは長く続かなかった。
今までの戦車が子供のように見えるシルエットが森の奥から現れたのだった。
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