99話 欧州東部戦線 ~戦いは数~ その1
第三者視点
ポーランド東部国境地帯
ソ連が侵攻を始めてから1週間が過ぎた。
現在国境をポーランド側に10キロから20キロの間で戦闘が行われている、これはソ連からすれば完全に計算違いであった、本来ならば100キロは進んでいるという計算だったのだ、それだけできる兵力を投入していたのだった。彼らは計算違いをしていた、それは国境付近にはまともな防御線が存在しないということを開戦の二週間前に入手していたことである。そこから二週間の間に何が起きたのか知らなかったのが不幸の始まりであった。
「何が起きたのだ! 偵察の話ではここにはまともな要塞や防御施設はなかったはずだ」
司令官が幕僚に嚙みつくと幕僚は蒼白になりながら説明をする。
「同志司令官閣下、偵察部隊の怠慢がこのような事態を招いたのです、奴らは懲罰部隊送りにいたします」
「それはそちらでやっておけ! だがこのままここで足止めを食っていたら政治委員に何を中央に報告されるか判らんぞ、そうなれば我々はどうなるのか、判るな?」
司令官の言に幕僚はその意味を理解した、政治委員からベリヤに報告が行き自分たちが怠慢していると報告されて同志書記長の不興を買えば最悪は粛清という名の処刑で良くてもシベリアに送られてしまうだろう。
「同志司令官閣下こうなればなりふり構わず攻めることです、兵を注ぎ込めるだけ注ぎ込むのですそれしか打開策はありません」
結果指揮下の兵たちには最悪の決定が下された、ただ物量を以て攻めるのみ、これがジューコフやトハチェフスキーであればもう少し違うやり方があったはずである、だが大粛清の影響で優秀な軍人ほど排除され党やスターリンに忠実ではあるが経験も能力もない司令官や幕僚が大半を占める現状ではどうすることもできないのであった。
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「こちら、偵察隊1号機イワン共が進撃してきている、数だけは凄いぞ地表の模様が変わって見える」
「了解、兵種が判別すれば知らせてくれ」
敵の上空を偵察していた機体からの報告を受けポーランド・日本連合軍司令部では対処のための会議が開かれていた。
「数に任せて押し切る気ですか、下品な戦い方だ」
「そうは言うが戦いは数だというのも真理だ、こちらの兵器も無限にあるわけではないからな」
「防御線の一番にもうすぐ接敵します」
「では手筈通りにやってくれ」
「了解しました」
部下に迎撃を指示するポーランド軍の司令官に日本軍から派遣されている参謀が提言する。
「閣下、ここは我が軍の{特火大隊}を投入するべきかと思います、面制圧には最適です」
「うむ、では頼むとしよう」
{特火大隊}特別編成試作火器運用大隊の略称である、今回編成された第3軍付にされた3つの特別編成部隊の1つであり、本来は総力戦研究所付の試作兵器試験運用部隊である。世界大戦の機運が高まって来た時に欧州に急遽送られた部隊である、数で押してくるであろうソ連軍相手にはなりふり構わず試作兵器を投入するというスタイルはこの戦線を日本軍が何を置いても防衛するという決意の表れでもあった。
「イワンの先鋒がAラインに到達しました」
「指向性散弾同時爆破!」
「爆破します」
ソ連軍の戦車と装甲車の後ろに進む歩兵たちが浅く掘られた塹壕の前に達した時前線指揮官が命令を下し、起爆手がリモコンの撃発器のスイッチを2回クリックする。
直後に塹壕で連続して爆発が起こり破片のようなものが飛び散るとバタバタと歩兵が倒れていく、爆発に直接巻き込まれたものは体を引き裂かれたようだ。流石に戦車は被害を受けなかったようだが装甲車はズタズタになって炎上している物もある。その状態が塹壕沿いに長く広がっていた。
試製1式対物地雷、指向性を持たせた爆薬に700個の鉄球が含まれており、爆発で鉄球を飛ばし兵と車両に危害を加える物である。
「砲撃始め!」
土を掘って車体を隠した戦車や自走砲が砲撃を開始して敵戦車を貫いていく、撃ち抜かれた戦車は搭載している砲弾が誘爆して吹き飛び乗せていた歩兵もまた吹き飛ぶ。
それだけで前衛部隊は壊滅状態だがソ連兵の前進は止まらない、彼らに後退は許されておらず後ろに逃げれば督戦隊の射撃によって撃ち殺されるからだ。
味方の屍を越えて進む彼らにさらに攻撃が行われる。
「多連装噴進弾発射!」
戦車の上やトラックの荷台に積まれた発射機に装填された40発の無誘導ロケット弾が打ち出されていきソ連兵の上に降り注いだ、濃密な爆発規模に吹き飛ばされて行く歩兵たちが哀れを誘う。
「後方の督戦隊を叩くぞ、重噴進弾と榴弾砲部隊砲撃始め!」
陣地の後方に待機していた大型の発射機に据えられていた試製零式40糎重噴進弾が発射されると共にズラリと並べられた15糎半自走榴弾砲が火を噴いた。これらはソ連側の後方で脱走兵を射殺する任務を帯びた督戦隊を吹き飛ばしていく、その破壊力に督戦隊が壊滅しついにソ連軍は全面崩壊して敗走するのであった、損耗率は60パーセントを超え全滅と判定されるほどの被害を受けた、ここに緒戦の地上ではソ連軍の敗北が決定したのであった。
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