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平賀譲は譲らない  作者: ソルト
3章 昭和編
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98話 ジャイアント・キリング

譲視点


 時間は若干遡る


1939年10月17日 防衛省立川飛行場


 ここで次期主力航空機用エンジンのコンペが行われる。


 すでにコンペ用に作られた試作機に積まれたエンジンはウォームアップを始めていた。機体は次期主力戦闘機として開発されている1944年制式採用予定の試作機である、三七式戦闘機の後継あたる機体はやや大型となり要求される速力なども大きくなっているため大馬力発動機エンジンが新規に量産される事になったのだ、空冷18気筒で2000馬力級の仕様となっている。本来ならば1942年に試作を開始する予定であったが欧州の政情に合わせて繰り上げられる事になった。


 エンジンはベンチテストや生産性の検査もすでに終わっており残すは実機に搭載しての試験飛行である、実際に飛ばしてパイロットに見てもらわないといけないからね。


「只今より試験飛行を開始します、テストを行う操縦士は黒江大尉と岩橋大尉です」


 スピーカーからのアナウンスと共に滑走路に進んだ試作機が滑走を開始する。


 こうしてコンペの最終審査が開始された、参加したメーカーは3社のみである、やはり高い技術力を求められる大馬力発動機エンジンでもあり今回は空冷ということもあり川崎や愛知などは参加していない、三菱と中島のどちらかが決まるだろうと予想する者が多かった。


 大空に舞い上がった機体はキラキラと光を反射しながら小さくなっていった。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


第三者視点


 「これは……すごいな」


 黒江保彦大尉はスロットルを開いた時の吹き上がりの良さに驚いていた。


(他の2社とはまるで違う、凄く滑らかにパワーが出る!)


「一号機高度6000メートルに到達、ブースト正常水平飛行に移る」


 一気に予定高度まで上昇して水平飛行に移り最高速の計測に移る。


「620…630…636」


 速度を読み上げる声は無線で地上の管制班の受信機のスピーカーから流れてくる。


「655…660!」


「660キロ出ました!」


 地上では管制官たちが歓声を上げていた。


 飛行テストがすべて終わり結果が集計されていく、黒江、岩橋大尉は椅子に座って飲み物をもらい寛いでいた。


「あのエンジンで決まりだな」


「ベンチテストでもいい結果が出ていましたが乗ってみるとまるで違う、あれならば新型も期待がもてますな」


 先程までの感触を思い出すように二人は話していた、彼らを以てしてもこれまで体験したこともない感覚にすこし興奮気味である。


 そしてメーカーの人間を集め結果が言い渡される時が来た。



>>>>>>>>>>>>



譲視点


「それではコンペの結果を発表する、今回の次期主力航空機用エンジンに決まったのは本田技研工業のRA183だ!」


 俺が結果を発表すると本田技研のメンバーが歓声を上げて抱き合い残りの2社の担当者は項垂れた、特に三菱の担当者の落胆ぶりが酷い、部門は違うがコンペで小さな会社に負けたのはヤンマーに続いてだからなあ、あ? 担当者の一人が倒れた、担架で運び出されていく、又デスマーチをやっていたんだろう、気の毒だが渡した資料は皆同じなのだから恨みっこ無しである。


 そこに本田宗一郎がんこおやじが藤沢を連れてやって来た。


「どうだ! やってやったぞ!これで空への道が開けたぞ!」


「まったく……スーパーカブが全世界で売れているからいいような物ですが、エンジン工場の為に儲けを全部使ってしまっていたんで採用されなかったらどうしようかと思いましたよ」


 無邪気に喜ぶ宗一郎にやれやれといった感じの藤沢、やはり凸凹だがいいコンビだと思う。新工場はこちらが手配した鈴鹿にあり工場と現在は山林になっている土地にサーキットができる予定である。元々軍の施設を作る予定で買い上げる予定の土地で荒地だったので雇用が増えて地元も喜んでいるようだ。


 スーパーカブは日本だけでなくアジア・欧州・アメリカでも売れていてその勢いで航空機部門にも打って出るつもりである、現在はエンジンだけだがいずれ機体も作る積りで飛行場も併設すると騒いでいる。


 そろそろお開きにするかと思っていたら本田宗一郎がんこおやじがやってきていたずらっぽい笑顔をしながら言った。


「一つ隠し玉があるんだが見てくれるか?」


 エンジン輸送用のトレーラーに積まれているカバーを外すとそこにあったのは……


「これ排気タービン(ターボ)搭載してるのか?」


「おう! あの資料にはいずれ高高度を飛ぶ機体が出てくると書いてあったからな、あったら便利だろう!」


 思い切りどや顔されたよ。


「排気タービンなんかうちでは作れませんからね、IHIに頼みに行きましたよ」


 なるほど影の功労者は藤沢君だったのか、相手が断るかと思ったのだが意外とあっさりと受けてくれたので拍子抜けしたそうだ、聞いてみると以前三菱から戦車用ディーゼルエンジン用の排気タービンの依頼を受けた人だったとか、話を聞いてああ、又かと思って受けてくれたらしい、迷惑かけてすいません。


 このエンジン{RA183T}を見た黒江・岩橋両大尉が試験機に付けて乗りたいと言ったが、高高度を試験するには酸素マスクと冷えないように電熱付き飛行服の用意もしなくてはならないのでもう少し先になる、それより早く新型機やエンジンを供給しないと欧州は大変だからな、どちらにしても遠いので色々と手を打たねばならないな。


 俺は指示を出しに総研本部に戻る、それが終わったら家に帰って家族と久々に過ごすんだ、直ぐに又工廠行になるのは避けられそうにないんだから。



ご意見・感想ありがとうございます。

ブックマーク・評価の方もしていただき感謝です。

あくまで娯楽的なものでありますので政治論とかはご返事できないかも…

読んでいただくと励みになります。


6/28追記 RA183の意味ですが空冷レシプロの意味であるRA(reciprocating engine air)と18気筒を意味する18に3番目の設計の3でつけました。

Tはターボチャージャーですね。


 

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