97話 日満衝突
第三者視点
いきなりの中華民国からの通告に日本側は困惑した。
元々清朝からロシアが租借していた遼東半島の内旅順・大連の一帯のみ受け継ぎ中華民国時代にはその他の部分は返還していた。
その後旅順は日本の中国北部への窓口として機能していた、南満州鉄道の末端に位置するこの地は満州で採掘される資源の積出港としても重要で旅順は航路の安全を守る海軍基地とロシアから引き継いだ要塞で安全を確保していた。
「……何々? 通告が受け入れられない場合は実力でこれを行使するとなってるな、だが実行するのは満州国? 中華民国は手を出さないのか?」
「どうやら我々が手放した後の旅順は満州国に割譲されるのだろうな」
「そういう講和条約になってるんだろう」
満州国側と交渉を開始するも向こう側は「直ちに引き渡すように」と非常に強硬であった。
日本側もただ渡すわけにもいかないので何度も会談を行ったが平行線を辿るばかりであった。その間中華民国は後は満州国側に任せたとばかりに話し合いにすら出てこなかった。
そうして1940年1月20日満州国と日本の租借地との境の辺りの鉄道線が爆破された、爆発規模は小さく丁度列車が走っていなかったので被害は無かったが満州国側はこれを日本軍の爆破工作であるとして租借地の接収を実力行使で行うと通告した。
これに対し日本側は実力行使は宣戦布告も同然であると反論、ロイターなどの通信社にも経緯を流して満州国側の陰謀であると断じた。
それに対して満州国は1月22日正午に声明を発表する。
「我が国は正当な権利を持つ遼東半島を得ようとした、しかるに日本国は不当にも我が領土を占拠して立ち退きに応じない、よって実力を持って権利を得るものなり」
実質的な宣戦布告であった。
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イスラエル テルアビブ(旧ウラジオストク)
この地では日本から派遣された本郷中将がイギリスとイスラエルの情報機関の責任者たちと会合を開いていた。
「ルーズベルト大統領もかなり無茶な事をしているものだ、今の時点でソ連にレンドリースなどしては国民感情的に不味いのではないか?」
イギリス情報部の極東責任者が疑問を呈すると本郷がこれに答える。
「あくまでも満州国の側からの横流しという体面を取っているからな、問題になれば責任者を切り捨てて終わりにする気だ」
「ユダヤロビー経由で共和党に情報をリークさせますがそれでは大統領への責任追及は難しそうですな」
イスラエルの情報機関モサドの代表を務める人物は若干悔しそうな表情をしながら説明する。
「民主党にも今回の大統領の動きに疑問を唱える者も居るんだがなあ」
本郷も自分の機関を使って調べた事を披露する。
「ここまで無茶をするのはやはり2期目の選挙の為ですか?」
イギリスの責任者が尋ねるとモサドの代表が答える。
「間違いなくそうですな、大統領は前大統領と比べても経済政策で必ずしも成功を収めていません、大統領選では前政権時代のハルハ川の戦いがアメリカの敗戦であるというマイナスイメージから{強いアメリカ}をアピールしたルーズベルトが選挙で勝ったのです」
「それで満州国の開発や移民政策で景気を良くして点数を稼ぎたい、その為に邪魔な張学良らゲリラを指導する勢力を叩いたのですな」
イギリスの責任者は納得した。
「その後はイギリスと日本叩きですか、ドイツとソ連が動けば両国が支援の為に戦力を割かねばならないことを見越して動いているわけですな、ですがソ連に軍事物資を送ればどうなるかわからないのですかね? スターリンは欧州だけでなく極東も狙っているのですよ、ロシア共和国が攻められたら次は我が国です、そしてそこで野望が終わる訳がない!」
モサドの責任者は激しい口調で弾劾する、ユダヤロビーを通じてその危険性は訴えているのだが全く考慮しないので呆れていたのだ。
「そのことですが、大統領の側近にコミンテルンのスパイがいるのではないかということです」
「本当ですか! 本郷中将」
「大統領のブレーンの中にソ連とのパイプを持つものが動いたという情報があります、ハルハ川の戦いの後和平交渉でソ連は同盟国のモンゴルの為に動いただけでアメリカに敵対する意思は無いと盛んにアピールしていました、それが間違いないということをそのブレーンが大統領に進言したのです、勿論スターリンの意を受けてですがね。ルーズベルトはソ連と組むことで国際連盟に加盟せずに{栄光ある孤立}を維持し太平洋で覇権を握った偉大な大統領と呼ばれたい、ですが国連はそのアメリカの野望を阻止するためにハワイ併合問題を取り上げ満州国の正当性についても異議を唱えている、正直言って潰したくてしょうがないんですよ、ですから新たに国際機関を作るように動いています、そしてそれを立ち上げた時に鞍替えする仲間にソ連を取り込みたいのでしょう、そして中華民国にドイツです、欧州の戦争の状況次第ではさらに取り込めると算用しているようです」
「なるほど、流石は東機関ですな、我々も知りえない所まで届く手があるとは、うらやましい限りですな」
イギリスの責任者が心底うらやましそうにする。
「其処は国によって得手不得手がありますからな、そこは補い合っていかねば今後は厳しい局面が出てくるでしょうから」
「全くですな、それはそうと日本はこれからどうするお積りですか?」
モサドの代表が尋ねると本郷中将は迷いなく答えた。
「我々は当面は旅順の守りを固め侵攻を許しません、アメリカは国内の反対が強いうちは参戦はして来ないでしょう、日英同盟がある限り本土をカナダから侵攻される危険もありますからね、ただ欧州の戦いの推移次第ではわかりませんが」
その言葉に後の二人は沈黙した、欧州の戦いが不利になればイギリスは其処に注力せざるを得なくなりアメリカは本土の安全を確保される事となる、そしてその時が更なる戦いの始まりとなると悟らざるを得なかったのであった。
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