95話 再結成と建造
1939年 10月15日 日本 横須賀沖
この日出航した大規模護送船団ヒ11船団は兵員輸送艦、弾薬運搬船、タンカー、戦車や砲を積んだ揚陸艦など二十隻を直接護衛隊と護衛空母を擁する間接護衛隊計三十隻に護られて欧州へ出発した。
主に陸軍の将兵が運ばれており彼らは到着後すでに駐留していた欧州派遣軍と合流してかつて日露戦争と欧州大戦で勇名を馳せた第三軍を名乗る事になる、そしてその中の輸送艦に第三軍参謀長になる予定の永田鉄山少将が次第に遠くなっていく横須賀を眺めていた。
「暫し日本ともお別れか……ドイツとソ連が相手なら良き好敵手と言いたいが油断は出来んな、片や損害を恐れぬ人海戦術で来るソ連、再軍備から急速に強化されているドイツか……フィンランドやポーランドも軍の士気は高いというが、やはりイギリス・フランスが頑張らねば押し切られるかも知れんな、この船団が着くまで派遣軍が持ってくれれば良いが、いや彼らも選ばれし兵たちだ、押し負ける事はあるまい」
そう言って彼はかつて自分が指揮していた第三歩兵連隊の事を考えた、其処には彼が期待する人物が大隊長として指揮を執っていた。
「安藤がおれば歩三は大丈夫だ、待っていろよ助っ人を連れて行くからな」
その間にも横須賀の町並みは次第に小さくなりやがて水平線の下に消えていった。
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譲視点
同日 大分県 大神工廠
欧州での戦いが始まって陸軍の増援部隊も出発した、海軍の派遣主力艦隊は三日前に目の前の佐伯湾に集結していてすでに出航している。空軍は台湾から航続距離の長い機体がイギリス・フランス領を伝って空輸され、その他の機体は陸軍の輸送艦にばらして乗せている。
大神工廠もフル稼働で建造を行う事になる。すでに空いていた船渠には護衛空母{小田原級}の建造が決まりキールを据える準備をしている。
護衛空母 小田原級
基準排水量 11000トン
全長 166m
全幅 30m
機関 蒸気タービン4基2軸
出力 17000馬力
速力 19ノット
航続距離 8000カイリ 14ノット
飛行甲板 160メートル×30メートル
エレベーター2基
蒸気カタパルト2基
兵装 54口径12.7cm単装速射砲2基
戊式70口径40mm連装機関砲4基
武式12.7mm連装機関砲 10基
その他
搭載機 三三式艦上戦闘機 15機
三十四式艦上爆撃機15機
(以上常用組み立て前補用機10機)
船体はタンカーの設計を流用してブロック工法と溶接を多用して建造期間を短縮している。
西島中佐の工程表の通りにいけば起工から進水まで半年も掛からないはずだ、日本向けだけでなくイギリスにも回す事になるだろう、そういう話が来ていると本郷中将が言っていた。
そして俺はこの工廠で一番大きな船渠に向かう、ここではすでに起工された艦が作られつつあった。
「牧野君{A140F5改}はどうだい?」
「あ、所長……A140なんて呼ばないで{武蔵}と呼んであげましょうよ」
「まあ、進水がまだだけど決まったも同然だからな」
因みに前世の時と違って建造する事については秘匿はされていない、条約が切れるときに合わせて竣工するしね、F5改なのは牧野君たちが藤本少将の基本案を兵器の進歩に合わせて改良したからだ。
すでに次期主力戦艦として要目はぼかしてはあるが新聞などでも取り上げられており{次世代の海の護り}として国民の期待を集めている、一号艦{大和}は呉の船渠を拡大して建造を開始しており、二号艦{武蔵}がここ大神で建造中である。今の所三号以降は作る予定は無い、長崎も横須賀も現在は別の艦が建造中でその後は護衛空母や他の艦種を作る予定で埋まっている、民間の造船所も大きい所から小さい所まですでに完全に予定で埋まっている状態だ。
工廠の秘匿区域にある総研の所長室に戻って欧州の戦況速報を見る。ソ連はフィンランドとポーランドに同時侵攻しているな、フィンランドは直に落としてポーランドに注力するようだ、その後にオーストリアに進む積りだな。
ドイツの方は西に戦力を向けている、どうやらポーランドは後回しにしてフランスなどを先に叩くようだ。この辺は前世とは違うな、恐らくはヒトラーがいないために軍部の意見が大きくなっているようだ、となると逆に厄介だな、ヒトラーの個人的嗜好で贔屓されたり不遇になった連中が正当な評価を受けたら面倒な事になるかもしれない、気を付けさせよう。
そうなってくると次の手を打っていかないとな、次期主力航空機に使われる発動機のコンペが明後日あるから又上京しなければならん、まあ新幹線があるので問題は無い、九州新幹線の大分線(前世で久大本線が引かれる予定のルート)も大分まで開通したし大神に車両基地を作ったので海軍関係者は工廠から乗ることができるのだ、やっと快適な旅が出来るというものだ。
俺は身の回りの物を片付けて準備をするのであった。明日には家族にも会えるしね。
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第三者視点
イギリス
ドイツの宣戦布告に伴いイギリスも戦時体制に入ることとなり、宥和政策を唱えドイツと外交交渉をしていたチェンバレン首相は退陣して後を主戦派のウインストン・チャーチル卿が就任する事となった。
「ジェイムズ君、ダンケルクに上陸するのは悪手と思うかね?」
「さて、私は戦略のプロではないので何とも言いかねますね、ただドイツの攻勢は間違いなく西方面、フランスに向かっております、何らかの援護は必要ですな」
そう言われた次期首相は火の付いていない葉巻を加えて顔を顰める。
「全く、フランスももう少し危機感を持ってくれれば良いのだがな」
先だって彼がフランスの首脳と話した時向こうにこう言われたのであった。
「我が方には難攻不落のマジノ線があるのですぞ、それに再軍備したばかりのリハビリ中のドイツ軍に我がフランスが負ける訳がありませんな」
「だがマジノ線が堅固な防衛線であることは事実だからな」
「閣下、その事ですが我が国の欧州派遣軍の見解ですが見ていただけますか?」
ジェイムズ卿こと本郷の手渡した資料をみたチャーチルは咥えていた葉巻を落とすという無作法を見せてしまった、火がついていなかったのがせめてものことではあったが。
「な、なんてことだ……これは至急見直しが必要になって来るぞ! こうしてはおれん、直ちに軍司令部に向かうぞ!」
慌てて出かける支度を始めるチャーチルを見ながら一緒に行くために立ち上がった本郷は内心でこうつぶやいていた。
(やはり譲の言った通り大変な戦いになるようだな、このまま行けば我が国も大分苦労しそうだな)
彼の想像通り、いやこの時別の場所であったある事がきっかけでさらに想像の斜め上に進むのは彼と彼を使っている転生者を驚かせることになるのであった。
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