春の風
狭い一室で目を閉じた
部屋に一つしかない窓から大きく風が舞い込む
窓は一つ
一つしかない部屋の扉は閉められている
部屋の床に寝転がった俺のまわりを風は駆け抜ける
一つしかない机の上の紙の束が風で舞う
一つしかない文庫本の頁が勝手に捲られる
居場所がないと俺に伝えるように風が前髪を揺らす
シャツの裾から空気が入る
膨らんだシャツの白さを想像して
風が耳元で鳴るのを聴いた
やがて窓から新しい風が舞い込む
その風も俺の部屋の中を彷徨う
閉じていた瞼を持ち上げた
最初にやってきた一つの風は
俺には見えなかった
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