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THE WORLD CHANGE  作者: OGRE
13/13

SPREAD13 TWO WAY GIRL

 初めまして、風祭の一番下で万理(マリ)です。

 三つ子であるから上下の区別は特になく私たちは育ち、教育も放任というか…芳香も駆も親の言うことよりも優秀だから何も言われずに育った。私自身も特にそのような兄弟の中で劣るとかはなく、勉学も運動能力に関しても均一に成長している。それでも三人がいつまでも同じはずはない。

 態度から解っていたが芳香は艶染の事を好いていたようだし、駆はその妹の紫神にベタ惚れ……。劔刃の兄妹との付き合いも濃いから、彼女らが各々に好く理由も簡単に想像がついた。恋愛とかそういう路線でも彼女らはアクティブで私とは違うとは思うのだけどね。私はどうにもそういうものに興味が持てず、いろいろな事に意欲的に動く二人に置いて行かれているのでは? と最近になりよく感じる。だからと言ってそれの穴が露見しているようでもないから、私もそこに関しては動いていない。


「こんな天気のいい日まで銃の手入れですか? よほどお気に入りなんですね」

「? いつも使う道具を丁寧に使うのは当たり前でしょう? それより大丈夫なの? 体はさ」

「えぇ、もう横になるのはうんざりなんです。それに……実家を襲った奴らに早く思い知らせなければ……」

「ふ~ん。いいけど、艶染が許してくれないだろうし…みんなそれを望まないと思うよ? 私はあなたじゃないから憎しみもよくわからないけどね」


 この子は鎧坂(ヨロイザカ) (シロカネ)という男の子で私や同年の人からすれば一つ下の男の子だ。艶染のお父さんで仁染さんと彼のお父さんが親友だったらしいのだ。そう考えると仁染さんの怒りも尋常ではなかったと思う。けれど、彼はその怒りを暴発させてはいない。今は……それだけデリケートな時期なのだということだろう。以前から艶染のいうような事が起きているならばもう危ない。この区域だっていつどうなるか解らないということなのだ。

 ……今回の事で私の家族も呼ばれたが父と母は断った。風祭は現代社会の流れについて理解していない。こんな世の中だから物流は確かに重要なファクターだけど……。魔法が実用化されたらどうなるかわからない。機材や車両よりも人の育成が最優先の時期に事業だけを拡大している会社なんて……うまくいく訳がないと私も思う。兄の位置になる駆から私は勿論のこと姉の芳香ももう伝えられている。駆は劔刃の一族に名を連ね、紫神の婿として家を出る。その時に私たちも養っていけるようにしたいということらしい。


「そうでしたか、駆さんは劔刃に入るんですね」

「その言い方だとあなたにもその誘いはあったんだね」

「……なぜ、解るんですか?」

「私はね、流れを見れるの」

「流れ?」

「うん。みんなは“風”だけだと思ってるみたいだけど。違うんだ。戦局、気持ち、音楽……その場の空気に波として流れるものを知覚できる。どんな物でもね、私に対して害を出すであろうそれを無効化するのが私の本当の能力。私には誰も影響できない」

「……それなら。僕の話を聞いてもらえませんか? 客観視してくれる貴女なら僕をしっかりとらえてくれそうですから」

「うん、相談?」

「そうですね。僕は…このまま劔刃に加わるべきなのでしょうか」


 彼の口からは劔刃の一族の生まれについてとそれにかかわる自分の一族の生まれに関することからスタートした。それが必要なことらしい。

 ……本当に壮大だ。そんな能力に関わる研究まですでに終わっていたのか……。ロストテクノロジーというやつですね。簡単ではないのだろうけどそうして見つけられ、生まれた技術を人間は利用してきた。私もそれを今使うこととなる。

 彼の話が一区切りした辺りで私の目の前には……関係上で姉となる紫神がいた。私が呼び出されていたのだ。私と銀が一緒にいることが都合がいいとそのまま話し出す。凄まじい魔力の人だ。この人のお母様の力と比べてもほぼ同系統で似通った力。でも、お母様とは違い不安定さがこの少女には見受けられない。この子からは氷から冷気が漏れるように魔力と感情の波、さらには強烈な邪気と覇気が滲んでいるのだ。体に……需要しきれないと物語っているかのように。

 私に手渡されたのはこの人が製造した機材だ。先日襲撃してきた軍隊と思しき武装集団も所持していた。この次代の魔法工学にもある現代科学の結晶……『魔道空挺』などのような物だ。けれど、ここにある物は…スペックからしてその数世代先を行っている。動力炉の位置にある魔力の充填機の性能が全く違うのだ。本来は人間が力を加えねば魔力を吸引しないはずの充填機構に、今も微量の吸引が確認されている。この女の子の力が急に恐ろしく感じられてきた。寒気が強い。


「これは? ライフル?」

「はい、母に風祭のお三方のバックアップをするように伝えられ…これから皆さんを全力で機材面と作戦指揮からバックアップいたします」

「今日は私だけ?」

「えぇ、お二人用の機材はもう少し課題があったのですが、万里さんのライフルは元々から軍事ベースに乗りやすい物品でしたので優先的に組み上げました」

「でも、私には魔法活性がない……」

「そこはご心配なく。試射をしましょうか」


 彼女はいきなり何かの結晶のような輝石を砕いた。

 そして、彼女の部屋の中に異質な空間が広がる。これは…以前に艶染が使い彼の五割以下の実力で彼以外の全員が伸された空間に似ているのだ。私は魔法の活性が悪いし、劔刃の秘術にしても神通力の外部への浸透性は低い。それを周囲の皆と比べられると正直手痛いのだ。

 それは…展開に時間のかかる私の体質に起因する。駆はそもそも風よりもその素体となる空気の物理干渉が得意だし、芳香はその科学的組成の変化に特異性があるらしい。けど、私にはそれがあまり強くない。短時間ではこの力は上手く作用できないのだ。だけど……時間さえかけることを許されるならば。私だって……。


「ここならば自由に射撃してもらって構いません。注意事項と言うならば…貴女のお力はとても強力でご兄弟の中で一番の汎用性を持ちます。ですから、威力でご自身のお体にお怪我をなさらないようにご注意ください。貴女だけにはリミッターがありませんので」


 いくつかの魔法機構にはその機能の中心となる強力なエネルギーを集積するリアクターが必要となる。簡単に言えばエンジンとその燃料を吸着しやすい、もしくは自動で吸着する媒体が必要になるのだ。

 それに加えて彼女は私にいくつものパーツを渡してきた。これはサイレンサーだったり、機関銃への換装パーツだったり様々である。要は機材で汎用性を持たせるつもりらしい。私はもともと艶染のチームでもスナイパーを務めている。動かないから見つからないことに長けているし、私には空間の流れを読むことのできる神眼を持ち合わせていたから緊急時には直ぐに行動できた。だが…それは状況を読めるだけで攻撃に利用を行える能力としては虚弱なものだ。

 そして、スナイパーとしての慣習からまずはそれを試したかった。拡張パーツの中に射出時の消音と威力の向上を行えるパーツを見つけ、それを取り付ける。

 私が使うライフルはオリジナルの物だ。それに詳しい駆と荒神さんに作成してもらった。それを私は使う。法からは逸脱しない規格となっているから使える。ボルトアクション式のエアガン……それにチューンされたように作られ、少し規格よりも大きいからさらに動き憎くなってしまう。


「機動力の観点で前回の戦闘でも問題となりました。なので…今回は彼に協力を仰ぐこととしました」

「……ご、ゴーレム」

「僕の一族は鉱石と機構への干渉力を持ちます。大味になりがちですが防御、攻撃における範囲性と拠点死守において力を発揮したいです」

「私の移動だけにこの力を使うのはもったいないのでは?」


 巨大な機構に身を包んだ銀は首を振る。同時にゴーレムの首も動いた。これはなかなかな武器だ。マウント級の外装の能力か。そうなると彼の能力と彼の悩みに合点が行く。大味ではないのだ。彼はその大きさと攻撃性で仲間を傷つけるのが怖いのだろう。それならこれを使って見せるしかないね。私の本当に眠っている部分を……。強力すぎる故に封印してきた私の本性をね。


「いいえ、貴女の身を案じる措置です。紫神さんに教えられているだけではないですが……。僕と貴女は近い。貴女は僕と同じように体が神格化している。そんな人に無理はさせられない」

「……気づかれていたんだ」

「はぁ……。駆さんのお体からそう理解しておりましたけども。もう少し遅れていたら大変なことになっていましたよ? 私もその口なのでよくわかりますがお三方は皆さん組成が異なる。それこそ三つ子であって三つ子でないように見えましたし」


 その視線は恐ろしいと……私は比喩する。私は獲物にされ…この少女はまるで大蛇だ。大蛇に睨まれた蛙のように私は一瞬身構えていた。

 人を嘲笑するように話しかける彼女だが…その実話し方は裏の裏を探り当てるように緻密性の高い内容だ。私でなければ解らないだろうけど……。この子の知識は人間の域を遥かに凌駕し、その視線は私の内側をさらけ出させる。これほど恐ろしい人物はかつてないと私は思っている。

 その人が私の兄と縁を結ぶとなれば、兄の嫁であるから私は妹となる。

 そして、艶染は義理の兄となるのだ。……イオーサさんに頼んで使用人になれる方法でも聞いておこうかな? 

 こんな事を考えていると紫神は少し私を遠くに見るように一瞬だけ睨んだ。何故かは解る。彼女は過去が過去だけに人間を簡単に信じないだけではなく中を見られることを極端に嫌う。ま、その逆の駆にはメロメロみたいだし。こういう女の子もいるのか…という見解だけどね。


「では、訓練も兼ねてですが銀さんの外装の上からの高密度魔力充填射撃を行いましょう。反動がとても大きいので銀さんは予想よりも過分の準備をお願いします」

「了解しました」

「では、万里さん。お願いします」


 見た目はボルトアクション式のライフルだけど…これはあくまで充填のキャパシティを管理するリミッターの部分らしい。私の許容量を超えるとこの部分が跳ね上がり、魔力は霧散して消えるという。

 空気中からの吸入でなければ私は魔力を放出できない。巨大な内在魔力を保持していてもだ。私は風の神との親和性が強すぎたために溶け込むように神格化が進んだ。今では人間である部分は紫神と同レベルと言っても過言でないレベルで人間から遠ざかってしまった。風神は日本の神の中でも不明瞭だ。有名どころの雷神と対になるけれどそれほど有名な名前がある訳でもない。それが私にも流れ込んだ。


「わかった。補填量は最初から最大で行くよ?」

「こちらは反動に耐えるだけですから問題ありません。お願いします」

「うん。わかった」


 ……なんでだろう。体の中の魔力が疼く。いつもならばそんなことはない。けれど、このライフルを握った瞬間に私は何かを感じた。

 紫神が関わっているということなら遺物の力を利用していることになる。私の本当の力を彼女は知っているようだ。私も知らない本当の私を彼女は目覚めさせようとしているのかもしれない。人間だけではなくいろいろなものに多面性があり、私にだってそれは言えることだ。この空間は何で出来ていて何が元なのか解らない。でも、空間中の内在魔力が極端に低いからこれでは100%の充填もできないだろう。

 それを補うための技工でも私の中を開くのはあまりにも危ない。風祭だって風だけとは限らない。確かに風に関係する力を発現する率が高いらしいけれど……。よく考えてみようか。駆は物理的な空間干渉、芳香は科学的な物質干渉だ。私には……流動を可視化し、あらゆる物事の動きを司る。全員が風だけではないのだ。特に私には…本当の意味で風は関係しないのかもしれない。


「劔刃流…(シン)射弩(シャド)型……(カナエ)


 防衛に向かない私の力。しかし、ここに集められた者の全てに大いなる昔に栄えた大和の血が流れ、力がある。それならば私も駆も芳香もそれを持ち合わせている。その上で空間を把握し、射撃を得意としている私には…能力の拡張は危険だ。仲間を巻き込みかねない。それならば都合のいいように情勢を捻じ曲げてしまえばいい。範囲射撃や弾道にいる味方に当たらないようにしてしまえばいいのだ。

 三人とも同じなんてありえない。私がそういった理由はこれだ。これが…本当ならわがままで手の付けられない程の暴れ馬だった私の力だ。拾い上げてくれた姉と兄に迷惑をかけないように私は親から隠れるようにしていた非行から足を洗った。それと同時に友人もたくさんできた。嬉しくて…嫌われたくなくて。どうしても、心地いい物から離れたくなくて……。

 そんな思いをぶつけることで私の枷は取れるはずだ。自らの心を停止させることで過激な方向へ進まないようにした。それが原因で私はいろいろな他の物まで止めていたのだ。感情を見せる術だとか、本当に伝えなくてはいけない気持ちの取捨選択だとか……。


「うっ……。確かにこれは……この銀の外装ですら腐食する内在魔力」

「……本当の彼女の力を私も見たいのですけどね。私と同じような匂いがしたんです。駆さんが何故私を怖がらないかが疑問で調べつくしたんですよ。この方が…理由だったんですね」

「ン…うぅ。はっ!! ちょっ!!」

「どうしたんですか?」

「あ、いや……恥ずかしかっただけだから気にしないで」


 何が起きたのかというと。自分の耐久値のギリギリでの魔力吸着と充填などのプロセスに神通力を使いすぎて、失神してしまったのだ。それを紫神ではなく銀の膝枕で寝させられていたから驚いた。実家に居た時もほとんど準和服の生活だったらしくそういう服装だ。艶染のように細いくせに隆起するほど鍛えこんではいないようだけど……。それでも筋肉質だ。

 私が起きだして来たのに気付いたらしい紫神が私の顔を覗き込んでくる。

 彼女はここに集まるメンバーがどんな力を持つか大方解っており、チームを分けることで育成を促進させる狙いがあるらしい。彼女のお母様もそれには同意し、初期は状況の流れを見ていたが今ではこの戦力で何とかするしかない状況となっているらしいし。だから、無理をしない段階でだけど…私たちも本当の力を使い戦わねばならないのだ。


「……」

「本当のお姿をぶつけられるお方を見つけるのが良いかもしれませんね」

「どういうこと?」

「私は身をもって経験した出来事ですが…神通力を持つ者は心が命です。力を圧し込める事で貴女は心が不安定となっていた。……それが、命に関わってしまう前に私と駆さんのようになれる方が万里さんにも必要かと」

「力の制御に必要なんだ。パートナーが」

「簡単に言えばそうですね。ですが、簡単には見つかりません。気長に行きましょう」


 その時の紫神の視線が私には本当に作為的でいやらしく感じられた。明らかに私ではなく銀に向けて視線を向けていたのだ。それは私とこの男の子をくっつけたいという意志の現れらしい。そうだね。よくよく考えたらここのカップル率は異常だ。今のところの組み合わせだって考えたら艶染と紫杏さんを筆頭に駆とあの人もそう。それに…そう言えば芳香もあの定食屋さんのアルバイトの男の子にそういう視線を飛ばしていた。正確にはカップルではないのにこうもそういう色めきが強いと私もあてられてしまう。

 別に彼のことを気に入らないとかそういうことではないけれど私が今どうしたらいいか解らない。それもある。結局、まだまだ私の力不足という事も関連して訓練を兼ねた初使用はここでお開きとなった。これが仮想空間でなかったら私の体がどうなっていたかわからない。


「紫神さんから聞いていましたが相当神格化が進んでいるようですね」

「隠しているつもりもないから言うけど。私は……いいや、俺は本当の自分を晒す事で周囲の友人達に嫌われるのが怖かったんだ」

「……。そうですか。僕は8人兄弟の末っ子でいつも兄達の背を見ていました。高圧的だった兄達から身を守るために作られたのがこの鎧なんです。僕達は真逆なんですね」


 自分の見解が外れた事には驚かなかった。

 彼なら、彼ならば押し込んできた自分の姿を見てくれると信じる事ができたからだ。……。いいや、俺は怖かった。でも、ズルをして心の波を読んでから言葉を選んだんだ。それは当たり前か。銀は『俺』と一人称を変えた事には特段驚きもしない。それよりも……俺自身が驚いていた。こんなガサツな本性をさらけ出している女を口説こうなんて奴が居るとは思わなかったからだ。

 その後、多分赤面している俺は照れ隠しを兼ねて1度実家が管理している倉庫に向かった。そこには最近はメンテナンス以外に触ることすらしなくなってしまった俺の相棒がある。駆は機械の組み立てや物理関連の知識や危険物の取り扱いに詳しい。そのために俺は無免許で大型のバイクを持っていた。風になるのは楽しい。気持ちがいいから病みつきになっていた。けれど、これは周囲からの理解は受けられない。だから、俺は封印した。


「万里さんのバイクなんですか?」

「あぁ、少し前までは乗ってたんだが……。気持ちを押し込めるごとに熱は冷めて乗らなくなっちまったんだ。だが、俺の相棒だ」

「そうですか……。真心解開……汝、主に魂を解き放て……」


 魔術や秘術は恐るべき物だ。実感は自分の実体験から得られる。感嘆の声が漏れた。素直に驚いたのだ。俺のバイクが喋り出したからだった。ずっと乗らなかったのに……。ヤベッ、涙、出てきた。

 ただし、残念だったのは銀が俺にはハンドルを取らせなかったことである。残念と言うこと以上に俺が後ろなんて言うのはかなり恥ずかしい。

 紫杏のようにスタイルは良くないし、イオーサのようにそれに合わせた物腰を取ることもできない。こんな不器用な女なのに……ガサツだし、可愛げないし……。他の子みたいに上手く立ち回れないのだ。少し走ってたどり着いたのは劔刃の敷地の外だ。廃墟……と、そう言えなくもない壊れた屋敷だった。


「ここからなら僕の実家跡が見えますね。貴方に背負わせる気はありませんので話だけどうか聞いてください」

「あ、あぁ……そりゃ構わねぇけど」

「僕達、鎧坂の一族は聖剣士…またの名を人柱(ひとばしら)と呼ばれ、遺物を管理する組織を構成する組織の一翼でした」

「……」

「夜間の急襲に僕達は苦戦しながらも果敢に立ち向かい、一時は退けました。しかし、僕は見たんです。あんなに強固で強い力を持っていた父や兄達が…一閃で凪払われ死にました。僕は一命を取り留められるだけの傷で済みましたが……僕の憎しみは僕自身の神格化を早め、今に至ります。貴女も早まればこうなりかねない。紫神さんの思惑は手に取るように解りました。貴女を自覚させたいのでしょうね」


 凄いやつだな。自分の心配しなくちゃならない段階で他人を気に出来るのか。お人好しだな。でも、銀。お前には憎しみは残ってないじゃねぇか。確かにそれはお前さんを神格化させた。だが、お前がそうやって消化できたならいいんじゃないか?

 柄にもなく銀の背中に手を突いて話し出している自分が面白かった。波長を自在に操ってしまう俺の力は強力で仲間を巻き込みやすい。でも、仲間にも使うことが出来る。悲しげな背中に俺は何ができるか……。こういう時に気の利いたセリフが言えたら俺もぶっきらぼうな姉よりは割といい女なのかもな。


「なあ、銀」

「はい?」

「お前の兄貴達はお前が生きててくれるからまだお前の中に息吹を残してる。劔刃の力は心だったよな? お前が思い続ける限り皆、お前を助けてくれるよ」

「はは、有難うございます。皆さんが恋仲になるのはこの様なことが関係しているからなんでしょうね」

「……銀は先約があるのか?」

「はは、万事において完璧や確実という物はありませんよ。僕はここに来ることになるまではあまり友人らしい友人もいませんでした。今なら…ここで変れるかもしれませんね」


 こういうのも悪くないかもしれないな。銀は人の痛みのよくわかる優しい男だと。

 それにこうなることを見越していたのか少しは不安要素を隠していたのか……紫神が駆の背中にしがみつく様な形で腕を回し、バイクに乗せられて現れた。俺とは趣向が違いスマートな形を好む駆はスポーツタイプのバイクに跨っている。ようはレーサーみたいなバイクだな。

 どのように手入れしているのか知らないけれどもヘルメットに収まりきらない長い髪の毛は危ないので編み込んでできるだけ短くしたようだが……長い。そんな紫神は俺の目の前にまっすぐに歩いて来た。小柄だが美しい少女……。もう人とは異なる少女……。


「人は……必ず誰かと繋がらねば生きていけない……。お解りだとは思いますがね」

「そうだな」

「フフッ……ご自身を取り戻されたんですね? そのお心を忘れずに……私のように壊れてしまう前に」

「……大丈夫だよ」


 細い体に不釣り合いな巨乳はお母さんにそっくり……いや、魂以外はほとんど寸分の狂いも無くコピーである二人。波長を読める俺には解る。心は読めなくともこの人はとても凄惨な過去を持ち、歪んでしまったのが見えてしまった。俺は……近い将来に兄嫁となるこの人のために……。

 とっさに抱きしめてしまい、紫神からも小さな動揺が流れ出た。でも、さすがはあの艶染を兄に持つ女傑だ。俺の目を見て話してくる。

 心配そうな銀と駆だが、心配はいらない。

 この人は……。俺と同じだ。黒いライダースーツの彼女……魔術で作ったんだろうなぁ。その彼女に跪く。可愛らしいと美しいの中間だ。まだ、お母さんのような妖美さはない。この人は俺の先を見てくれた兄姉達と同列の存在。俺を不良品と見なかった珍しい人、俺はこの人のように生きないとな。


「俺はアンタに仕えるよ」

「?」

「すぐに十八代目(おかあ)様とジオニオーサさんのような関係にはなれないと思う。でも、俺も新劔刃流に名を連ねることになる。アンタを影から支えるような使い手になるさ」


 紫神はすぐに笑いだした。

 嘲笑するような軽い口調の笑い方ではない。耳が痛いレベルでの声量とかなり高い音域の……高笑いだ。そして、紫神の両の目と……第三の目、更に彼女固有の能力であろう『第四の目』が開かれた。


「フフ……。今日は銀さんと万里さんをカップリングするだけのつもりだったのに……貴女も染め征く一族に名を連ね、私に仕えると? 天晴れの心境ですね。いいでしょう。銀さん? 貴方にも相応の覚悟をお願いしますよ?」

「……劔刃流か。解りました。これも何かの縁でしょう」


 俺には二つの顔がある。曲げてはならない二つの道を守るために。冷徹に的を射る澄み渡り、透過仕切った心と情熱を燃やし、熱く燃え上がる心……。有耶無耶にしてしまい濁った俺の心をかなり強引に解きほぐし、自らの……、いいや……劔刃の立場を確立させる一手を投じた目前の少女。

 高位の悪魔を苦もなく食らうこの少女は……可愛らしい。駆に抱かれて寝てるし。

 有耶無耶にと言うならば銀と俺の事もかなり不明瞭だ。ま、この先もある。ゆっくりやって行けばいいかな? それにしてもよく寝るよ。この子。


「万里が二人に対して思い入れをもつのは何も言わないけどさ。蚊帳の外は寂しいかな?」

「ふふ、申し訳ありません。でも、不思議な話ですね。私の姉が仕え奉仕するメイドで同性では最大の理解者。貴女が私と共に……いえ、貴女の伴侶と共に私達と臨場する日が見えるようですね」

「こらこら、闘わなくてすむならそれが一番だよ? あと、万里は言葉遣い直しなさい」


 ……。

 口煩い兄貴を持つと大変だよ。全く……。だが、紫神は嬉しそうだな。あと、銀よぉ。流石にまだ、手を繋ぐのは早いぜ? はは、だけど楽しいな。


「それじゃ、みんなでツーリングと行きましょうか」

「ナイスアイディアだね。銀君。じゃぁ、皆で走ろうか」


 このバイク、俺のなんだけど……。

 これからもこの波長で守るために俺は…強くなる。絶対に負けない。俺なりのやり方がある。俺の主となり八岐の力を受け継ぐ人と……。俺が初めて…信頼する、コイツのために……な。

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