「PROBATIONER」
今回は、バトルシーンがほとんどです!
楽しんでいただけるのではと思います。
それでは、第四話をお楽しみください!!!!
1
「へぇ。あんたが新人さんかい?」
俺は、目の前にいる若い女性騎士に軽く会釈する。年は俺より2歳か3歳上と言った感じだ。
「どうも」
俺も相手が王でないだけに口調が砕ける。
すると、女性騎士は言った。
「挨拶の声に覇気がないな?やり直すか?こんなのでは実力など見るまでもないか?」
そう言って、女性騎士は木の剣を手に取る。
今日は、軍人見習い初日。俺は、エレナの見守る中で演習戦闘を行うことになった。なんでも騎士団長直々に手合わせしてもらえるとかなんとか。でも、目の前にいるのはこの女性騎士のみ。まさか、コイツが騎士団長か?
「いんや。必要ないすよ。戦場でいるのは声より力だ。それよりさっさとはじめましょうよ」
そう言って俺は、装備をすべて籠の中に入れて、木のダガーを二本手に取る。
女性騎士は、少し驚いた顔になるが微かに笑う。
「それもそうだな。でも、それは力のある者の言う言葉だぞ?」
そして、俺と女性騎士は広場の中心に互いに距離を置いた状態でそれぞれ武器を構えた。
女性騎士は、木の剣一本。俺は腰にさしたものと手にある木のダガー二本だ。
女性騎士は、良く通る声で言った。
「私は、アパルエナ軍総騎士団長フィエラだ。アスマ見習い兵よ!これより演習戦闘を行う!遠慮はいらん!全力で来い!」
そう言った途端にフィエラは、飛びした。
戦闘開始のようだ。
俺も前に飛び出した。
フィエラの木剣が真っ直ぐ伸びてくる。迷いがなくキレのある突きだ。
だが、さして問題ない。この程度なら何度も見たことがある。
俺は、左右に微かブレるようなステップを踏み、ギリギリに引き寄せた切っ先を顔すれすれで交わして、ロールする。そしてロールモーション終了際に回転の勢いを使ってすれ違うフィエラの背に一本入れる。
フィエラは突き飛ばされこけるが、すぐに立ち上がった。
「ほぅ」
フィエラは、さして調子を乱す風でもなく、落ち着いた様子で次の隙を狙っている。
これは、割に場数を踏んだ上級者を意味する。模擬戦とはいえ格下と予想していた相手から先制を取られるとだいたいの人間は、調子が狂う。しかし、それでも落ち着ける余裕と迷いない剣を持ち合わせるこの女は、軍総騎士団長に相応しいと思う。
実際にこの世界がどういう戦争をするのかは不明だが、この戦い方は正に騎士のもの。集団戦向けの剣技だ。
個人向けの対人戦闘に特化した俺の戦い方とは違う。俺は自分対複数で戦えるが、この女の場合集団で敵を叩くにしたら素早さ重み共に最強の剣技だが、個人とのサシの対決では大した力はない。
スポーツでも良くある。集団スポーツで、試合中は最強のプレーヤーだが、練習で1対1をすれば勝てなくも無い奴。この女はそういう型だ。
しかし、そこで俺はある疑問を持った。
にしても、こいつには違和感があると。
けして、剣で現せない何かを隠しているように思えて仕方ない。これは少年兵の感だ。
まぁ。気にしたところで何か変わるわけではない。
戦いに集中しよう。
相変わらずフィエラは、こちらの様子をうかがっている。
なら、今度はこっちから仕掛けよう。
俺は、さっきよりも強く地を蹴った。
弾丸の如くして、飛び出した俺にフィエラが一瞬後退する。
俺は、素早くダガーを逆手に握ってフィエラの剣に打ち付けて押さえる。そのまま反対の手で腰のもう一本のダガーを抜き一閃。
しかし、フィエラはそれを飛び退く事で避けた。
でも、俺は引かない。
そのまま宙返りして、着地と同時にフィエラにスライディングする。フィエラが飛び上がる。
もらった!
俺は二本のダガーを地に突き立てて、スライディングを中止する。そこからノーモーションで飛び出して、フィエラの着地点に向かう。フィエラは目をむいた。驚愕している。
だが、俺はためらいなく着地しようとするフィエラにダガーを振った。
二本分の攻撃を受けて、フィエラが地を転がる。
フィエラが呟いた。
「これは、驚いたな」
そして、呼吸を整える。
俺は、ついでだと思って聞いてみる。
「騎士団長。あんたまだ秘密兵器かくしてんじゃねぇの?それとも俺の勘違いか?」
すると、フィエラは驚いた顔になる。
「驚いた。そこまで見抜いてたのか。・・・・よし!なら特別に見せてやるとしよう!」
刹那
フィエラの体が青白く発行する。風が巻き起こり、手元に光が集まり出す。
フィエラは、木剣を捨て光を握った。
すると、光は弓の形へと変化した。
魔法か?
俺が身構えると、フィエラは弓を引いて光の矢を放ってきた。
俺は、放つ瞬間に横に飛びそれを回避した。
が、
次の瞬間。
避けたはずの矢が戻ってきて俺に直撃する。
「うおあっ!!!」
思わず声が漏れる。
着矢したところをさするが、傷はない。
すると、フィエラは言った。
「心配ない。威力は控えてある」
それを聞いて俺は、立ちあがる。
「なんだよこれ?魔法か?」
その言葉にフィエラは首を振る。
「その様子だと、そちらの世界にはこの力はないのだな?・・・・この力は「極」と言って己の心を極めることで成せる異能力だ。魔法に似ているが少し違う。ちなみに私の極は、光の矢を自在に操る力だ」
「なるほどね。・・・・異能力か。そんな魔法チックなもんじゃないが、こっちにも秘密兵器あるぜ?」
言うなり俺は、深く息を吐いて目を閉じた。
よし。
俺は目を開ける。その目は、先ほどと違って微かに瞳が赤みを帯びている。
フィエラは何かを感じ取り、再び光の弓を引いた。
俺は飛び出した。
先ほどより全然体が軽いし、速い。
フィエラが矢を放った。
その矢が俺には止まって見える。
俺は、矢を空中で破壊して一瞬にしてフィエラの懐に入った。
「え?」
一瞬の出来事にフィエラが戸惑い、少女じみた声を漏らす。
俺はそのままフィエラを押し倒して、首にダガーを当てた。
「俺の勝ちだ」
数分後。
「アスマ。今のはいったい?」
フィエラの言葉に俺は、装備を装備し直しながら答えた。
「あれは、フローって言ってな。人間の内にある潜在能力の一つだ。他にもゾーンとかいう呼び名があるけど、要は極限の集中状態だ。フロー状態に覚醒することでいつもよりも機動性や反応速度、思考が劇的に上昇するんだ。普通は、自分の意志で使えるようになるには訓練が必要らしいが、俺はある時から突然できるようになったんだ」
それを聞いてフィエラは、考えるような仕草をする。
「極限の集中状態か・・・・」
「まっ。でもその代わり使用後の消耗が激しい」
俺は、考えるフィエラをよそにそう言って、その場に四肢を投げ出して寝転がった。
フィエラは、それを見て俺の横に腰を下ろした。
「フローか・・・・。まだまだ知らないことがあるものだな」
フィエラのそんな言葉に俺も一言添える。
「俺もだよ。昨日まで魔法とか異能力なんてないもんだと思ってたからな」
そして、暫しの沈黙。
数分後。ようやくフィエラは立ちあがり、俺に言った。
「よし。次いくぞ」
俺は立ちあがり、先にいく騎士団長の背を眺めた。
その背は、どこと無しか嬉しそうに見える。
俺は呟く。
「未知を知って歓喜する。ってか?」
そして、俺はフッと微笑を浮かべその後に続いた。