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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
4/13

第4話 はいっ!今日はデートなんですっ

日曜日、朝食をとりながらリビングでくつろぐ桐谷さんと僕。

ちなみに今日の朝食はハムエッグにトースト、レタスとトマトの簡単なサラダとグレープフルーツ。

日曜の朝にはぴったりだ。

向かいに座る桐谷さんはシーザードレッシングをサラダにかけすぎたようで、泣きそうになっている。

何をやっているんだか…。


「ほら、ちょっと寄越してください」


僕は桐谷さんのサラダを受け取ると、器に溜まったドレッシングを自分のサラダに移した。

桐谷さんは少し恥ずかしそうに器を受け取ると、サラダを口に運んで満足そうに微笑んでいる。


「今日は図書館に行こうと思ってますが、どうしますか?桐谷さんも一緒に行きますか?」


僕がそう言うと、桐谷さんは咀嚼しながらコクコクと頷く。…そんなに頬張るから喋れないんですよ。


「じゃあ食事が終わったら行きましょうか」

「んん…」


何だか詰まりそうな声で返事をする桐谷さん。

喋れないのならそんなに無理して返事しなくても良いのに…。


朝食を終えた僕達は図書館に向かう為、駅へと向かった。

近所にも保育園の隣に併設された図書館があるのだが、あまり大きな図書館ではないので、僕が普段から良く利用していて、二駅ほど先にある市立図書館に向かうことにした。



向かう途中の電車の中、僕はふと気になったことを桐谷さんに訊いてみる。


「そういえば桐谷さんの家はどの辺なんですか?」

「ん?涼風緑ヶ丘だよ」


涼風緑ヶ丘といえば僕の住む紫陽花公園前に比べてかなり大きな都市だ。

ここからはかなり離れていて、電車でも一時間以上はかかる。

そんな離れた所から来たのか…。どうりで道に迷ったわけだ。


「また随分と離れた所から来たんですね」

「うん。どうせなら遠くのほうがいいかなって」

「でもどうして紫陽花公園前に?」

「んー。そこは何となく?」


何故に疑問形ですか。また得意の直感というやつなのかもしれない。

そんな会話をしているうちに市立図書館のある駅に到着し、僕達は電車を降りた。


図書館に到着した僕達は入口から左側にある料理関係の本が揃うコーナーへと向かった。

僕が本を選んでいる横で、桐谷さんがにこにこしながら僕を見ている。


「どうしたんですか?そんなににこにこして」

「だって藤堂くんの顔が凄く真剣だから」

「そんなに真剣でしたか?もし何か見たい本があるなら他を見てきてもいいですよ?」

「ううん。ここで一緒に見るから大丈夫だよ」


そんな会話をしながら僕と桐谷さんは一冊ずつ本を手に取り、テーブル席へ向かった。

この図書館は座って本を読めるスペースが沢山あり、一般席の他に、キッズ専用、学生専用、予約席等も用意されている。


「ねえねえ見て見て藤堂くん。このお肉美味しそーう」


桐谷さんが僕に本を見せて何やら興奮している。

よだれでも垂らしそうな勢いだ。

どんな本を見ているのかと思って見てみると、

【肉の大辞典・部位別編】

…なかなか良いチョイスをしている。

桐谷さん…可愛いらしい見た目には似合わず肉食なんですね。今度美味しい肉料理を作ってあげよう。


そんなやり取りをしていた時。


「こんにちは藤堂くん」


僕は本を読んでいた視線を声がするほうに向けてみる。


「ああ、こんにちは戸塚さん」


彼女の名前は戸塚麻衣とつかまいさん。この市立図書館に勤めている女性で、僕が何度か利用しているうちに知り合ってからは色々とお世話になっている。

とても綺麗な黒髪が良く似合う上品な雰囲気のお姉さんだ。


「今日は可愛い彼女さんとデートかな?」


戸塚さんが桐谷さんを見てとんでもないことをを言ってきた。


「いや…そうでは…」

「はいっ!今日はデートなんですっ」


僕と桐谷さんの声が重なる。

いきなり何を言いますか君は…


「藤堂くんにこんな可愛い彼女がいたなんて知らなかったな」

「そんな…可愛いだなんて~」


照れる桐谷さんとそんな桐谷さんを見て微笑む戸塚さん。いやいやお二人さん…違うんですが…。


「桐谷燈です。よろしくお願いします」

「戸塚麻衣です。よろしくね燈ちゃん」

「麻衣さんって呼んでいいですか?」

「いいよー。ほんとに可愛いね燈ちゃん、へぇー。藤堂くんにこんなに可愛い彼女がねぇ」


目の前の二人の会話に付いていけない僕。

もう勝手にしてください…。


「じゃあ、デート楽しんでくださいね。燈ちゃんもまた遊びにきてね」


戸塚さんはそう言うと仕事に戻ってしまった。

横で桐谷さんが手を振って見送っている。

その隣で固まる僕…。


「桐谷さん…」

「えっと…なんとなく?」


なんとなくじゃないでしょうに…。

そんな「てへっ」みたいに可愛く言っても駄目です。


「まったく君って人は…」

「えー。だってこれってデートじゃない?それに一緒にいきますか?って誘ったのは藤堂くんだもーん」

「む…」


もう何を言っても負ける気がしたので、これ以上この話題を続けるのはやめておこう。

言えば言うほど追いつめられる気がするし…。


その後、僕達は何冊かの本を借りて図書館を後にした。


「せっかく電車で来ましたし、昼食はどこかで食べていきましょうか」

「さんせーい!藤堂くん藤堂くん!私お肉がいい」


肉の大辞典なんて見ていたから胃袋が肉を欲するんですよ桐谷さん…。彼女の胃袋は肉以外受け付けてくれなそうだ。


「まあ、たまには昼から贅沢してもいいかもしれませんね」

「わーい!お肉お肉」


ぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ桐谷さん。よっぽど食べたかったんですね。

それにしても桐谷さんを見ていると、とても同じ年齢には見えない。なんだか可愛い妹が出来たみたいな感覚だ。


しばらく歩いていると桐谷さんが何かを見つけたようで、指を指している。


「藤堂くん!あのお店がいい!」

「どこですか?」


僕は指された方向を見る。


【世界の焼肉大王】


「……いいんじゃないでしょうか」


相当怪しい気がするのは僕だけでしょうか…。

しかも世界とは…君は誰と戦うんだ焼肉大王…。

完全にフリーズしている僕を置いて、桐谷さんはもう店に入ろうとしている。


「藤堂くんはやくはやくっ」

「大丈夫ですよ。そんなに急がなくてもやきにくだいおうは逃げませんから…」


自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた僕。もうどうにでもなってしまえ。


店に入った僕達は奥のテーブル席へ案内された。

意外にも店内は混んでいて、空いている席も残りわずかだったようだ。


「結構混んでますね」

「きっとお昼だからだよ」

「まあ、そうなんですが…」


桐谷さんはきっと店名に何の疑問も感じなかったんですね…。


「わー。お肉いっぱいだよ藤堂くん」


メニューを広げながら目を輝かせている桐谷さん。


「とりあえず牛タンは外せないですね」

「ぎゅうたん?」

「牛の舌ですよ。食べたことないですか?」

「うん。だって焼肉って初めてきたんだもん」


これには少し驚いた。僕達ぐらいの年齢であれば、ちょっと贅沢する時なんかにはまず焼肉。ぐらい身近なものだと思っていたが。


「初めてなのに焼肉で良かったんですか?」

「お友達に聞いたことあったから来てみたかったの」


桐谷さんの焼肉デビュー戦ということもあり、とりあえずスタンダードなメニューのいくつかを注文することにした。

こうしてメニューを見て見るとなかなか豊富な品揃えだ。希少部位なんかも置いてあるところを見るとなかなか拘っているようだ。



「はい、焼けましたよ」

「もう焼けたの?」

「あまり焼き過ぎると硬くなってしまいますからね。中が赤いぐらいがいいと思います。まあ、好みにもよりますが、僕は限りなく生に近いほうが好みです。でも生といっても冷たいままでは駄目なんですよ?火が通るギリギリの所でないと…」


僕が説明していると桐谷さんがクスクスと笑う。


「どうかしましたか?」

「だって、藤堂くん料理のことになると凄く真剣だし、いつもよりよく喋るから」

「ああ…すいません。つい…」

「ううん。そんな藤堂くんって嫌いじゃないな」


その後僕達は食事を終えて店を出た。


「あうー。もう食べられないー」

「あんなに食べるからですよ」

「だって美味しいんだもん…」


確かに美味しかったな。肉もかなり上質なものだったし、ガスではなく備長炭を使用していた。

世界の焼肉大王…胡散臭い店名と侮っていたか。


その日の夜ー。家に帰った僕達は昼食を食べ過ぎたせいか、二人ともあまりお腹がすいていなかったので、夕食は帰りに買ったケーキと紅茶で済ませることにした。


「明日は学校ですね。桐谷さんは何時ぐらいに家を出る予定ですか?」

「あ、明日はそんなに早くないから」

「そういえば桐谷さんの学校はどこら辺なんですか?」

「え?あ、藤堂くん大変!もうこんな時間だよ?早く寝ないと」


桐谷さんは慌ただしく自分の部屋へと向かった。

何だかはぐらかされたような…。

時計を見るとまだ21時だった。小学生でもあるまいし…。


仕方ない…僕もそろそろ部屋に戻ることにしよう。


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