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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
3/13

第3話 昨日約束したじゃないですか

カーテンの隙間から差す光で目を覚ました僕は、まだ眠たい目を擦りながら洗面所へ向かう。


ああ、そうか…昨日から同居人がいるんだったな。

洗面所に置いてある新しい歯ブラシを見て、改めて昨日の出来事が夢ではなかったのだと気付く。


気持ちを落ち着かせる為に、とりあえず冷蔵庫からお茶を取り出して、それを一気に流し込んだ。


一晩経って冷静に考えてみたら、とんでもないことを了承してしまったものだ。まあ、こうなってしまっては今更どうしようもないのだが。


いつものように米を洗って炊飯器のスイッチを入れる。

冷蔵庫に玉子と豆腐があったし何とかなりそうだ。


今日の朝食は豆腐と葱の味噌汁とだし巻き卵にしておこう。


だし汁と卵を混ぜ合わせ、角型のフライパンで形を整えながら焼いていく。

と、部屋のドアが開く音が聞こえた。


「あれ?藤堂くんおはよぉ…」

「おはようこざいます」


挨拶と同時に桐谷さんが凄い勢いで近づいてくる。


「おっ…と。桐谷さん。今は火を使ってるんですからそんなに勢いよく近づいてきたら危ないですよ」

「わあー美味しそう!お腹すいたぁ」

「すぐに焼けますから、顔を洗ってきてください」

「はーい」

桐谷さんはそう言うとパタパタと元気よく洗面所へ向かった。


「「いただきます」」


桐谷さんと向かい合いながらの朝食。

昨日までとは全く違う雰囲気だ。やはり食事は1人で食べるより誰かと一緒に食べたほうが美味しく感じる。

向かい合う桐谷さんは小さな口で一生懸命ご飯を頬張っている。なんていうか、雛に食事を与える親鳥の気分だ。僕が見つめていると「ん?」なんて言って首を傾げている。


「おいしかったぁ。ごちそうさまでした」

「いえいえ、買い物をしてなかったのでたいしたものはできませんでしたが」

「ううん。凄く美味しかった」


食器を片付けながら桐谷さんは満足そうに微笑む。

が、すぐに俯いてしまった。


「どうしました?」

「私は…料理出来ないから…」

「そんなこと気にしなくても大丈夫ですよ」

「だって…一緒に住んでるのに…」

「昨日約束したじゃないですか。面倒見るって、だから気にしなくていいんですよ」


僕がそう言うと桐谷さんは少しだけ笑った。



朝食を終えた僕達は予定通り買い物に出掛けようということになった。

とりあえず駅前のショッピングモールで十分だろう。あそこにいけば大抵の物は手に入る。

バイトは休むつもりだったのだが、週末で忙しいからと店長に言われ、午後から出勤することにした。


ショッピングモールに到着した僕達は先ず洋服を買うことにした。

桐谷さんは昨日着ていた白のワンピースしか持っていない。とりあえず色々な店をまわって何点かの服を購入した。


その後、生活に必要な細かい物や食料品を購入するため、散々歩き回った。


「さすがに疲れましたね」

「ごめんね。色々付き合わせちゃって」


ひと通り必要なものは購入した為、休憩しようということになり、施設内にあるカフェで休憩中。


「色々買いましたけどお金は大丈夫なんですか?」

「うん。昨日も言ったけど、お母さんから協力してもらってるから」


と言って笑顔を見せる桐谷さん。

一体どれだけの協力を受けているのだろうか…。

今日買った服だけでも相当な金額のはずだ。

まあ、そこは僕が心配するところではないか。


「そういえば桐谷さんも高校生だと言ってましたが、月曜からはきちんと通えるんですか?」

「あ、それは大丈夫…かな」


なんだか曖昧な返事だけど本当に大丈夫なのだろうか?


僕達はその後、少し早めの昼食を取り、帰宅した。


「じゃあ、僕はバイトに行ってきますので何かあれば携帯に連絡してください」

「うん。何かあったら連絡するね」

「一応合鍵は渡しておきますから、出掛ける時は戸締りだけよろしくお願いします」

「はーい」


そう言い残して僕はバイトに向かう。

昨日まで全く知らなかった人に合鍵を渡す不安はあったが多分大丈夫だろう。それこそ彼女が言う直感というものだろうか。


「おはようこざいます」

「おう総司。昨日はあの彼女をお持ち帰りか?」

「まさか…きちんと駅まで送りましたよ」

「本当かー?今日の午前中は何してたんだ?ん?」

「すいません。ちょっと用事が出来ただけです…」


やっぱりそうきたか。ある程度突っ込まれる覚悟はしていたが…知られたら色々と面倒だし、話をするのなら桐谷さんの許可も必要だろうからまだ店長には言わないでおこう。

何かあった時は色々と協力してもらわないといけないこともあるかもしれないが、それはその時に考えるとしよう。


いつものように店長とコーヒーを飲みながら休憩中、相変わらず店長からの質問攻めにあう僕。


「で?何だったんだ昨日のあの娘は」

「道に迷ったみたいですよ」

「それでただ駅まで送ってきたのか?」

「ですね。でも一応連絡先は聞いておきました」


いずれここに連れてくることもあるだろうから、連絡先ぐらいは交換したことにしておいたほうがいいだろう。


「なんだ、結局口説いたんじゃねぇか」

「そんなんじゃありませんよ」


その後も、本当に送っただけなのか。とか、そのあと連絡はとったのか。とか散々聞かれた為、適当に誤魔化すのが大変だった。


バイトを終えた僕は桐谷さんに帰る旨をメールしてみると、どうやら家にいるようだったので少し安心した。心のどこかで彼女がいなくなってしまっているのではないかという不安があったのかもしれない。


「ただいま帰りました」


すっかり1人暮らしに慣れてしまっているせいか、家に誰かが待っているなんて、なんだか久しぶりだった。

ドアを開けてリビングに向かうと、そこには大量の段ボール箱と格闘する桐谷さんの姿があった。


「あ、藤堂くんおかえりー」

「えーっと…この段ボールは?」

「えへへ。昨日の夜お母さんに頼んで色々送ってもらっちゃった」

「それはいいんですが凄い量ですね…」

「なんかあれもこれもって頼んだら増えちゃった」


どれだけ頼んだんだか…。とりあえず夕飯の前にある程度片付ける必要がありそうだな。


そのあと僕も手伝って、1時間程でなんとか片付けを終えた僕達は、遅めの夕食を済ませ、リビングでコーヒーを飲みながらようやくゆっくりすることが出来た。


「やっとゆっくりできましたね」

「うん。ごめんね色々手伝ってもらっちゃって」

「大丈夫ですよ。それにしてもいつの間に頼んだんですか?」

「ん?昨日の夜ね、お母さんに電話して頼んでおいたの」


なるほど。昨日の夜に早速連絡して荷物を送って貰ったわけか。電話をした桐谷さんの速さにも驚いたが、これだけの荷物を用意したお母さんも相当準備が速い。

まあ、家出に協力するぐらいだからある程度荷物の準備をしていたのかもしれないが。


「ということはお母さんに僕と一緒に住むことになったことを伝えたんですか?」

「うん。それは伝えておいたよ」


そんな会話をしていたら、ふと重要な事に気が付いた。桐谷さんのことばかりに気をとられていたが、自分のことをすっかり忘れていた。


僕は1人暮らししていることになっているわけで…

まさか自分の息子が女性と暮らしているなんて知ったら両親はどんな顔をするだろうか…。


まあ、こうなってしまった以上、今更悩んでも仕方ないか。


とりあえず両親には秘密にしておくしかなさそうだ。

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