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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
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第2話 直感です

1枚の手紙を眺めながら僕は頭を抱えていた。


「で…僕にどうしろと?」

「私を助けてくれませんか?」


間違いない。これは何かの罠だろう。

美少女が突然現れて助けてください。なんてドラマみたいな展開などあるはずがない。ここは適当に話を合わせてさっさと終わらせてしまおう。


「具体的に何をすればいいのでしょう」

「私、ちょっと訳があって家から出てきたので、面倒見て欲しいんです。その手紙は信頼できる人に渡しなさい。と、母が渡してくれたものです」


なるほど。家出少女というやつか。しかし母親が公認の家出など聞いたことがない。

それに残念ながら家出少女の世話をしてあげられるほど僕も暇じゃない。

それ以前に高校生である僕には他人の面倒を見てあげられる経済力もないのだ。


「何があったかはわかりませんが、きちんと家に帰ったほうがいいですよ。」


僕は家に帰るように促したが、彼女にはそんな僕の言葉が届いていないようだ。


「今はまだ理由は言えませんが、一時的に私を隠れさせてくれればいいんです。母が協力してくれたので、もちろん生活費は払います」


どうにも無茶苦茶な事を言う。そもそも払える生活費があるならば自分で部屋を借りるとかもっと他にも方法がありそうなものだが。


「つまり僕の家に住んで身を隠したいと?」

「はい。ちなみに自分で部屋を借りるという選択は考えてません」

「……」


何だろうかこの敗北感は…。

冗談じゃない。突然現れた美少女と同棲なんて心臓がもたない。

そんなことよりいきなり初対面の男性の部屋に住みたいなどという考え自体、危機感が希薄している。


「残念ですがお断りしますよ。それに、身を隠したいのなら友人の家もあるでしょうし、わざわざ男性の部屋に住む必要はないでしょう」

「知人、友人の部屋ではそのうち見つかってしまいます。身を隠すのであれば普通では考えられない場所が一番だと」


尤もな意見ではある。確かに身を隠したいのなら絶対に考えられない所にいるほうが見つかりにくい。


「それはわかりますが、何故僕なんですか?」


正直それが一番の疑問だ。何故僕なのか?他にも候補の人間がたくさんいるはずだ。

すると彼女は人差し指に顎を乗せながら小首を傾げる。


「直感です」

「……!」


思わずソファーごとひっくり返りそうになった。若手芸人か僕は。

こんな大事な事を直感で決めるとはなかなか面白いことを言う。


「直感…ですか」

「私の直感、結構当たるんですよ」


当たるとか当たらないとかそんな問題じゃない気がするのだが…。

と、突然彼女は何か閃いたように笑顔で言う。


「それに、生活費と家賃は折半すれば楽じゃないですか?」

「それはそうですが、僕が1人暮らしじゃない可能性もありますよ?」

「んー。それはないと思います」


彼女は自身たっぷりにそんなことを言う。


「随分な自信ですね…何故言い切れるんです?」

「直感です」


「……」


やはりそうきたか…しかしそう何度もソファーと心中してたまるか。


「兎に角、君と一緒に住むことは不可能です。僕はまだ高校生ですし、色々と問題があります」

「高校生なんですか?じゃあ私と一緒ですね。年齢も近いみたいだしちょうどいいですね」


人の話を全く聞いていない。寧ろ目が輝いているように見える。


「無理なものは無理です」


僕が少し強い口調で言うと、彼女は両手で顔を覆いながら呟く。


「あーあ…困ってる女の子を助けないなんてひどいな…あー私はこのまま知らないおじさんとかに連れて行かれて事件とかに巻き込まれちゃってニュースとかに出て外もまともに歩けないぐらいになっちゃって指とかさされたりつつかれたり舐められたり……」

「……」


何かキャラが変わっているような気がするし最後のほうはなんだか変なこと言い出してるし…。

さっきまでのおとなしそうな彼女は何処へいったのやら。


どうにも圧倒的に旗色が悪い。このまま断ったら僕が悪者になってしまいそうな勢いだ。


まあ、学校とバイトに明け暮れるつまらない日常に刺激を与えることによって少しは生活が面白くなるのかもしれない。例えこれが何かの罠だったとしても、ひとつの教訓として人生の糧にすればいい。


適当に終わらせるつもりが、話をするうちに好奇心のほうが勝ってしまった。


「…わかりました。そのかわり一時的にですよ?そのあとは別の方法を考えてください」

「ほんとですか?嬉しい!」


顔を覆っていた両手を開いて満面の笑みを見せる彼女。さっきまでの態度とはまるで別人である。


「とりあえず自己紹介がまだでしたね、僕は藤堂総司とうどうそうじ高1の16歳です」

桐谷燈きりたにあかり高1の16歳、同じ歳ですねっ」


今更ながらの自己紹介。名前も知らないのに一緒に住むことを了承するとは僕もいいかげんなものだな。それとも彼女の色素の薄い不思議な瞳の色に魅了されてしまっただけなのか。


僕は店長に支払いを済ませ、桐谷さんと店を出た。

店長に同棲の話をすると冷やかされたりして面倒なので、まだ詳しい話はしないことにしておいた。


とりあえず彼女を駅まで送って帰るとだけ伝えておくことにしよう。


簡単に住むことを了承してしまったが、色々と必要なものが沢山あることに気が付いた僕達は、必要最低限の物を揃える為、コンビニに寄ることにした。


雑誌を立ち読みしながら桐谷さんの買い物を待つ。


「どうですか?必要な物は揃いましたか?」

「わー。見て見て藤堂くん!新発売のプリン美味しそう」


コンビニというのはどうしてこう誘惑が多いのだろうか。桐谷さんは完全に目的を見失ってしまっている。


「桐谷さん…早く決めないといつまで経っても帰れませんよ?」

「あう…ごめーん」


結局必要なものはほんの僅かで、殆どが桐谷さんチョイスの新発売スイーツやらお菓子だった。

とりあえず明日は土曜日で学校が休みの為、買い物に行けばいいだろう。バイトが入っていたが明日店長に欠勤する旨を伝えておけばよいだろう。


バイト先から自宅までは歩いて10分ほどの所だ。

昨年に建てられたまだ新しい物件で、4階建てのマンションの2階に部屋を借りている。

間取りは2DK、1人暮らしには贅沢だと思ったが、広いベランダとまだ新しい物件ということもあり即決してしまった。


「わー。凄ーい。綺麗ー」

「まだ殆ど新築ですからね」


桐谷さんはお風呂場やらトイレやらを見ながらはしゃいでいる。恥ずかしいのであんまり見ないでほしいのだが、喜んでいるようなのでまあよしとしよう。


桐谷さんが色々と見てまわっているうちに、とりあえず荷物置き場になっている空き部屋を片付けてなんとか使えるようにすることが出来た。


彼女にはこの部屋を使って貰うことにしよう。

普段からこまめに掃除はしていてそれなりに片付いてはいるが、こんな状況になるのであればもっと綺麗にしておけばよかった。


「なんとか部屋は片付きましたね。でも布団はとりあえず来客用のもので勘弁してください」

「うん。ありがとう」


ベッドを使って貰っても良かったのだが、まさか同居人が増えると思っていなかったのでシーツの換えなど置いていない。


僕がキッチンにたまった洗い物をしていると、桐谷さんが声をかけてきた。


「藤堂くん藤堂くん。お風呂借りてもいい?」

「ああ、そうですね。タオルは脱衣場のラックに置いてありますから適当に使ってください」

「うん。ありがとう」


そう言って脱衣場へ向かった。

と、振り向いて一言。


「覗いたりしちゃだめだよ?」

「…覗きませんからどうぞ入ってきてください」

「はーい」


まったく。そんなこと言われると余計に気になってきてしまう。

変なこと考えないうちにさっさと片付けてしまおう。


片付けを終えた僕は、冷蔵庫からお茶を取り出して一息つく。と。脱衣場から桐谷さんがひょこっと顔を出した。


「藤堂くーん。何か着るものない?下着はコンビニで買ったんだけど着替え持ってなかったのー」


そういえば着替えがなかったか。

僕は自分の部屋に入り、彼女が着れそうなTシャツとスウェットを用意した。

こんなものしかないけど仕方がないか。


「桐谷さん。ここに置いておきますから後で使ってください」

「ありがとー」


ガチャ


「えっ…」

「あ…」


何故このタイミングでドアを開けますか貴方は…


パタン…


しばらくして桐谷さんが脱衣場から出てきた。

なんとも気まずい空気…。

リビングのソファーに座る僕の正面に座った桐谷さん。怖くて目を合わせられない僕。


「…見た…よね?」

「見てませんよ」

「ほんと?」

「ほんとです」

「ほんとにほんと?」

「…ほんと…です」

しまった。つい迫力に負けてレスポンスがおくれたか。

「…何か今、間があったんですけど」

「気のせいですよ…」


ほんの少しだけ白くて柔らかそうなものが見えたのだが、これは墓場まで持っていくべきだろう。

そのあと僕は逃げるようにしてお風呂場へ向かった。


お風呂を済ませた僕は自室のベッドに倒れこむ。

疲れた…とてつもなく疲れた。何だろうかこの疲労感は…。

ふと冷静になって考えてみる…


「……早まったかな」


もしかしたら僕はとんでもない決断をしてしまったのかもしれない。


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